第45話 テストを終えて

 あれから、勉強とバイト漬けの日々を過ごし……。


 無事にテスト期間を終えることが出来た。


 そして、その日の帰り道……。






 俺が、いつものように最寄り駅で降りると……。


「ん? ……珍しいな」


 静香さんから、電話なんて……。


「も、もしもし?」

『に、兄さん? 今どこ?』


 何故か、緊張してしまい……相手も似たような反応だ。


「今、駅降りたところだよ……えっ?」

「良かった……まだ帰ってなかった」


 目の前には制服姿の静香さんが……。


「ど、どうしたの?」


 いくら高校に、地元の人が少ないとはいえ……。


「や、約束は覚えてる?」

「うーんと……お弁当?」

「それもあるけど……」

「……ごめん、わかんないや」

「その……旅行行った時に」


 旅行……温泉旅行で何か約束したっ……あっ——。


「ゲームセンター?」

「ふふ、覚えててくれた」

「そういえば、連れてってないね」


 テストもあったし、こっちはこっちで……トシやら藤本さんのことがあったし。


「ねえ、今から行かない?」

「い、今? ……まあ、別に平気だけど」

「じゃあ……いこ?」

「う、うん」


 色々と言いたいことはあったけど……。

 笑顔の彼女を見ていたら、どうでも良くなってきた。





 その後、俺がたまに通っていたゲームセンターに案内する。

 いわゆる商店街のゲームセンターで、古いタイプのゲーセンだ。

 五十円で出来るゲームもあるし、コインゲームもある。


「うわぁ……いっぱいあるのね」

「といっても、古いタイプしかないけど。最新のゲームは置いてないよ」

「私からしたら、どれも新しいものばかりだよ」


 ……そういや、ゲームとかやってこなかったんだっけ。


「じゃあ、好きなの選んで良いよ」

「えっと……じゃあ、あれやりたい」


 彼女が指差す方には……懐かしのゲームがある。


「ああ、あれね。じゃあ、行こうか」

「ふふ、楽しみ」


 静香さんが選んだのは……。

 機種自体は最近もあるけど、入ってる曲が古い……太鼓の達○だ。


「リズムに合わせて叩けば良いんだよね?」

「うん、そうだよ。やったことないんだ?」

「ゲームセンターは贅沢な遊びだと思ってたから。友達とか、制服着た女の子がやってるのみて……羨ましいって思ってたの」


 そういえば、この手のゲームは入り口近くに置いてあることが多いかも。

 それを横目で見つつ……通り過ぎてきたってことか。


「まあ、気持ちはわかるかな。俺も、馬鹿がやる遊びだって言われてたし」

「……前のお母さんから?」

「あっ——い、いや……まあ、そういうこと」


 今更誤魔化すのも無理があるので……正直に言った。


「そうなんだ……」

「ほ、ほら、やろう」


 急いで、五十円玉を投入し……ゲームを開始する。


「好きな曲選んで良いよ」

「う、うん……これかな」


 選んだのは、誰もが知るアニソンだ……名台詞に『逃げちゃダメだ』って言葉がある。

 なんというか……少し、自分に刺さる部分がある。


「わっ!? 早い!」

「自分が思うよりワンテンポ先に打つと良いかも」

「……テニスと一緒かしら?」


 そう呟いた時……劇的に進歩した。

 やっぱり、運動神経は良いらしい。


「おっ、上手い」

「そ、そう? ……楽しい」

「それなら良かったよ」


 ひとしきり太鼓を叩いた後……。


「じゃあ……次は格闘ゲーム!」


 そう言って子供みたいにはしゃぐ彼女を見て……。

 なんだか、胸の奥が温かくなる。


「温泉でのリベンジか」

「そういうこと。今日こそ、最後まで行ってみせる……」

「あれだよね……意外と負けず嫌いな性格だよね?」

「うーん……そうなのかも。以前は、部活をやってたからかな? 実は、テニスを三年間やってて……」

「へえ? そうなんだ」


 そういう話を聞くのは初めてだった。

 というより気づいた……お互いに、ほとんど何も知らないことに。

 俺も母親のことや、中学時代のことは話してないし……。

 彼女も、父親や中学時代の話はしない。


「うん、結構良いところまで行ったんだよ?」

「凄いね。俺なんか、陸上部だったけど全然だったよ」

「えぇ!? その……兄さんって走れるの?」

「おいおい、酷くない? インドアだからって、運動音痴とは限らないよ」

「ふふ……ごめんなさい」


 なんだろう? 何となく、お互いに踏み込まないようにしてたと思うんだけど。

 最初の契約というか……お互いに、適切な距離感という話だったけど……。

 一体……何が、彼女を変えたんだろう?


「兄さんも、たまには運動したら? 私は散歩とかしてるけど」

「ぐっ……言い返せない」

「じゃあ、今度はテニスを教えてあげます」

「えっ?」

「ゲームを教えてくれたお礼ってことで……」

「なるほど……じゃあ、そのうちね」

「それも約束だからね?」

「わ、わかった」


 本当は色々と聞いてみたいけど……それを聞いてどうする?

 どんな答えが返ってくる? それで……また傷ついたらどうする?

 逃げちゃダメか……俺は逃げてばかりだな。


「ねえ、静香さん——」

「な、なに? きゃっ!?」


 彼女がバランスを崩し……俺にもたれかかってくる。


「あぁ? どこ見てんだよ?」


 そこにいたのは厳つい男の人たちだった……。








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