偶然
「他の元カノ役の方たち、どっかで見たことあるなぁ~って人も何人かいますね。何で見たかは思い出せないけど、顔だけは見覚えが。あ、でもこの人は初めて見たかも…」
雨里さんがクリームソーダを飲む中、僕はその向かいで再びドラマの相関図を見ていた。思ったことが全て口から出てしまう僕を見て、雨里さんは小さく笑った。それから少しだけ真面目な顔をして、もう半分くらいになったクリームソーダから手を離した。
「私も、周りから見たらそういうポジションなんですよね。どっかで見たなぁって私のことを気になってくれる人もいれば、この作品で初めて私のことを知ってくれる人もいる。それって、この作品を観る人がいて、そこに私が偶然出てたってだけ。ただそれだけなんですよ。でもね、大袈裟かもしれないけれど、そんな偶然の出会いが、お互いの一生に影響する可能性を秘めてるってすごくないですか。この作品がきっかけで、私を好きになってくれる人がいるかもしれない。私のお芝居が、誰かの人生の一部になれるかもしれないんですよ!」
そう語る雨里さんの瞳は輝いていた。
「だからね、どんな時でも胸を張っていられる自分でいたいし、そんなお芝居をしたい。どんなに小さいと思われる役であろうと、どんなに嫌われる役であろうと。その人が必要だから、そこに私が立って、命を吹き込ませてもらっているわけで。真摯に役と向き合うことで偶然が積み重なって、いつか奇跡を起こすって信じてるんです」
なんだか熱く語っちゃいましたね、なんて恥ずかしそうにして、一気に残りのクリームソーダを飲み干す雨里さん。普段は明るさの中に消えてしまいそうな儚ささえ持ち合わせているのに、お芝居のことを語るときは、いつだって熱くて真剣だ。
「そういう雨里さん、素敵だと思います」
「えっ」
「お芝居を愛しているんだなって、雨里さんを見ていたらわかります。いつか世界中の人に伝わります、きっと、ちゃんと。お芝居をしている雨里さんは、とってもキラキラしているから」
「ありがとう、ございます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます