第3話 直面する死

 


 下校した時夜が向かった先は薄暗い路地、校内唯一の限界突破者オーバーリミット、しかも容姿も抜群に優れている雷華の誘いを断る彼の用事とは一体なんなのか?


 時夜は薄暗い路地裏に入るとおもむろに自身の鞄からキャットフードを取り出し、その辺に捨ててある空の猫缶にザラザラと流し込んだ。

 その音を聞きつけたのか、黒猫が姿を現し刻夜が用意したキャットフードを急いで貪り食う。


 時夜はその姿に苦笑した。

「そんなに慌てて食わなくても減らないぞ?」

 早食いする子供を諌めるように言うが、全く意に返さない黒猫。

 刻夜の用事とは猫に餌をあげる事、ただそれだけだ。

 この野良の黒猫にあったのは最近の事で月水金の帰り道はここにきている。


 一生懸命食べる黒猫の姿に和む反面、余計にさっきの理不尽を意識させられた。


(…………さっきのでもあいつ退学にならないんだよなぁ〜)

 明らかに超能力を使ったイジメだったが、学校側も黙認している、もちろん体面上は禁止となっているが、先生がいない場所では許される、学校というところはそんなものだ。

まぁあんな目立つところで突っかかってきたので停学くらいはもらうだろうが、むしろそっちの方が危険だ、今度は巧妙に罰を喰らわないよう立ち回ってくるだろう。


 何故か俺にばかり絡んでくる、とは言わない、原因はわかりきってる。

 神崎雷華だろう、前にしつこくナンパされて困ってるようだったので助けようと間に入ったのをきっかけに仲良くなった。

(実際は即ノックアウトされた俺が彼女に助けてもらうというアベコベな展開だったが)


 どうやら空海は神崎を好いているのだろう、だから彼女の回りをウロチョロしてる時夜が気にくわないと。

 それにしたってあの行動は神崎の性格を理解したてたら悪手だということに普通気づきそうなものだが。


(絶対また絡んでくるよな)

 ため息を吐く時夜、そんな刻夜の足にすり寄ってくる黒猫。

「お?よしよし」

 撫でて少しでもささくれた心を癒す刻夜、この時間がいつまでも続くようにと願っていたが。


 そんな願いを無情に切り捨てるのが現実というもの。


「キャァァァァッッ!!」

 突如悲鳴が響き渡った、刻夜は驚愕し立ち上がる。


 立ち上がった時夜にかそれとも悲鳴に驚いたのか、それともその両方か、黒猫は一目散に逃げてしまった。


 一人残された時夜は悲鳴がした方に走る、走る、走る。


「イヤッ!!」

 そうして走っていたら次の角から悲鳴が聞こえた、声からして女の子らしい、どうやらこの角を曲がった先で何か起きているのだろうと、顔だけをのぞかせた時夜。


 ただ事ではないと感じていたが、まさかこんな現実とかけ離れた光景を目の当たりにするとは夢にも思ってなかった。

 血だらけの少女が横たわっており、近くにはフード付き黒マントの男がそこに立っていた。

 男はフードを目深にかけていて顔はおぼろげにしかわからない。

 多分、痩せこけた中年といったところ。

 マントの下には悪趣味な髑髏が特徴的なネックレスを首にかけ、足にベルトだの鎖だのを何本も巻きつけている。

 時代遅れな格好というよりはイカレたファションセンスというのが正しい気がする。

 おそらく倒れている少女の返り血が服の所々について真っ赤に染まっていた、もしかしたらマントの本当の色は赤で黒の方こそ血が乾いて固まってその色になっただけかもしれない。

 男は息を切らしているが、そんな事気にせずに大声で喚いた

「わ、わ、我ら魔術師の、怒りをお、お、お、思い知れ!ギャハハ!!!」

 男は興奮しきっておりこちらには気づいてない様子。


 一目で危険人物と判断した刻夜はすぐに顔を引っ込め大慌てで警察に通報しようとした。


 警察に説明するために男の情報を頭の中で整理する。

 中肉中背のフード付き黒マント、顔立ちはおぼろげにしかわからないが多分30〜40代くらいの痩せこけた中年


 気が動転してる上に考え事をしていたら携帯を取り落としてしまい、低くだがよく通る音が路地裏に響き渡った。


(やっべ!!?)

 素早く携帯を拾うが時すでに遅し

「何してる、小僧?」

 さっきの男がいつのまにか俺の目の前にいた。

 瞬間、世界が止まった。

 いや正確には止まっているように見えるだけで少しづつ動いている。



 事実男が何も持っていない手を突き出しかけていた、

 速度は遅く蝿が止まっても数分は余裕がありそうだったが確実に距離を縮めてくる。


 時夜の頭を目指して手を伸ばす男。しかし腕の長さを考えると届かないように見える、そう考えていたら背筋に悪寒を感じた。


 時夜は己の本能に従い、鈍化した世界の中自分に出せる最高速度で横に大きく飛び込む同時に、右肩に少し痛みを感じた。



 地面を転がり汚れまみれになったり、いつのまにか世界の速度が戻っていたりと様々なことが起きていたが、そんなこと気にしてる余裕は彼になかった。



 さっきまで自分が居た場所に男は手を突き出しており、その手には何も持っていないように見える。しかし自分の右肩を浅く裂いたの鋭い切っ先は刻夜の血で濡れ、怪しく光っている。



(なっ!?)

 別に見えないに驚いたわけじゃない、そんなものこの都市では珍しくもなんともない。



 ただしという大前提が付いて回る。



 問題はこの男同年代には見えないのだ。どう若く見ても20代後半、超新生異能種アノヴァリーは基本10代のみのはず、異能を使える大人など見たことがない。


(……………ーーーいやそんな事よりも、あのまま突っ立てたら俺……)


 頬に冷や汗を流し戦慄する時夜。

 時夜が呆気にとられていると、相手の男も心底驚いた様子で俺を見ていたが不意にこんなことを言い出す。

「貴様、我が魔槍を避けるとは中々に優秀な異能者か」

 手に何も持たずこちらに何かを突き出すように構える。いや見えないだけであるのだ、そこに、時夜を裂いたであろう凶器が


 男の発言から察するに、目に見えないは魔槍らしい。


(魔槍!??待て待て待て!この科学が発達した異能特区で魔槍?!おいおい中二すぎだろ、頭イカれすぎ……だが超能力ってわけでもないよな?どういう……)

 再度、思考の海に溺れそうになったが目の前の男はそれを許さなかった。



 またもや世界は遅くなり、男は時夜の血で濡れて穂先が微かに見える凶器、男が言うには魔槍とやらで突いてくる、軌道的に心臓を穿つ気だ。



 鈍化した世界の中で今度は確信を持って、時夜は後ろに倒れ転がった。



 倒れる瞬間、夏服の第一ボタンが切り飛ばされたが、そんな事気にせず後ろに転がる力を利用し距離を取りつつ素早く立ち上がって男とは反対方向に全速力で逃げた


 無様とか途中ゴミ箱にぶつかって生ゴミ塗れになるなど一切構わず逃げた。


(死ぬ!!死ぬ!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!)

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