美少女ガンナーに転生して、魔物と戯れます。

@WaTtle

転生篇

『俺』の死から、『ノルン』への転生

 死。それは突然のことだった。

 何もない空間の中でしばらくして意識を取り戻す。

 儂……俺と言った方がいいかな。

 俺の人生、容姿が醜悪で、それが原因でいじめられたり、遠ざけられたこともあって、友達は。いたのはいたけど、チャットでやり取りする程度だ。

 そしてなんとか大学まで入れたけど、卒業間近で課題に手こずり、何度も自殺しようとし、最終的に精神病院へと措置入院になった。退院した後は、精神病院での退屈を取り戻そうと、祖父ちゃんからのお金を使って爆買いをしてしまう。保護者である母さんとは何度も口論になり、またも自殺衝動や、暴力などを振るってきた。

 姉もいたが、その娘である姪には一度も好かれなかった。誰にも、理解されなかった。他者とは距離を取ってばかりだった。姪と会った日を境に心を開くことは、一度もなかったかもしれない。

 それから、犯罪をせぬよう、真面目に生きてきたつもりだ。精神障害者ながら、病院に通いつつ働いてきた。それでも誰とも仲良くなれなかった。俺は独り身を貫いてしまったんだ。

 そんな俺の唯一の楽しみはゲームだったけど、いつの間にか現実を見直しちゃったりして楽しめなくなった。代わりに妄想をする時間は増えた。

 こんな人生になるんだったら。俺、もっと自分を大切にするんだったな……。

「そこの君」

 あれ? 女性の声がする? 俺、死んでしまったんだよな?

「そこのお前」

 あら、お口が悪くなった。これは早急に返事した方がいいのかな?

「はい」

 どうしよ、若い時の俺の声だ。こんな汚い声か。声優を志望しなくてよかったな。

「孤独死したそうだね」

 女性が問いかけてくる。無の空間には俺と呼べる者以外見かけない。身体があるわけじゃないが。訊き返そう。

「そうらしいけど、あなたは?」

 しばらくして無の空間にパタリと扉を開ける音が聞こえた。

 とうとう姿が見えた。その女性、いや少女とも呼ぶべきか。俺は少女に訊ねる。

「えっと、あなたが? いや、君が?」

「君、というのは失礼だ。これでも女神なのだぞ」

 こんな、いや失礼か。この少女が女神様なのか。

 ……と言われても、俺の国、日本に住む標準的な顔、黒髪、黒目。綺麗に顔が整えられており、美少女と呼んでもいいだろう。女神様だし。

「あの、女神様、とお呼びすればよろしいでしょうか?」

「そうだな。名乗っていなかったな」

 俺は女神様の恰好を見て推測をする。日本のものだと思われる着物を着ていることからおそらくこの女神様は日本の神だろう。だとしたら、天照大神? コノハナサクヤ? ゲームで手に入れた知識だとこれしか候補にないが……。

「あたしの名は森利花(もり としはな)だ。よろしく頼む」

「日本人の名前じゃないすか。女神様ですよね?」

 俺は女神様、森さんに訊き返した。

「しょうがないだろ。女神はあたし以外にいっぱいいるんだから」

 怒らせてしまった。帰られても困るので謝ろう。

「すみません。聞き覚えのある名前ではなかったので……」

「わかっている、天照様を想像しただろ?」

「はい、正直に言うとそうですね……」

 ってか、天照大神って森さんを凌ぐほどのお方だったんだな。

 森さんがコホンと咳払いをした。言動には気をつけよう。

「さて、本題に入ろうか。あたしはお前自身に用があって来たのだ」

「俺に、ですか?」

 なんだろ? この無の空間で身体のない俺がどうしろって言うのだろ?

「ああ。本来ならお前を裁判にかけるところだ」

「天国と地獄、どちらに行くかの話ですよね?」

「大雑把に言えばそうだが。君は運悪くこの空間に飛ばされてしまってな、あたしが迎えに来たわけなんだが……」

「要は俺をその裁判にかけるために――」

「慌てるな。話はそう簡単じゃない」

 なんだ? もしかして、地獄行き決定なのかッ!?

