第2話年下の友だち
ところで。
私がまだ小学生の頃、家の近くに友人がいたんだ。同い年ではなくて、家の場所もちょっと離れていたけど。
その友人たちは二組の姉妹弟だった。片方は姉妹、もう片方は姉弟。
姉の方が私の一つ下。妹弟はどうだったかな。覚えてないな。でも、同い年だったよ。
姉は姉同士、妹弟も同い年。彼女たちの家も道路を挟んで向い側。
つまり、四人は仲がよかったんだ。
その中におまけとして私が紛れ込んでいる時がたまにあった。
友人扱いされていたかはなんとも言えないな。でも、私が中学に上がって引っ越すまで何回も呼んでくれた。
一緒に遊ぼうって。
「××ちゃん、いますか?」
実はね。引っ越してからその子たちとは一回も会ってないんだ。だから名前も曖昧で、顔も声も全部が記憶の中でぼんやりとしているんだ。
あの子たち、どうしてるだろうな。
きっと大人になってるんだろうな。
なんでか、その場所のことはやけにはっきりと覚えているんだよね。
その子たちの家は新築で、他にも同じような新品の家がいくつか並んでいた。それは、分譲地というものだったのかもしれない。
すぐ近く、姉妹の家の裏の方には森があった。そう思っていた。
でも、今考えると違う。家が建っていた所が森だったんだ。森を拓いて住宅地を作った。
見えていたのは残りの木たちで、その向こうは崖になっていた。崖っていうのかはわからないな。そこにも木が生えていたし。でも、当時の私は「崖」っていう認識だった。
家が並ぶ区画に入る直前には小さな鳥居があった。その子たちに聞くと、そこにはお稲荷さんがいると言っていた。確かにキツネの石像があったかもしれない。赤い前掛けをした石のキツネ。
私たちは絶対にそこを遊び場として使用しなかった。面白半分でお参りみたいな真似はしたけど。
何であんなところにあったんだろう。
お稲荷さんの側にも森があった。ただ、そこから下に下りることができるくらい緩やかな坂になっていたから、私たちはよくそこを探検した。奥へ行くと竹林に変わって、子どもでも進めないほどではないちょっとしたダンジョンだった。
更に下へ行くとぽっかりと開いた穴があった。人が余裕で入っていける位大きく掘られた穴。入り口には入れないように柵がされていた。
なんとなく、近づいちゃいけない気がした。その子たちのお母さんたちにも行っちゃいけないと注意された場所。
その場所が防空壕と呼ばれる戦争の置き土産だと知ったのは、社会科の授業で暗い気分になったときのことだった。
どんな気持ちで穴を掘ったんだろう。この穴にどれだけの人が逃げ込んだんだろう。
この暗闇の奥は、どうなっているんだろう。
私は一人でよくその穴を見つめた。ただぼんやりと、見つめた。
誰もいないはずの暗闇に、幼い私は何を感じていたんだろう。
見つめるだけで何かかえってくるわけでもないのに、私はただその穴を見つめた。
懐かしい思い出だよ。
たくさん遊んだし、たくさん笑ったし、ケンカもしたし、おやつも一緒に食べた。
もう昔の話だよ。ずっと昔の話。
懐かしい雰囲気だけが心に刻まれて残ってるんだ。じんわりあたたかくなって、過去を思い出して浸る。
だんだん忘れていく記憶の中で、微かに残っているもの。
そういうものが生きていく中で大切な宝物になるんだろうな。
ぼんやりと、小さな子どもの彼らは思い出の中で生きている。
いつまでも。
キレイな記憶の中で。
たまに思い出す。彼らのことを。
あの子たち、どうしてるだろう。
きっと大人になってるんだろうな。
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