あなたはカクレオン
栫夏姫
第1話
皆様はカメレオンという生き物を知っているだろうか。
自身の体の色を周りの色に変えられるというあの生物だ。
とても便利だが、そのカメレオンと同じような人間を知っている。
それは私の友達の女の子なのだが、付き合う人によって見た目をガラリと変えるのだ。
相手に好かれるために相手の好きであろう見た目に自分を磨くのだ。
だから、彼女に恋人か好きな人ができるとすぐに分かる。
今日またその子は見た目が変わった。
「また好きな人ができたの?」
「そうなの、どう?似合う?」
そう言って、金髪にピアスをつけた彼女はくるりと回り私に見せつけてきた。
そんな彼女の名前は
「今回は誰なの?加藤くん?」
「なんで分かったの!?やっぱ
そりゃ分かるに決まってる。
君が変えた見た目を私は全部見てきたんだから。で、その恋が長続きせず君が涙を流しているのを何回も見てきてるんだから。
私は君の全て好きだったよ。どの見た目でも君はとても可愛く。なぜ、男どもはこの子振るのか理解ができない。
こんなに可愛く、こんなに健気で相手に尽くすことができるのに。
だから、男はだめなんだ。
君をほっておくことなんてできない。
「次はギャルってところ?」
「そうなの!噂によるとギャルっぽい子が好きらしいからね。髪を染めてピアスもつけてスカートも短くしてきた!」
彼女はまさしくギャルと言った見た目であり、その口調がなければ誰がどう見てもギャルと思うだろう。
やはり、今日もこの子は可愛い。この子はもともとおとなし目な格好をする女の子なのだが、こうちょっと背伸びした格好も素敵だと思う。
そんなことを考えていると、教室の扉が開き彼女の求めている人物がやってきた。
「あ……」
「ほら、行ってきなよ」
そう言って彼女を送り出したが、本当のことを言うと送り出したくなんかなかった。
何回目だろう、彼女をこうやって送り出すのは……
何回目からだろうか、彼女を送り出すたびに胸がチクチクするようになったのは……
彼女がお目当ての男子と話しているのを見ると胸が苦しくなり、張り裂けそうだ。
彼女の幸せを願いたいのに、心の中で今回も長続きしなければいい、すぐに振られてしまえばいいといった嫌な考えをしてしまう自分が本当に嫌だ。
でも、彼女が振られたら……
また私の元で泣いてくれる。その時だけは私が彼女を独り占めできるんだ。
こんなことを彼女が知ったらどう思うだろうか……
きっと嫌われてしまうに違いいない。
「楽しそうにしてるな……」
彼女の様子を見ると、多分今回も付き合ってしまうんだろうな。
また嬉しそうに報告をしてくれるのだろう。
その様子を見ているうちに授業の始まりを示す金がなり、各々が自分の席に戻った。
彼女の表情だけが何度もフラッシュバックして消えない。彼女の嬉しそうな顔、怖がってる顔、泣いている時の顔。
恋というのはここまで人を狂わせるんだと最近になってやっと気づいた。今までしてきたものは恋愛でも恋でもなかったんだと改めて分からせられる。
それからの時間は四季を何回も繰り返すように長く感じた。彼女の恋の行方を考えるだけでときが止まったように時間が全く進まないように感じた。
気分を紛らわせるために窓を開けて外を見るが、初夏特有の風が窓から入ってくるだけで気持ちなど全く紛れなかった。それどころか、窓を開ける際彼女がガラスに写り。外を見ながら余計彼女のことを考えてしまった。
午前の授業の終わりを告げる金がなり、私はやっと乗り切ったんだと安堵したと同時に午後もまたこの感覚に襲われると考えると憂鬱になる。
でも、お昼はいつも彼女と一緒に過ごしているからこの時間は私が独り占めだ。
いつも自分と彼女の弁当二人分を作っていて、それを彼女に与えて一緒に食べているからだ。
走行しているうちに彼女が小走りで私の席に来た。
弁当箱を用意して待っていると……
「由里子ごめん!加藤くんに学食行かないかって言われちゃって!!今日はそっち行ってくる!」
そう言って彼女は教室を出ていってしまった。
せっかく今日君の好きなものばかりをお弁当に詰めたのに……
こんなこと初めてな気がする。今まではどんな男を好きになってもこの時間だけは私を優先してくれた。
話したい、でも話せないという感覚はどうしてこうも人のことをモヤモヤさせるのだろうか。
一日千秋とはよく言ったものだと思う。早く話したくて仕方ない。なんで私は彼女を応援する側なんだろう。
なんで私は彼女に惚れてもらう側になれなかったんだろう。
