7 エア・ビークル:Air Vehicle
向かった先は屋上、エア・ポート。
そこにはすでに社用の
いつでも発車できるよう浮遊しているエア・ビーグルの風と音は相当なものだ。
そのために風と音は、古いローター型のヘリと大差はない。
ローターが
「現場はどこです?」
風音に負けないよう大きな声を出して聞くと、
武骨な軍用装甲の張られた外装と異なり、中はさながらリムジンのような内装が施されていた。
豪奢な内装に対して戦闘用の陣笠と外套が場違いなことこの上ないが、
「君が、スピンドルから来たという
中に乗っていたのは
長い黒髪。流行り好きの
その隣には
纏っている雰囲気は
シェードグラスは、
クライアントだったなら大惨事なので、いきなり【
「社外向けには、そういう肩書になってるらしいですけどね……せいぜい
陣笠で視線を遮って、自分の首を指さす。
ちらりと
それから改めてスーツの女性の方をみて、彼女をクライアントか何かだと思っていた
「……
フルネームを呼び、慌てて敬称を付ける。
「フフ、そんな大げさな呼び方でなくていい」
「なんで社長が……いや、クライアントかと思ったもので」
「面白い
陣笠のことを聞かれるのは、これで今日二度目だ。
「コレは仕事用です。陣笠は
「いいのか? 商売のタネを、簡単に明かしてしまって」
「……そうですね」
受け答えが面白かったのか、上品に笑う。
「――それで、仕事の内容は?」
陣笠の陰に表情を隠して座席に沈み込み、これ以上遊ばれる前に話を促した。
「ヴァレリィ」
映像は、望遠で撮影された、山中に墜ちたと思しき落下物
これが昨晩の流星なら、場所は御岳の山中――
表示されたスケールを見るとサイズは縦五メートル弱、幅二メートルほどの円筒形の物体。それが木々を薙ぎ払い、小さなクレーターを作って地面に刺さっていた。
想像していたよりも随分と大きい。
だがそれよりも
「これは
「わかるのか」
シェードグラスの男、ヴァレリィが感心して唸る。
「昔、スピンドルの研究所で実物を見たことがありますから……あ……いや、コレは言って良かったのか……?」
「スピンドルは立場上、三大経済圏による合弁会社だから、製造と開発の権利は有しているが……あまり口外しないでくれると助かるな。
「ああ、まあ……そうですね」
スピンドルに居た頃は、地上では機密に指定されるような資材や機材が当たり前のようにそこらに転がされていたから、自分の感覚が少しズレていたことを思いだし、口元に手を当てた。
現在、これらの建造の権利を有しているのは、三大経済圏の主要な先進国家と、大手の
この権利を保有することで
それは現在の巨大企業が実効支配する社会の形作った原因とも云われ、そのことから
「その口ぶりだと、これは未登録の……ということですか」
「それも、カドクラや
流星の正体は、スピンドルが独自に開発したと思しき
そうすると、
「オレは、疑われている感じですかね?」
「端的にいえば、そうなるな」
おそらくはハイ・クラスの
「しかし、宇宙にしか興味がない変わり者……その寄り合い所帯がスピンドルですよ。地上に何の用が?」
それは、半分は
もっと言ってしまえばあの宇宙コロニーの住人は、世界の広さを光の速度にまで圧縮してみせた粒子センサ・ネットワーク網すらも、権力闘争の道具にしている地上の住人に嫌気がさし、見下している節がある。
彼ら、というより、
「たしかに動機はハッキリとしないな。私もスレイプニル社のことはいくらか知っているが、開発したのが連中だとしても、それを地上に墜としたことは不可解だ」
そこで
だが、その逡巡も一呼吸ほどのことで、ビジネスマンらしく無音の間をきらい、すぐに言葉を続けた。
「――なにせ……君の父上も、亡くなった君の母上も、カドクラに用意されたポストを蹴るような人間だからね」
「知って……居たんですか」
「名に違わない実力を聞いて、直ぐに、念入りに調べさせたさ。パーソナル・データのトラッキング・ルートに仕掛けてあった
そう楽しそうに言う
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