好きな人がいるにもかかわらず義理なるドイツ人の姉に迫られて困っています。なお、美人で積極的で同じ屋根の下で二人きりだから余計に困っています(※助けて)

楓原 こうた【書籍6シリーズ発売中】

プロローグ

 中学3年の時、僕に家族が増えた。

 子供が産まれたわけじゃないけど、とにかく家族が増えた。


 というのも、出張で海外を飛び回っているマイファザーが現地妻を捕まえてしまったのだ。

 どうやって捕まえたのか――――この際は別にどうでもいいかな? 


『聞いてくれ息子よ! ついに俺にもドイツ人の嫁ができたぞぉ!!! いやぁ、メリーとの出会いは劇的だったなぁ~! あれはベルリンの夜景が綺麗だった時のことなんだが(※以下略)』


 ……本当にどうでもいいかな。

 誰が悲しくて自分の父親のロマンチックな馴れ初めを聞かなくてはならないんだろう?


 お相手は何を話しているのかさっぱりなお仕事先のドイツ人の女性。

 初めての顔合わせの時の印象は今でも覚えてる――――ただ単に「綺麗だなぁ」って思ったような気がする。

 結婚したから日本に帰ってくるの? そう思ったのだが、どうやら新・マザーと現地でお仕事を続けるみたいだ。

 可愛い可愛い我が子をまだ放置するか、クソ親父。そう愚痴らずにはいられない。


 シングルファザーの家庭にファザーがいなくなれば残すのは未成熟な子供のみ。

 といっても、こちとら一人で育ててもらっている身であることから、愚痴の裏には感謝しかない。


 けど、お義母さんが「可愛い息子を一人になんてさせておけないわ!」と、日本で一人で暮らしている僕の身を案じてくれた。ちょっと嬉しい(※翻訳後)。


 でも、お義母さんも向こうで大事なお仕事がある。

 日本に戻ってきて僕の面倒を見ることは難しいらしい。というより、言語が通じないのに日本でやっていけるか怪しい。


 いよいよ、僕も海外デビューか……何てついていく準備をしていたのだが、どうにもこれから高校に入学するっていうのに転校させてたまるか、と言われた。

 ……一人って、やっぱり寂しいなぁ。


 ――――と、嘆いていても仕方ない。置いて行かれたんだ、僕は大人しく愛読エロ本でも読んで二人の帰りを待っているよ。

 でも、心配したお義母さんは僕のために――――


「ふむ、絶妙な下乳がなんとも……」


 とある休日の昼下がり。

 家事をある程度済ませた僕は、リビングで愛読エロ本を読んでいた。

 自然と鼻の伸びてしまうのは仕方がない。極秘ルートで入手した一品は、それほどまでに思春期男子の本能をくすぐるのだ。


 ――――という感じで、僕は広々とした2LDKのマンションで暮らしています。

 両親もいない僕にとっては広すぎると愚痴を溢したくなる。掃除がめんどくさいんだよなぁ。


 でも、おかげで掃除炊事オールコンプリートといっても過言じゃない。

 今だったら進路希望調査表に『主夫』と明記しても怒られないぐらいだ。


「……このクビレもなかなか。やっぱり、クビレは上と下を強調するために欠かせないものだよ」


 あ、そういえば。

 お義母さんが僕の身を心配してくれた話なんだけど————


「確かに、そのクビレっていいよねぇ~」


「……だよねー。やっぱり、ミラねぇも分かる?」


「分かる分かる~。クビレが綺麗なほど他の部分が強調されるから、どうにもそそられるんだよ」


「……ですよね~」


 不意に、甘い香りと共に現れた甲高い声。

 優しいような、心を包み込んでくれるような声音————のはずなのに、今だけは全く僕の心を包み込んでくれるような気がしない。


 僕は額に汗を浮かばせながらゆっくりと愛読エロ本を閉じた。

 そして、徐にソファーから立ち上がると――――


「さらばっ!!!」


「逃がさないけどねぇ」


 ガシッ(僕の首根っこを掴む音)


 クイッ(僕の足を払う音)


 ドスッ(僕のお腹の上に思いっきりのしかかる音)


「捕まえるまでのプロセスがスピーディ!?」


「玲くんのおかげで、お姉ちゃんも慣れたからねぇ~」


 腰まであるウェーブのかかった金髪がさらりと揺れる。

 僕の視界の先には(※お腹の上)には、美人と美少女を合わせて2でかけたような文句のつけどころがない整った顔立ちの少女。

 明るいブラウン色の双眸は、真っ直ぐと僕を射抜かんとしているぐらい鋭く向けられていた。


 おっとりとした口調とは裏腹すぎてどこか怖い。


「お姉ちゃん、言ったよ? そういうえっちぃ本は見ちゃダメだって」


 言われた気しかしない。

 そして、それを承知でこそこそ読んでいた気しかしない。


「ごめん、僕って頭がよくないから言われたとしても覚えていないことの方が多————」


「見たら、お姉ちゃんが3時間耐久でチューするって言ったよね?」


「────くないっ! ミラねぇはそんなことを言っていないよね!? 捏造が甚だしいよっ!」


 3時間耐久の接吻なんて、ただの息苦しい拷問じゃないか!?


