トウキョウ・サイバー・デーモンズ2124【Tokyo Cyber Demon's 2124】
中村雨
第一部 トウキョウ流星:Tokyo Meteor
ACT.1
1 鹿賀咲耶:Arch Wizard
星暦二一二四年。
同じ加盟国家の
その街は
この
ありとあらゆる闇と影が跋扈し、表と裏の目論見が交わるマグマ溜まり。
しかしニュートウキョウは表面上、打算的、結果的な平和を謳歌している、そんな街だった。
その
丁度その空を、テレスコープAIアプリで
前髪の三分の一ほどが白髪の、若い男。
「流星……?」
その男、
「スピンドルの周回周期と一致してる。
センサ・ネットの速報系アングラ・サロンには、矢継ぎ早に怪しい流星の情報が書き込まれている。
落下から約二分で既に一スレッドを消化し、次のスレッドが複数建てられている。
「
超望遠テレスコープAIアレイの焦点座標に新たに数値を打ち込むと、
アングラ・サロンに寄せられた情報によれば、それは天体の欠片ではなく人口の流星。衛星軌道よりも更に上空、
その情報は観測写真と共に、即座に粒子センサ・ネットワークを駆け巡り、小一時間ほどでアングラ・サイトに
それらの状況をセンサ・ネットで追い、一連の情報のバックアップを取り終えた
流星を見たのは二十一時前。気が付けば日付は変わっていた。
「スピンドルからの流星……ね……」
スピンドル。懐かしい名だ。
生まれ故郷だった。
そうして暮らしていた。ニュートウキョウに比べれば陰気臭い街だ。質素な暮らしぶりの、頭の固い学者の街。両親は二人とも研究者で、あまり家庭を顧みなかった。
寂しさはあったが、若い
だが十五の夏、母が急逝し、その事で父はますます研究にのめり込んでいった。
若い
十六の誕生日にスピンドルを離れ、
幸いなことに、スピンドル製の
天体観測はそんな手持無沙汰で始めた趣味だった。いつも宇宙の話ばかりする父を嫌っていたはずなのに。
そんな郷愁を拭うように、地上ニュートウキョウの生活で身に着けた思考ルーティンが、集めた情報の分析を始める。
「スピンドルからの落下物。流星の規模からいってかなりデカい。当のスピンドルは沈黙。何かあったか。オレみたいな地上を夢見た若者の暴走、ってわけでもなさそうだし……そうすると、まあ……キナ臭いな……」
そこへ、プライベート・サロンに通話の通知。匿名。
咲耶のプライベート・サロンにアクセス出来る時点で、知り合いか、それとも居留守の類に意味がない相手だ。
「どちら様?」
「やっほー
通話に現れたのは、少女のバーチャル・アバター。
本人曰くは『美少女』らしい。
以前「美人に見えるかは人に寄るだろう」と言ったことがあったが、その答えは、統計的な美的レベルを指しているのではなく『美少女』というデザインを指しているので、好みに合っても合わなくても『美少女』と呼称するのがマナーだそうだ。
しらんがな。
といった具合に懇意にしている
「なんだ、
息を吐いて、再び脱力。チェアの大きな背もたれに体を鎮めた。
五時間近くセンサ・ネットに潜って情報を集めていたので肩が凝って、
ネットワーク・チェアは首の
人間工学に基づいて首や肩への負荷を減らす構造をしていると謳う高級品で、長時間体を預けても首や腰が痛くならない。下手なベッドより快適な位だ。
「なんだとはご挨拶だね。おもしろい情報を持って来てやったのに」
「スピンドルから墜ちた流星の話なら間に合ってるぞ」
「めずらしく耳がはやいじゃん」
「耳じゃない、目だ」
「目?」
「アングラ・サロンに最初に流れた映像、一つはオレが撮影して放流したやつだ」
「マジか」
「丁度、天体観測してた時だったからな」
「
「他人からは良く分からんから趣味って言うんだ」
「そうなん? まあいいけど」
「話はそれだけか
「ここからはお金取るけどいい?」
おちゃらけていた
村雨の場合、アバターの表情は表情筋のスキャンではなく、
「まいど」
「それで?」
「その流星事件にはまだ続きがあってね。その三時間後ぐらいに、一隻、
「スピンドルから?」
「そう、スピンドルから。こっちは強力なクロークAIアプリを展開していたらしくて、領域警戒に出ていた、横須賀の
「
「追加料金」
「がめついな」
「それだけの価値はあると思うけどね?」
にやりと笑う
とはいえ、ここで追加料金を取るのは、客を見定める
「で?」
「
「その、
「そう」
「流星を追った
「信憑性は高いよ。そんな偽情報を大量に流す意味がないからね」
「
「別料金、と言いたいところだけど……」
「恩には着てやる、いいから話せ」
『二度目の別料金』は金を取る気はなく、サービスの名目で恩を着せるためにやっていることは、そこそこ付き合いも長いので知っている。
段取りを崩されたことの抗議か、
「最初の流星の正体は謎。どの組織が確保したかも不明だけど、まあ、
「分からんことだらけじゃないか」
「企業の
「……なるほど。それで、オレのとこに話を売りにきたのか」
上目遣いに
「そういうこと。お買い得でしょ?」
「どちらかと言えば、オレが口を滑らせるのを期待して話しに来ただけだろ……まあ、情報は助かったよ」
若いとはいえスピンドルからやってきた
それも粒子センサ・ネットワークを操らせれば最強を誇る
だがしかし――
「……こりゃ明日あたり、会社から呼び出しが掛かるな……だるぅ」
現在午前二時過ぎ。
最強の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます