夢と現実

「私、女優さんをやっています」


彼女は静かに話し始めた。


「って言っても、そんな立派なものじゃないんです。小さな事務所に運良く入れてもらえて、名ばかりの女優さんです。お仕事もちょこちょこしかないから、コールセンターが本業みたいになってます」


そう。彼女は以前、仕事の話になった時、コールセンターで働いていると言っていた。シフト制だから自由に働けて有難いと。


「正直に言えなかったのは、怖かったからです。自信もないし。胸を張って女優さんって言えるくらい有名なら良かったけど、そうじゃないから。馬鹿にされたり、陰口を言われたり、そういうのが怖かったです」


「…っそんなこと!しないです!絶対!」


「分かってます。高野さんがそんな人じゃないって。分かってたけど、どうしても怖かった。実際、過去にそういうことがあったんです。あんまりよく思わないんですよ、周りの人達。いい歳していつまで夢見てるんだって。あ、私、27歳なんですけど」


なんとなく聞きづらくて避けてきた年齢。彼女は僕の6歳年下だった。


「だから今も、本当に仲の良い友人にしか話していません。みんな言わなきゃわからないので。優しい高野さんに隠し事をするのは心苦しかったけど、言ったらきっと私は顔色を伺ってしまいます。本当はどう思っているんだろうって無意識に探ってしまうから、言えなかったんです」


「すみません」と、彼女は言った。

だけど僕たちは店長とお客さまの関係で、何を話すかは彼女の自由なわけで、彼女が謝る必要なんてやっぱりない。

極端な話、名前だって年齢だって、全部デタラメでも良い。お客さまが安らげる場所になれるなら、何だっていいのに。正直に話す必要なんてないのに。

なんて返したら良いんだろう。


そう思っていたのが顔に出ていたのか、彼女が再びミルクティーを1口飲んでから話し始めたのは、イヤリングの秘密だった。

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