ACT.4
24 浸食:Erosion
墜落した“流星”。
それはマイクロ波発電所の受信タワーの下の建屋を半壊し、突き崩す形で落着し、突き立っていた。
その歪んだ六角形をした、全長五メートルほどの棺のようなそれは、
辿り着き、接続し、そしておそらくは夢を観ていた。
意識のない
それは無数の枝を蔦のように伸ばし、マイクロ波の受信タワーを覆い、周囲の建造物を這って、ゆっくりと周囲の森の奥、山の中へと伸び始めていた。
浸食している。
それは徐々に成長していた。
「ようやく、辿り着いてみれば……なんだ、これは……」
その傍らに肩ほどまでのストレートの深緑色をした髪が顔の左半分を覆い。頭の右半分は剃り上げられて、それを銀色に輝くクロームが覆っている。
その男は
その肩には掌ほどの大きさの、黄金の骨で出来た蜘蛛が張り付いている。
「本体の意識がないのに、デーモンAIが実体化して……これは、周囲のセンサ・ネットを浸食しているのか? それにこの
男は
「――そして分からないのは、カドクラの次女がどうしてこんなところまで、自ら直々にお出まししているのか……って事だ」
男はゆっくりと振り返る。
その視線の先には
「
傍らに立つヴァレリィは抱えていたマキシを地面に降ろし、奪った
「
マキシは
身体はもちろん、
「そいつはM4シリーズの試作機……だったかな? たしか、こいつの初期型だ。合っているだろう?」
「お前がスリーパーズか?」
「そうだけど……僕たちは
マキシの位置からは、その犯人が辛うじて見えた。
さっき
そうすることで
「ほう?」
ヴァレリィをあっさりと無力化したその男に、
彼女はマキシの記憶の通りであれば、二十年前からこうだ。
二十年前のヴァージョン・アップ紛争で心を失っていた。
「おや? 動じないのかい? 腑抜けた企業の重役とはいえ、ヴァージョン・アップ紛争を指揮した女傑の名は伊達じゃないね」
「……よく喋るのは、気を逸らすためか?」
「……なんだと?」
「まさか……M4の腕を切り落としたのは、そっちの軍人じゃなくて、お前の方か?」
「そうだと言ったら?」
「クク……ハハハハ、面白い。それは面白いよ
大げさな身振りで、
「何がおかしい?」
「これが可笑しくないわけがないだろう? お前はカドクラの次女、この国の五本の指に入る人間だぞ。そんな遥か高みに居る人間が……クハハハハ」
ひとしきり笑った後、その赤い瞳を再び
「それが
その様子を対照的な、詰まらなそうな表情で、
「企業の重役は、
「だってそうだろう? 僕たちが現場で血とオイルに塗れている間も、オフィスで踏ん反り返っている連中がお前たちだ。だってそうだろう? 僕たちに
やはり神経質に右頭部の金属部品を小突く。
「だが、お前は違う……
その言葉に応えるかのように、チキチキと音を立てて
「それは種だよ、スリーパーズ。カドクラを……いや、世界のルールを作り変える種だ」
内に秘めた狂気の度合いでは、なまじ元より力を持っていただけに、
最愛の人を二度失った彼女は、その世界の誰もが欲しがるであろうカドクラの次女というその椅子を興味なく蹴倒すに至り、この世界に復讐すると、淡々とそう心に決めていた。
己などは既に滅し、準備し、計画し、実行するマシーンと化している。
そう、マキシには記憶されていた。
マキシも、
あのまま【
センサ・ネットに溶けてしまう。
「動け……動いて……」
マキシの身体は金縛りのように痺れて力が入らない。
まるで自分の身体ではないようだった。
元よりマキシに“自分の身体”などはない。それを思い知らされていた。
「種? ……種だって? ちょっとまて、まてよ、まてまて……それじゃあ、なにか? この
「そうだ。デーモンAIを使っているのなら、知っているだろう? お前たちに分け与えられた
彼女の愛したそれは、すでにヒトではなかった。
「
その言葉にも反応してか【
辺り一面は最早【
「
形を与えられた蜘蛛は、男の腕を伝い、体を這い廻った。
一匹だったそれが、ゾロリと増えて、無数の蜘蛛が男の身体這い回り始める。
「この頭の中でクソ喧しいデーモンどもを、ニュートウキョウの人間全員の頭の中に植え付けるつもりか!」
「――お前のイカれた頭の中を隅から隅まで犯してやるぞ、
――ギィィィンッ!
いくつもの切断音が、一つに重なって聞こえる。
飛び掛かり、そして一瞬に、すべての蜘蛛が断ち切られ、赤い粒子へと還っていった。
「なん――」
止まっていた
「なんなんだ、お前のソレは!」
正体不明や不意打ちは得意とするところだったが、逆に“正体不明の攻撃”を突き付けられ、
「……
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