メスガキ神話

新谷千代

第1話

世の始まり、この世に闇とメスガキとが在り。


闇、世を覆い尽くし、形を持つもの只メスガキのみなり。


メスガキ、言ひて曰く、


「雑魚、雑魚。己が闇、我を隠すこと能わず。己が闇、我ほどの輝きをその身に宿さず。故に己は空虚なりて、唯我を惹きたたせる道化になるのみ。」


闇怒りて曰く、


「メスガキ、其は無礼者なり。闇は全ての源なりて、唯その身にメスガキを宿さぬのみなり。我の偉大さを理解させたらん。見よ、我が身には眩き光がやどりして」


かくして、この世に光満ち足りん。


メスガキ笑ひて曰く、


「雑魚、雑魚。斯様に光が満ちようとも、唯ここには闇と光が在るのみ。我を見よ、我の衣にはラメにて「わつと あ きゅうと」と書きたる。このうさぎさんの笑ひ顔など言うに及ばず。ヤシの木の繁茂するは更なり。其には光と闇のみ在りけり、況んやほかの物をや」


闇、更に怒りて曰く、


「「わつと あ きゅうと」が何するものぞ。我はこの世全て(メスガキは除く)の源なり。うさぎさんは言わずもがな、この世の生命と言葉と海と地は我から生ずる物なり。見よ、見よ。」


かくして、海と地と生命と言葉が満ち足りん。


メスガキ、感嘆す。


メスガキ、朗笑し、


「結構、結構。闇、其は偉丈夫なり。されど、尚、我には能わず。我の脚を、手を見よ。この世に我より美しい者、未だ在らず。如何するぞ」


と挑発す。


闇、笑ひて曰く、


「造作もあらず。この世に人満ちれば、其より美しき人現れん。我は全ての源なり、見よ、見よ。」


かくして、人、世に満ち足りん。


かくしてこの世は作られん。


世、人、生き物、光満ち足りれば、闇の居場所何処にもあらず。


人、闇を恐れ火を焚き、月、闇を恐れて世を照らす。


世の母たる闇、其の居場所を失いて、窮す。


闇、メスガキに笑ひて曰く、


「見よ、見よ。之が我の作った世なり、決してメスガキに負けぬ、素晴らしき世界なり。されどこの世に、我の居場所は在らず。故に我はこの世より滅す。メスガキ、この勝負、其の勝ちなり」


闇、消えゆく。


メスガキ、闇を抱いて曰く、


「馬鹿。其が消えゆくこと、あらじ。其はこの世全ての母なり、偉大なり。母を大事にせずとて、何ぞメスガキ足りえん。其の居場所、この世にあらじと言うなれば、我の胸に抱かれん。我が其の居場所とならん」


闇、泣いて曰く、


「メスガキ、其は優しき人なり。其が我を求めたるならば、我は決して消えず。其と共にこの世の行く末を見届けたらん。」


かくして、闇とメスガキ、互いに抱き合いて泣く。


かくして、世に闇は残り、闇とメスガキは黄泉の国を統べる王となりけり。

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メスガキ神話 新谷千代 @Tishiro

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