「いやいや、落ち着き給え」

「あれ。口にしてないのに?」

「無の空間で君は口がないだろ」

「……そでした。ごめんなさい」

「あと、さっきのことなんだが……」

「さっき?」

 森さんが顔を赤くした。

「君があたしを評したことだよ。嬉しかった」

「す、すみません……」

「謝るな。そう評してくれたのは君が初めてだから……」

 よほど嬉しそうだな、森さん。俺だって、あなたみたいな方にお声をかけてくれただけでも嬉しいんですけどね。

「あたしのことを森さんと呼ぶのは……心の声に突っ込んでも仕方ないか」

「森さん、いえ、森様とお呼びしますね。森様がわざわざ俺を迎えに来たのは?」

「そうだな。簡潔に話した方がいいだろう」

 森様が再び咳払いしていく。俺は心を静めて黙って聞くことにした。

「お前には異世界スピリトゥスに転生してもらいたいッ!」

「スピリトゥス?」

「この世界のラテン語で言えば精霊に当たるんだ」

「精霊? それでは、その世界に魔法がある、という解釈で?」

「もちろんだ」

 魔法の世界への転生かぁ。俺、そういう作品いっぱい見て来たんだよなぁ。

 こういう異世界転生の時、その世界に何かあるッ!

「それは心配しなくていい。駐在員のように働いてくれればいい」

 なるほど。その世界で問題を起こさないように派遣されるわけか……。でも――。

「森様。お言葉ですけど、俺、ろくでなしですよ?」

 俺が口にすると、森様は溜め息を吐いた。

「と言われてもなぁ。地獄も天国もそれどころじゃないんだよ」

「と、言いますと?」

「地獄も何千年の刑期の囚人が多くて、天国は天国で転生を望まない人が多くてキャパオーバーなんだよ」

 森様が溜め息を吐いた。

「森様、苦労為されているのですね……」

「まぁね。天国の雑務で休日なんてないない」

「天国ってブラック職業ですかね」

「人が多いだけだ。そこで運よく、ううん、転生課に転属の公募が――」

「森様、俺を出汁にしていませんか?」

 ごめんなさい。言わずにはいられませんでした。

「そ、そんなことはない。サポートする以上、あたしは全力でやるぞ?」

 疑問形にしないで欲しかったです。

「そう不安になるな。あたしの専属戦士だ。不老不死にしてやる」

 不老不死。魅力的っちゃあ魅力的ですけど……。

「不満はなんだね? 要望があれば聞いてやる」

 では言います。

「生前の姿がコンプレックスなので、そのまま転生しても、自殺衝動が出てしまうかもしれません」

「なるほどな。君は生前の姿がコンプレックスか」

「はい。性格面も問題あるかと……」

「安心しろ。要望があるなら聞いてやるから」

 えッ!?

「この森様は女神だぞ? 容姿をいじってやるよ」

「いじるって、本当に言ってよろしいですかッ!?」

「くどいなぁ。言ってみ?」

 イケメン、ていうのはピンと来ないなぁ。美少年、もあんまりだし……。生前、何になりたかったんだ?

「なりたいもの、じゃなくってもいいんだぜ?」

 そう言われてもなぁ、ゲームキャラしかいないなぁ。でも幸薄そ――ッ!

「おッ? 決まったようだな……」

 俺の好きなキャラ、それは――ッ!

「ノルン=ブルット……君、正気か?」

「何がです?」

「だってこのキャラ女じゃないか」

 そう、ノルン=ブルットはゲーム『BLUE DRIVE』シリーズのヒロインだ。

「だって、一番好きな女性キャラと言ったらノルンが浮かび上がるんですもん。ノルンさんの声優に向かって初告白するぐらいですよ?」

 懐かしいな。大学一年の頃だっけ……。

「でも、男から女になるんだぞ? 覚悟はあるのか?」

「生前と同じ道は歩みたくありません。どうせ人助けするなら本当の意味で生まれ変わりたいんです」

 もう、人から遠ざかるような人生は、不老不死でも御免だ。だからッ!

