雷雨

まだお昼だというのに、外はどんよりと重い。

それなのに時折、凄まじい音とともに黄色い光が走って、一瞬だけ全てが照らしだされる。


酷い天気のせいで、今日はお客さんが全然いない。朝、こんな風になる前に3人来ただけで、後は1人で珈琲をひたすら飲んでいた。やることが無さすぎる。

いつもはしないような細かい場所も掃除をしたし、食器もピカピカに磨いたし、色々な物の配置もミリ単位で直し続けた。そのおかげで清潔感漂う規則正しい店内にはなった。


そろそろ閉店してしまおうか。そんなことが頭をよぎった13時。雨の音が突然大きくなり、冷たい風が吹いてきた。


「こんにちは」


そこに立っていたのは、力なく笑う茗花さんだった。


パフェの偵察以来だ。

あの日はただ美味しいものを食べまくって一日を終えた。もちろん、彼女と僕の間には何も起こらなかった。本当に何事もなく。

おかげさまで新作のパフェを作ることが出来た。売上も好調だ。こだわり抜いたドリンクメニューに焦点を当てた、"ドリンクパフェ"。珈琲豆の数だけ、紅茶葉の数だけ、とにかくたくさんの種類がある。


突然すぎて気が付かなかったが、彼女は全身びしょ濡れだった。この雷雨の中、まさか傘をささずに歩いてきたのだろうか。


「あの、ごめんなさい。お店、濡らしてしまうとは思ったんですけど、もう、ここしか思い付かなくて」


「いや、大丈夫ですけど、あの、どうしたんですか…その…」


「傘、取られちゃいました」


その笑顔には無理があった。


「午前中は持ってたんですよ!事務所の帰り、コンビニに寄ったら、もうなくて」


「あ、そうだったんですね。えーっと、タオル!タオル持ってきます!」


猛ダッシュでタオルを取りに行きながら考える。


「あ、あの、風邪ひいちゃうと悪いのでお風呂入ります?うち、自宅と一緒になっているので…って、いや、なんでもないです!ごめんなさい!タオル!ど、どうぞ!」


思いついたことをそのまま口に出してしまった。一歩間違えたらセクハラになるんじゃ…?茗花さんには失礼なことばかりしている。想いを自覚してしまってからは尚更だ。


「くしゅんっ」


一人でぐるぐる考えていると聞こえてきた小さなくしゃみ。


「あーっと、お借りしても良いですか?」


恥ずかしそうにそう言う彼女の言葉に、耳を疑った。

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