静かに一人でお昼を食べて心を落ち着かせるために本を読むが、内容は全く頭に入ってこない。
今頃彼女は楽しそうにお昼を食べているんだろうか……
昼休みも終わりに近づいてきた時、彼女が例の男と話ながら教室に入ってきた。
しかし、彼女がこちらに来ることはなくずっとその男の気を引くために頑張っている。
それを見るとどうしても胸が苦しくなる。チクチクと胸を刺す。
それからの午後の授業の内容は全く頭に入らず、胸の苦しさとチクチクとした感覚を抑えることだけに集中していた。
授業も帰りのホームルームも終わり、皆帰宅の準備を始めている。
私はいつも彼女が係の仕事が終わるのを昇降口で待ち、彼女が来てから一緒に帰るのが日課になっている。
「今日一日は特におかしかったな……」
「お待たせ、待った?」
今日は早く仕事が終わったのかいつもより早く彼女が来た。
「いや?今来たところだよ。ところで良いの?彼と帰らないで」
「えーでもいつも由里子と帰ってるじゃん」
「でも一緒に帰りたかったんでしょ?私のことなんてほっておいて言ってくればよかったのに」
私の口から思ってもいない、言いたくないことがポロポロとこぼれていく。
違う、こんなことを言いたいんじゃない。
「今日のお弁当だって、好きなものばかり詰めてたのに行っちゃうしさ。彼のことが好きなんでしょ?見てて分かるよ」
「え?え?どうしたの……?」
「私応援するから」
どんどん悪態が出てきてしまう。今までこんなことなかったのに、なんでこんなことを言ってしまうんだろう。
「由里子怒ってる……?」
「怒ってないよ?」
「声のトーン全然違うし……」
どんどん彼女が不安そうな声になっていく。違う、私は彼女にこんな顔をしてほしいんじゃない。
「もしかして、由里子も加藤君のことが……」
「違うって言ってんじゃん」
「でも……いつもと違って嬉しそうじゃないし……」
もう、気持ちを伝えてしまおう……
これで壊れる友情なら、それまでだし。私も吹っ切れるだろう。
それに、今まで自分の気持ちを抑えて、こんなに支えてきたんだ。
少しくらいなら許されるはずだ。
「それはね………」
私は彼女の顔を引き寄せ、キスをした。
彼女は突然の出来事に頭が追いつかないのか、驚いた顔をしている。
そこに漬け込んで、荒々しく押し付けた唇を何度も何度も角度を変え、酸素を、思考を奪っていく。
私は彼女がほしい、本当はこんなことをするのは許されないはず。
でも……私だって……
息苦しくなったのか、彼女の口が緩んだ瞬間。私は自分の舌を入れてしまった。
「ん……!?」
彼女の抵抗虚しく、どんどん彼女の中に入っていく。
浅く、深く。口の中を這う舌。頭の奥が痺れるのを感じる。ずっとこうしたかったんだと思い知らされるような。初めての感覚。
彼女も抵抗などせず、私に身を任せてくれる。それどころか彼女からも動かしてくれた。
短い呼吸音、耳に脳に痺れをもたらす水音。口の中を何度もなぞり、奪うように吸い付くした。
ゆっくりと口を離し、お互いの唇が糸を引いている。
「こーゆーことなの……」
彼女は呼吸を乱しながら顔を赤くしている。
「私の気持ち分かった?」
彼女は静かに頷き、私の手を握ってきた。
感覚で今までの関係にはもう戻れないと感じた。もう仲の良い友達同士には戻れない。
戻りたくない。
「いつからなの……?」
「ずっと前からだよ。ゆのがいろんな格好をするようになってからずっと」
手を繋ぎながら歩き、私の思いの丈を伝えていく。
いつの間にか涙を流していたのか、私の目を彼女がハンカチで拭う。
「ゆの……今日私の家、家族いないんだけど……」
その先の言葉を彼女にしか聞こえないように耳打ちする。
彼女は更に顔を赤くして、もじもじとしだす。
「ん…… うん……」
次の日、彼女が学校に来た時の教室の生徒が驚いた顔が今思い出しても最高だった。
だって、彼女の姿は前日とは違い黒髪でピアスも外したおとなしい見た目に戻っていたのだ。
多分皆が驚いたのはきっとそこではない。
登校の際に、私と腕を組みながら入ってきたところだと思う。
それから毎日のように彼女は見た目を変えて学校に来ている。
しかし、変わらない物がある。
それはずっと私の隣にいると言うことだ。
私のために毎日見た目を変えて、いろんな彼女を見せてくれる。
そんな彼女はやっぱりカメレオン女子だった。
あなたはカクレオン 栫夏姫 @kakoinatuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます