第18話相談

 食べ終わったので、ひとまず店を出ることにする。


 先に彼女を外に出して、俺は鍵をかけて裏に回る。


「店長、どうもありがとうございます」

「なに、気にするな。可愛らしい妹だな?」

「え、ええ……」

「クク、まあ……頑張れよ?」

「へっ?」

「ほら、待ってるんだろ? 夜もよろしくな」

「は、はい。では、失礼します」


(……もしかして、俺の気持ちバレバレなのか? 気をつけないといけないなぁ)




 裏から、外に出ると……。


「お疲れ様」

「うん、ありがとう。また夜から働くけどね」

「偉いなぁ……やっぱり、私も始めようかな?」

「あの……よければ相談に乗るけど?」


(ダメだ……彼女から距離を置きたいのに……感情が拒絶する)


「ほんと? ……それじゃあ、お願いしようかな」

「あんまり人に見られるとアレかな……こっちがいいか、ついてきて」

「う、うん」


(この辺は駅前からは外れてるし、遊ぶ場所もない。この辺りに学校の奴らがいるとは思わないけど、警戒するに越したことはないし)






 そのまま裏通りを歩き、行きつけの喫茶店アイルに入る。


「これは、春馬君。いらっしゃいませ」

「マスター、こんにちは」

「こ、こんにちは」

「おや? ……ふむ」

「妹の静香と申します」

「これは、ご丁寧にありがとうございます。私、当店のマスターを務めております。以後、よろしくお願いいたします」

「奥に座っても良いですか?」

「ええ、もちろんです」




 ひとまず奥に行って、彼女を席につかせる。


「ねえ、物凄くステキなお店ね。レトロな雰囲気だし」

「うん、俺もそう思う。これは偶然なんだけど、吉野先生の行きつけだったらしい」

「へえ、そうなのね。何か、近いものがあるのかしら?」

「どうだろ? あんなに男前じゃないし、似てるのは名前くらいだね。名前の文字に、春か冬かって感じで」

「……そうかしら? 別に、兄さんだって悪い顔してないと思うけど……」

「………へっ?」

「い、一般論だから。友達とかと、そういう話になるし……」


(うわぁ……なに言われてるのだろ? 怖いなぁ……でも、普通に嬉しいな)


「詳しく聞かないでおく……怖いし」

「ええ、その方がいいわ。私も、たまに怖くなるから」


 そのタイミングで、マスターが近づいてくる。

 相変わらず、できた人である。

 白髪のオールバックも似合ってるし、さながら老執事のようだし。


「ご注文は何になさいますか?」

「紅茶とコーヒーはどっちがいいかな? あと、ミルクと砂糖は?」

「私はストレートの紅茶でお願いします」

「じゃあ、俺はコーヒーにミルクでお願いします」

「かしこまりました。それでは失礼します」


 姿勢良くお辞儀をして、華麗に去っていく。


「な、なんか、すごいわね」

「うん、俺も最初は思った。マスターしか名乗らないし」

「本名を知らないの?」

「うん、誰も知らないみたい。年齢も何もかも」

「へぇ……良いわね、こういう店」

「でも、バイトは募集してないみたい」

「そう、それよね……」

「どうして、バイトをしようと思ったか聞いても良い?」

「その前に、兄さんの理由を聞かせてくれる?」

「うん、別にいいよ。まずはお金の面で、親父に迷惑をかけたくなかったから。学校以外の居場所が欲しかったからと、家に一人でいたくなかったからかな。あとは、趣味にお金をかけるためだよ」


(かといって、友達が多いわけじゃないから放課後の教室にはいたくないし)


「そうなのね……私もしたかったんだけど、お母さんに反対されて……」

「うん? そうなんだ?」

「女の人しかいない家族だったから、色々心配だったんだと思う」


(あー、なるほど……ストーカーとか出そうだもんなぁ)


「それは言えてるね」

「あと、家のことをやらなきゃいけないし……今は、四人いるから手分けしてできるけど」

「ふむふむ」

「あと……私も自立したい。もちろん、バイトでどうこうなるわけじゃないけど、少しでも早く……お母さんが安心できるように。だって、ようやく掴んだ幸せだから」

「……そっか。うん、気持ちはわかる」


(俺も親父が幸せそうで嬉しいし。母さんは感情の波があって、自分勝手な人だったから……今度こそ、穏やかな暮らしをしてほしい……つまり、俺の気持ちは隠し通さないと)


「その……兄さんのところは?」

「えっ? ……ラーメン屋だけど?」

「でも、女の子多いよね?」

「まあ……確かに。そういや、今のところ俺だけになっちゃったな」


(店長を除いたら、俺だけか……全然意識してなかったけど)


「わ、私……男子って苦手で……でも、あの人は優しそうだったし……それに、兄さんがいるから。でも……迷惑よね」


(う、上目遣い……! 高まるな、俺の心臓……!)


「いや、そんなことないよ。俺も家族として心配ではあるし、店長も既婚者だしお母さんも安心だと思う。それに、ちょうど人がいないって言ってたし」

「そうなんだ……じゃあ、聞いておいてもらっても良い?」

「うん、わかった。夜も仕事だから、その時に聞いてみるよ」


 そして雑談をしたあと、俺は再びバイトに向かうのだった。

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