16 テイクダウン:Takedown
エア・ビークルを追って、
ランプを降りると郊外のアパートメント地帯が広がっていて、背の高い分譲住宅群で一度見失うが、そこを抜けると、その先にはニュートウキョウの外食産業が管理する巨大な農業プラントが広がっていた。
その中央を貫いている道路へ入る。
開けた土地と最先端サンルーフ・ハウス以外、管理棟ぐらいしか建物のない農業プラント・エリアで、
道は山中に続いていて、その峰には、木々を切り開いて建てられた、巨大な電波塔のようなものが等間隔に並んでいる。
「もっとスピードは出ないの?」
「さすがにエア・ビークルのスピードに付いていくのはキツいっスよ。向こうは空飛んでるんスから」
天井を開け、身を乗り出してエア・ビークルを睨み続ける。
「おい、あれ、スピード落ちてンじゃないか?」
「めいっぱい踏んでるっスよ」
「いやコッチじゃねえ、エア・ビークルの方だ」
ロードビーストが農業プラント・エリアを抜け、山道に差し掛かった頃、エア・ビークルの方で異変が起きていた。
速度が落ち、飛行中だというのに
その様子をよく見ようと目を凝らしたところで、山に生える背の高い木々に視界を遮られる。
「クソ、木が邪魔だ。なンか揉めてるみたいだったぞ」
「正面、何か光ったっス」
「咲耶……――きゃ!」
アスファルトでタイヤが削れたその跡を、銃弾が列を成して上書きした。
「いい勘してるよ
「ライフル弾だね、DT17マサムネ」
流れていく道路の弾痕を解析したのか、マキシが言う。
「DT17マサムネってと、カドクラ製のアサルトライフルじゃねえか……やっぱり逃げときゃよかったな、どうだ
サングラスを直しながら、
返ってきたデータを照らし合わせると、木の幹に何かのガジェットで張り付いている
『あのわざわざ着てる忍者衣装と合致するのはカドクラのクロハバキ
「
『そういう意味だと、
「陣笠の旦那はいいンだよ、ウチは借りがあるかンな」
『そういうもん?』
「そういうもンだ」
「追って来てないっスか?」
サイドミラーやバックミラー、それにセンサ・ネットの車外映像を確認しながら、
さすがに立て続けに銃撃されて、神経が逆立っているようだ。
「あれは見張りで、撃ってきたのはたぶん警告だ。どうも、山ン中はカドクラの縄張りだと言わんばかりだな」
「このまま、車で移動するのはマズいんじゃないっスか?」
「違いない。どうするマキシの嬢ちゃん?」
「車で追えないなら“流星”のところに先回りするか……」
「それでいこう。
『二キロ先に、マイクロ波発電所建設に従事した作業員の住居跡があるわ』
「マイクロ波発電所? なンだそりゃ」
『見えてるじゃない、そこに』
「あの電波塔みたいのがそうだよ。スピンドルのソーラーパネルで宇宙太陽光発電した電力を受信する施設だね」
マキシが山の中を切り開いてそびえ立つ、巨大な塔を指さして言った。
「へえ……スピンドルってのは、偏屈な学者が住んでる街だって、陣笠の旦那からは聞いていたが、電気まで作ってンのかい」
「逆だよ
「まあ、なンだ、その宇宙で作った電気の受信施設があの塔で、
「一先ず、車に
そう言って、マキシが車に触れると――バリッ、と帯電し、車体にノイズのようなモノが走って見えた。
周囲に発光した
「【
「それなら【
マキシがそう言うと、すぐに車に笠になるように光学迷彩のヴィジョンが現れた。
ロードビーストはそのまま、ナビの指示通り、山林の合間に造られた二階建ての集合住宅地へ入る。
目聡くシャッターの開いたガレージを発見した
「ふう……それじゃ、自分はココで待機してるっスよ」
「すまねえな。帰りも頼みたいところなンだが、追手が来たら、俺らのことは放ってサッサと逃げろ」
ハンドルに寄りかかってグッタリしている
先に降りたマキシを探すと、彼女はガレージの隣の二階建て分譲住宅の屋根の上で、空を見ていた。
「
そのマキシが、空を指さして叫ぶ。
見れば、
次の瞬間――
空がひび割れたような黄金が走り、そこに雪の結晶が咲いた。
空に突如咲いた雪の結晶華は、ミサイルを捉え、凍結し、上空に、まるで時を静止したような光景が広がっていた。
「なン――」
その幻想的な光景が目に焼き付く暇もなく、今度は起爆した無数のミサイルの炸薬が彩る真紅の爆炎が空に咲いた。
「――迎撃したのか? センサ・ネット・アプリだが、金色の実体に見えたな。今のもデーモンAIか?」
「【
そう言ってマキシが【
「おいおい、サイボーグのスピードに追い付けってか……こっちは言う程サイバーウェアは積んでねえンだぞ。荷物もあるし」
ぼやきながらもスーツケース片手に【
マキシは加速を付けてから飛び上がり、山の木々の幹を
尾根に上り切ったところで、マキシは電波塔の袂、開けた場所に出て着地。
幸いクロハバキや、カドクラの部隊の姿はない。
「どうした嬢ちゃん」
開けた場所に出たお陰で、エア・ビークルが良く見える。
爆風に煽られて安定を欠いていたものの、今は制御を取り戻しているようだった。
「走ってたら間に合わない――」
――カタカタと、古めかしいコンソールを叩く音が聞こえた。
それを聞いた、
マキシの背後にプラズマが収縮し、赤熱した一つの塊となり、やがてそれは冷えて一つの黄金色の骨となった。
骨は瞬く間に増殖し、チキチキと音を立てて組み上がっていく。
夜に見た、ヘラジカの骸骨だ。
黄金の骸骨が姿を現すと、今度は急激に空気が凍結した。
そして今まさに、ヘラジカの骸骨はその氷壁を外皮のように纏い、地面と空気を凍結させて姿を現した。
ヘラジカの大きな角の間には、既に蒼いプラズマが高出力で集束しつつあった。
「おいおい、嬢ちゃんまさか……」
「撃ち落とす――【
――プラズマが大気を焼く轟音。
夜に【
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