篠突く雨
「"社長。もう使えない人を抱えるのは辞めましょう"」
「えっ」
「昔から私のことを担当してくれていた、マネージャーさんの言葉です」
その表情は笑顔だったが、瞳は水分を含んで揺れていた。
「マネージャーさん、私だけじゃなくて、話題のあの子も担当してて、とってもとっても忙しいんです。急に人気者になっちゃったから尚更、もう環境の変化に追いつくだけで大変で。だから、そう思うのも仕方ないと思います」
依然として雨は激しく降っていた。
「"僕、もう手一杯です。社長は必死になって平等に仕事を振り分けようとするけど、世間的に見て無理なんです。社長が作りたい世界もわかります。だけど、それは理想論でしかない。現実は甘くないんです。茗花雨里は求められていない"って、マネージャーさんが」
「っそんな…」
「社長も昔、いわゆる芸能人だったんですよ。私なんかよりはもっともっと人気で、もっともっと有名でした。だけど、事務所の都合で段々と仕事が減っていって、気付いたら無職状態。辞めざるを得ない状況になってしまったそうです」
残酷だ。輝く光の裏には、深い影がある。
社長さんは、悔しい気持ちはもちろん、応援してくれるファンの方を裏切ってしまったことに、ひどく心を痛めた。あの時もっと必死になってしがみついていたら、未来は違っていたんじゃないかと。
だからこそ、芸能界という夢を思いっきり追える世界になってほしいと、自ら事務所を設立した。
「あ、私この話聞いちゃいけないって思ってすぐその場を離れました。でも私、鈍臭いから、椅子を蹴ってしまって。物音で気付かれるなんてベタなことしちゃいました」
「え、聞いていたこと、バレちゃったんですか?」
「ふふっ、はい。死角だったので急いで逃げたらバレないって思ったんですけど、一足遅くて。社長もマネージャーさんもすっごく驚いてました。咄嗟に手に持っていたイヤホンを見せびらかすように、何も聞いてませんアピールしたんですけど、バレましたね」
彼女はまた笑ってみせた。
「その後、社長に呼び出されて。社長には、 "雨里はまだ原石なだけだ。とんでもない可能性を秘めているんだよ。俺が保証する" って言ってもらえたんですけどね。社長が本心でそう言ってくれていることも、優しすぎることも全部わかっていたから、 "考えさせてください。" って」
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