イケメン教師は反面教師

第6話 イケメン教師は、反面教師 ACT  1

シャワー、シャワー。ああ、朝起きたての躰に、この温かいお湯がかかる瞬間が私の目覚めの時。


こうして朝、シャワーを浴びるのは私の日課。


たまに徹夜明けの母上様が、ほとんど意識を失いながら乱入してくることもあるけど、それはま、仕方がない。

でも裸で抱き着いて「おはよう。りんごちゃん」と、躰を手でそわそわとなぞるのは朝からはやめてほしいい。


そんな事されると、朝ごはん作る時間がなくなちゃう。お弁当も作れないんだよねぇ。

母上様は「親子のスキンシップよ」と、にっこりしながらそう言うけど、この年で親子のスキンシップは別な意味になる気がしてならない。


浴室が湯気で一杯になる。換気扇、換気扇、それでなくてもカビが出やすいんだから。お掃除する側にとってはこの換気扇の威力は心強い味方だ。

頭からシャワーのお湯をかぶると何も聞こえない。


この温かな心地よさと、シャワーの音しか聞こえないこの空間のひと時。このひと時が私の一日の始まりの時なのだ。


「ふぅ―、気持ちいい」

ようやく寝起きの重い躰が目覚め始める。


ふと目に入ったシャンプーとボディーソープのボトル。

私の好みのを使っているけど、そうだみかんはどんなの使うんだろう。

やっぱり、男性用の爽快感のある奴、あんなのを使うんだろうか。だとしたら、ボトルを置く台をもっと大きなものに変えないといけないかなぁ。


本数増えるからね。

今日の帰りに、お店によって買ってこようかな。

中身はみかんの好みもあるだろうから、そこは任せよう。


シャンプーを手に取り、泡立てたシャンプーを優しく髪にのばしながらつけていく。

髪伸びたなぁ。

中学の後半から伸びし始めた髪。


あんまり伸ばし過ぎると風紀の先生に注意されるから、せいぜい延ばせるのはこれが限界か。


そろそろ美容院に行って切ってこないといけないかな。前髪が目にかかってきているし。

このまま伸ばし続けていたらなんかテレビからぬぅ―と、出てきそうな女に見えそう。で、それもまずいんじゃないかと思う。一昔前のホラー、この前ビデオで見たけどかなり怖かったぞ!


思い出しただけでも、なんか寒気がしてくる。


その時だ。ガチャッと、浴室のドアが開いたような気がした。

また母上様が乱入でもしてきたんだろう。


ああ、もう、……。いつもの様に抱き着いて来て、おはようのスキンシップが始まるのか。


「あ、りんご入っていたんだ」

「ん?」


シャンプーで目が開けられない……。でも聞えて来たのは母上様の声とは違う。

で、ここは落ち着いて、消去法。


この家には、私と母上様。そして昨日から同居することになった美柑。

美柑……。みかん……。


ええええええっ! みかん!!


思わず閉じていた目を大きく見開いた。


うん、この場合、自分の為にも目は開くべきではなかった。後悔しても目に飛び込んできた物を見てしまうと、それはすぐに私の頭の中で画像化してしまう。

しかも近距離。


そして目に沁みるシャンプーの泡。

余りの痛さで、足がもつれた。


「あっ!」

「おっとアブねぇ」

今私はどんな状態にあるのか?


がっちりとした、硬い腕が、私の躰を抱き締めていた。

ふんわりと私の洟に抜ける汗の匂い。


躰が密着している。濡れた私の躰が、余計に密着度を高くしている。


「まったくアブねぇなぁ。風呂場で転んだら、たいへんじゃねぇか」

私の躰を抱きしめながら、彼奴はそう言った。

「う、うん。ご、ごめん」


躰が硬直して動かない。だけど意外と叫ぼうとはしなかったのは、どうしてだろう。

不思議だ。


ゆっくりと彼奴の腕の力が抜けていく。


「で、りんご。お前さぁ、いつまでそうやっているんだ」

「えっ、何が?」

「何がって、その、なんだ。お前が今握っているもの、離してもらえると助かるんだけど」


何を握っているというのだ! 私は―――――あ、この手の感触。


物凄く硬くて……。


よろめいた時何かに捕まりたいという、躰の反応が私をそうさせたのか?

そうしたくて、そうなった訳じゃないんだけど。


「ひえぇ――――――――!!!!」


初めて見た。成人男性の、初めて触った。いや、もうすでに触ったと言う表現は生ぬるい。

私の右手はしっかりと握りしめていた。


「あ・い・う・え・お」

壊れた……。私。たぶん壊れたよ。


「あのさぁりんごお前、男苦手だったんじゃねぇのか。早く離してくれるとほんと助かるんだけど、俺もシャワー浴びてぇし」


なんか意外と冷静ていうか、今のこの状況だと男って物凄くやばい状況になるんじゃないのかなぁ。それなのに、みかんてなんとも慌てる感じもない。

「ご、ごめん」

言われるままに手を放したけど、まだこの手に感触は残っている。


ああああ……。心臓が弾け出しそうだ。


て、さぁ……。女の裸見ても何一つ動揺していない此奴って、やっぱり女性拒否症? いや、もしかして女性無関心症? なのでは?


それとも何! 私は女じゃないって、異性の感覚は持てない。あ、そう言う事なのか。

みかんが「俺、女ダメなんです」て言うのは。


女の躰に興味がないって言う事なんだろう。だからこうして今平然としているんだろうけど、いい加減気が付けよ! このもう24にもなるんだから、この状況がどんなにやばいかてって言う事を。


女子高生と風呂場で裸で二人っきり。


しかもだ従兄とは言え、学校の教師になる奴がだ。


落ち着いて来れば来るほど、なんか腹が立ってくる。

シャンプーの泡を洗い流して、無言で浴室を出た。



まだ目に沁みるシャンプーが、かなり痛い。

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