「……わかった。それでは望むようにしよう……」

 森様の手が青く光って、こちらに放ってくる。

 なんだッ!? 意識が持ってかれるッ!? 日光を浴びるように熱いッ!?

 森様ッ! 一体何をしたんですかッ!?

 わたしはこのまま、この光を浴びなきゃいけないのですかッ!?

 あれ? わたし? 俺、じゃなくなってる?

 それに光から護ろうと腕が付いてる。少女のような華奢な腕だ。グーパーしてみると、手が開いたり、閉じたりしている。

 まさか、森様――。

「喋ってみてくれ。もう君の心の声は聞こえない」

「森様、わたし、何か変ですッ! えッ!?」

 この声、ノルンの声だ。じゃあ今のわたしは――ッ!

「キャラクター設定がしっかりしているだけあって、細部まで再現できたな。鏡を出すから自分の顔見てみ?」

 森様がわたしに鏡を渡してきた。鏡を受け取ったわたしは自分の顔を見て疑惑から確信に変わった。

 長い金髪。青いヘッドギア。緑の瞳。間違いない。わたし、ノルンになっている。

 鏡を覗くのをやめると、身体を見渡した。青を基調とした背中を大きく露出した衣装にひらひらのスカート。スレンダーな体格。貧乳なのはちょっと気になったが、それよりノルンになれたことがわたしは嬉しかった。

「どうだね? 不備がないようにしたつもりだが」

「満足ですッ! わたし、心まで女になってしまったけど、死ぬほど嬉しいですッ!」

「死んできているじゃないか……。あ、そうそう。一応確認だが、彼女の武装は出せるかね?」

 魔銃・ベオウルフのことかな。確かに、あれ原作でもチート武器の一つだったね。

「ベオウルフッ!」

 わたしが呼ぶと、両手に大きな銃身の拳銃が召喚される。

「おい、あたしを狙ってるぞッ!」

「す、すみませんッ! わざとじゃないんですッ!」

 銃口を森様に向けてしまった。召喚した手前、彼女に向いてしまっていた。わたしは慌ててベオウルフを背にある腰のホルスターにしまい込んだ。そしてすぐに森様に向けて土下座をした。地面の感覚がないので、くるりと回転してしまった。

「森様ぁッ! ごめんなさぁいッ!」

「はぁ、別に故意じゃないのはわかってるからいいぞ」

 森様にお許しのお言葉を貰うと、わたしは森様に近づいていく。

「森様ッ! わたし、これならなんだってできますッ! 魔王討伐だろうがッ! 汚職国家を敵に回したりッ! なんでもしてみせますよッ!」

「いやさ、スピリトゥスの平穏を維持してくれるだけでいいんだって……」

 つい張り切り過ぎてしまった。折角のノルンになれて上がってしまった。でも、

「本当にそれだけでいいんですか? わたし、結構なチート武器を持ってますよ」

「それなんだが、一つ謝らなきゃならないんだが……」

「えッ? まさか、一部が男性――ッ!」

「いや、身体は完全に女子だ。だが、そのキャラ、真の力を持っている設定だったな?」

「確か、そうでしたね……」

 あ、そっか。

「その力までは模造できなかった。悪い」

 そうだよね。あれがあると、森様たちにとってやっかみを受けてしまうか。

 なんせ、神の剣。だもんなぁ。

「その代わりといってはなんだが、魔法を扱えたり、ノルンの体捌き、技はお前に染み込んでいる」

「なるほど。それでしたら大丈夫です」

 ノルンになれたんだ。それ以上の力を望まないよ。それにノルンとして戦う方がわたしとしてもやりやすいし。

「森様、わたしは転生した後はどうすればよろしいんでしょうか?」

「そうだな……。とりあえず森の中にセーフハウスを用意してある。そこで暮らしてみてくれ」

「わかりました。森様」

 わたしが了承の旨を伝えると、森様はわたしから離れだし、魔方陣を展開する。

 そっか。もう行くんだね。頑張らなきゃね。森様がくれた身体と力、期待を壊さないようにしなくちゃ。

「それでは検討を祈るぞ。ノルン=ブルット」

「行ってきます。森様」

 その会話を最後にわたしの身体が無の空間から転移させられた。

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