緊急事態宣言下で働く介護福祉士の今

水原麻以

介護福祉士の今

三度目の緊急事態が宣言されました。私は介護福祉士と全身性、精神性、視覚性の行動援護従事者資格を持っています。

一般的にはガイドヘルパーと呼ばれる職種です。

主に身体や精神障害者(児)の外出に同行し身の回りの安全確保や身体介護を行います。

コロナ禍で行動援護従事者がどうなっているかというとアルコール除菌やマスクなど感染症対策に細心の注意を払うことなど他の業種とほとんど変わりません。

ただ健常者に比べて感染症に罹りやすい利用者なので普段から予防対策をしています。例えばノロウイルスです。


初回の緊急事態宣言時はそりゃあ大変でした。全国の通所介護や作業所にクラスターが発生し休業要請に応じる施設が出ました。その結果リハビリやレクリエーションが出来なくなって日常生活自立度が極端に低下したり認知症状が悪化する方が続出しました。国は在宅介護で補えというのですが、すべての世帯を訪問できるほど職員がいません。また環境激変が引き金となって要介護度があがることもあります。高齢者の場合は自立歩行出来ていた人が寝たきり状態なるなどです。

これは不可逆的な場合が多いため、結局は介護現場の負担が増すという悪循環になります。


今は医療崩壊が懸念されていますが、在宅介護がとっくに破綻している家庭が多いのです。家族が面倒を見切れない、あるいは老々介護や独居老人の場合は施設入所となりますが高齢者施設は限りがあります。


出来るだけ要介護者を抑えるためにさまざまな介護予防サービスがありますが、緊急事態宣言で公民館やプールなど公共施設が閉鎖されると、これが出来なくなるのです。


最初の緊急事態宣言はわたしから見ればやりすぎでした。介護の現場からは利用者やスタッフを感染リスクにさらすわけにはいかないから休業すべきだとか、休ませてほしいという意見はあります。


しかし、しかしですよ。

利用者は「生きること」を休むことはできないのです。

私は訪問介護もやりますが、数年前にカテゴリー5の超大型台風が関西を直撃した時も訪問介護をやっていました。身をかがめるように徒歩で訪問先に向かっていると無人の自転車が転がりながら私を追い抜いていくのです。


お前はバカか?とよく言われます。しかし、独り暮らしの寝たきり高齢者の排泄介助や食事は誰が面倒を見るのでしょう。子供に恵まれなかったり、そもそも未婚のまま後期高齢者になった方もいます。


どうしようもないから見捨てればいいのでしょうか?


綺麗ごとを言わずに現実直視しろと介護現場を知らない人から叱られることもしばしばあります。

「お前、欲に目がくらんでるんじゃね? 介護ってそんなに儲かるのかよ。偽善者」とか「お前が死んだら誰が後かたずけするんだよ、結局税金だろ。自己中が!」とか

心無い罵声を浴びます。


違うんです。これは自分の為であるんです。ある種の保険だと考えています。


だって、医療や介護を担う人間がいなくなったら、私が倒れた時に誰が面倒をみてくれます?


簡単に他人を切り捨てる。

容易に命をあきらめる。


そんな「余力のない」社会は脆弱です。別に感染症でなくても他の理由で滅んでしまうでしょう。

だってギリギリでピンチに耐えるほどの体力がないんですから

そんな社会、淘汰されて当然です。


しかし、人間には知恵や団結力があります。集団を活かすために個を簡単に切り捨てる。足の遅い個体が囮になってライオンに狩られる草食動物ではないんです。

人間は。


そういうポリシーでコロナ渦を訪問介護やガイドヘルプに出かけます。


最後に緊急事態宣言なのに高齢者や障碍者が何をほっつきあるいてるんだ?という暴言がよく利用者に浴びせられます。


高齢者や障碍者だって人間ですよ?!

必要火急な買い物や通院があります。家に籠っていると精神が滅入ってしまう。気晴らしの外出も必要です。

営業自粛した店内に放置しっぱなしの什器とは違うんです。

生きているんです。

誰かがサポートしなけりゃいけない。

そして誰だって歳をとるし、病気や事故や犯罪や災害に巻き込まれていつ身体障碍者になるかわからない。

もし、自分や自分の家族が介護される側に回ったら、面とむかって厳しい事をいえるのか?


はいと言う人もいるでしょう。自分は平気だと。

でも、それを赤の他人に言えますか?


言えないでしょう。

では、誰が万が一をサポートするのか。

介護職です。


最後に私は阪神大震災で被災して家族を亡くしました。

真冬の氷点下の中を満杯の避難所にも入れず一週間、野宿しました。

肺炎をわずらって、40度の高熱で生死を彷徨いかけている私を救ってくれたのは自衛隊だったのです。


そのようないきさつがあって人のために介護福祉士を決意したのです。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る