ゴングを買って家に置きたい

春海水亭

カァンってやりたい

皆様も一度はクリスマスや誕生日のプレゼントに、

あの高らかに銅鑼の音を鳴らすゴングをねだったのではないでしょうか。

子供ならば誰もがゴングに憧れるものです。

しかしアレもれっきとした楽器ですから、親御さんも困ったことでしょう。

恥ずかしながら、僕は皆様ほど素直な成長をしない子供だったので、

もっぱらゲームソフトをねだっていました。

そうです、僕はゴングの魅力に気づかぬまま、この歳まで生きてきて、

そして、この歳になってようやくゴングを欲しがるような恥ずかしい人間なのです。


皆様も一度はプロレスやボクシングの試合で、

高らかに打ち鳴らされるゴングの音を聞かれたことはあるでしょう。


会場中に打ち響くゴングの刺激的な音色を、

戦いの始まりを告げるには、あまりにも美しく澄んでいるあの音を。


ゴングが用いられるようになって、あの音色が戦いを表すようになったのか、

音色があまりにも戦いに適していたから、ゴングが戦いを告げるようになったのか、

果たしてどちらなのでしょうか、どちらでもいいように思えます。


いずれにせよ、僕は今更になってゴングが欲しくて欲しくてたまらないのです。

考えてみて下さい、家にゴングのある生活を。

私はパソコンでこの文章を打っています。

右手にはマウスがあり、更にその右にはゴングがあるのです。


小説を書きたい――だが、そんな気力が湧かない。

そんな時にゴングを打ち鳴らします。

音が鳴り響いた瞬間、僕は咆哮しながらカクヨムに戦いを挑むのです。

戦わなければならない時、明確なる戦いの合図としてゴングは役立ちます。


別の状況を想像してみましょう。

ベッドの横に、目覚まし音がなり続けるスマートフォン、その横にゴング。

まだまだ寝ていたい、湧き上がる二度寝への欲求。

そんな時、弱々しい力でゴングを鳴らすのです。

その瞬間、ベッドは僕の敵となり、

僕はベッドの魔の手から逃れんとする戦士へと変わるのです。

何時だって、何処でだって、ゴングが鳴れば、僕は戦士になれるはずなのです。


さぁ、ゴングをマウスの横に置き直しましょう。

インターネット(主にツイッターを見る)の時間です。

争い合う二つのアカウントがありますね。

その瞬間、僕はゴングを鳴らします。

もう、なんか争いに介入して変に火傷するぐらいならば、

リアルにゴングを鳴らして、黒幕を気取るに留めておけばいいのです。

争いは何も生みませんが、争いを生み出す立場は愉快です。

皆さんもご存知の通り、5GのGはゴングのGです。


見えてきましたね、夢のゴング生活が。

家にゴングを置くだけで、僕たちの生活は一気に明るくなるのです。

いや、明るくはならないかも知れません。

ただ、明るい未来を切り開くための戦いを始めることは間違いなく出来るのです。

一家に一台、いや一人に一台ゴングの時代が来るでしょう。


皆さんにも聞こえては来ませんか。

高らかに鳴り響くゴングの音色が。

溌剌なるあの銅鑼の響きが。


もしも、貴方がまだゴングを持っていないのに、

その音色を聞いているのならば――


誰かが貴方を戦わせようとゴングを鳴らしているのかもしれません。


カァン。

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