幻
「あ!高野さーん!こっちです!」
喫茶店から3つ先の大きな駅。
たくさんの人が行き交う中で、茗花さんは大声で僕を呼び、僕に手を振っている。
「良かった!広いからなかなか会えないかと思いました!すんなり会えましたね!」
今日は月曜日。時刻は11:00。
僕らを包む空気はぽかぽかと暖かく、肌に当たる風はふんわりと優しい。
「じゃあ、行きましょうか!お腹ペコペコです!」
どうしてこんなことになっているのか。それは3日ほど前の話…。
金曜日の午後、僕は新作のパフェを考えていた。
僕の喫茶店には、小さい子もよく来てくれる。また、レトロブームもあってか、若い人たちも多くなった。そんな人達に満足してもらえるような、ユニークで、少しボリュームのあるメニューを増やそうと、色々と開発していたのだ。
…だけど、どうもアイデアが浮かばない。至って普通なパフェばかりが出来上がる。ただ量を多くしただけじゃ面白みに欠けるし、奇抜すぎても誰も頼んでくれないし。
完全に壁にぶち当たっていた。
そんな時、いつもの様に珈琲を飲んでいた茗花さんが突然、「偵察に行きますか!」と声をかけてくれた。イタズラな笑みを浮かべて。
そこから話はどんどん進み、連絡先まで交換して、休日は混んでいるだろうという話になり、月曜日の今日、こうして2人で出かけることになった。川本さんには「そんなんデートや!」なんて茶化されて、満更でもない顔で否定したくせにちゃっかりオシャレをして来た。
茗花さんは、綺麗な長い黒髪を少し高い位置でポニーテールにしていた。いつかの雑誌のように。
淡い桜色のスカートが風になびく。
「あ、私ナポリタンも食べたいです!」
そう言いながら、少し先を楽しそうに歩いていた彼女が振り返り微笑んだ。
茗花さんに出会ってから、随分と時間が経った。
雨が雪に変わり、今度は桜が今か今かとその時を待っている。
桜が舞う時、僕の隣に彼女はいるだろうか。
ほんの少しの期待と、どうしようもない不安が僕を締め付けた。
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