「ほら、やっぱり覚えてるんじゃん~」


「うっ……!」


 ぺしぺしと、僕のお腹を叩きながら口にする少女————ミラシス・デフォー。現名、御坂みさかミラシス。

 お義母さんの……実の娘である。


「いい? お姉ちゃんだって男の子の事情は理解してるよ? そういうことが好きなのは仕方ないって思ってるし、それがダメだとは言いません」


 話は戻るけど、心配したお義母さんが僕のためにしてくれたことは—―――一人じゃ不安だから自分の娘を一緒に住まわせよう、といったものだった。

 母親とは違い、前から日本に憧れを抱いていたミラねぇは日本語の勉強を熱心にしていたらしく、こうして会話も問題ないとのことで送り出されたそうな。


「だけど、そういう本に頼るのはよくないと思うんだよ。世の中、本だけが正しいとは限らない。玲くんに間違った知識が身についてしまうのは、任されている身として看過できないの」


 ミラねぇは僕の2つ上の高校三年生。

 だから、僕よりしっかりしているだろうということでお父さんも問題なく許可してしまい、今ではこうして同じマンションで一緒に暮らすことになったのだ。


 そして────


「だから、お姉ちゃんがちゃんとで女の子の魅力を教えてあげるね~」


 ……そして、ズボンを脱がされそうになっている。


「人が説明している間に何をっ!?」


「Ich möchte erotisch sein!」


「What!?」


 何て言ったの!? ねぇ、ズボンを下ろそうとしながら何て言ったの!?

 僕、英語はおろかドイツ語何て1mmも分かんないんだけど!?


「玲くんとえっちしたい!」


「義弟相手に何てことを……っ!」


 ドイツ語で話さないでほしい以前に、そういう言葉を使ってほしくなかった!


「お姉ちゃんはただ、玲くんにえっちぃ本を読まないでほしいから……私で教えてあげようかと(ポッ///)」


「待って、その発想は些かおかしい気がするんだ!」


「大丈夫! 義理だから関係的には問題ないよね!」


「世間体と法律的にはアウトだよ!」


 そういうのは互いに18になってからするべきだ。

 何のために愛読エロ本が『R18』に指定されていると思っているのか?


「というより、お姉ちゃんという女の子がいながら、そういうえっちぃ本に頼るのはどうかと思う!」


「僕だって、義弟に迫る義姉はどうかと思う」


「だから、お姉ちゃんはえっちぃ本を読んでほしくないんだよっ!」


「なるほど……僕が拘束されている理由は完全なる私利か」


 おかしいなぁ……一緒に暮らし始めた時はこんな感じじゃなかったのに。


「勘違いしないでね……私は玲くんのことをとして見てるからそういう本を見てほしくないだけ!」


「本当に私利が凄すぎて涙が出る」


 これは是が非でも愛読エロ本を読み続けなければならないかもしれない。

 己が貞操のために。弟を異性として見ていると常識外れなことを口走るお方から身を守るために。


(そ、それに……僕にはが……っ!)


 だからこそ、義理なる姉に身を委ねてたまるか!

 確かに、ミラねぇは綺麗で正直実りすぎた双丘とかクビレのある腰回りとか、魅惑的なヒップに視線が吸い寄せられてしまうけど……っ!

 好きな人がいる僕には、ここから先は許容できかねる!


 え? お前、好きな人がいるのに愛読エロ本を読んでいたのかって?

 はっはっはー! それとこれとは話が別だよ! 

 ほら、思春期の若造は手が伸ばせないからこそどこかで発散する必要があるじゃない?


「というより、僕達は真昼間から何の話をしてるんだろうね?」


「さぁ? 玲くんが真昼間からえっちぃ本を読んでいる理由から分からないけどね~。お姉ちゃんでイタせばいいのに」


 いけない、本当に義姉が何を言っているのか分からない。


「そ、そろそろこの話はやめようかっ! お昼ご飯の準備もしないといけないし!」


「さんせ~!」


 ミラねぇが僕の上から退いてくれると、貞操の危機を感じた僕は慌ててと体を起こした。

 ……やれやれ、こんな不毛で卑猥なやり取りなんかしないで、早くご飯の準備をしないといけないよね。

 時間は有限だもん、お腹がペコペコになる前に用意しておくに限る。


 だから僕は自然な動きで愛読エロ本を片手にキッチンへと—―――


「あ、そのえっちぃ本は没収だから」


「Damn it!!!」


 ————というわけで。

 僕に新しい家族が増えた。


 一人は海外にいて実感は湧かないけど……もう一人の家族だけは、嫌というほど実感が持てる。


 お相手は、2つ上のドイツ人のお姉ちゃんだ。

 なお、彼女は僕を異性として見ているようで、義姉の迫りっぷりは大変困ったものです――――


 ……誰か助けて。

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