第40話・責任とって下さいね


「うわあ!」 


 明け方早朝。アデルは顔の近くで上がった男性の驚きの声で目が覚めた。こんな経験生まれて初めてのことだ。まだ眠い目をこすりながら起きると、ベットの上でソラルダットが、アデルを見て驚愕していた。


「どうして? あなたと?」


(それはこっちのセリフです)


 朝からため息を付きたくなる。昨晩アデルの部屋に襲来したのは陛下の方だというのに、目覚めるなりひとの顔を見て、驚くなんて失礼過ぎませんか。しかもこちらは恥かしさ満載だというのに。

 ソラルダットは寝乱れてシャツが胸元まで開いている状態で、目のやり場に困る。


「それを聞きたいのはわたくしの方なのですが? 覚えていらっしゃらないのですか? 真夜中にわたくしの部屋に忍んでいらしたのは陛下です」


 ソラルダットの胸元から目線をそらすように、やや俯き加減でいえば、彼は昨晩。と、呟き、自分の行動をあれこれ振り返った様でうわああ。と、うめき声を漏らした。自分が脱ぎ捨てた服の残骸に目をやり、アデルを見てごくりと唾を飲む。


「ま。まさか…… 余はあなたに無理強いを?」

「多少酔った陛下は強引ではありましたけど、ご安心なさって。別に世間で言う所の不純な行為には及びませんでしたから」


 ふう。と、陛下は息を吐いて、安堵の息を漏らす。それから自分の胸元が全開だったのに気がついた様で、慌ててボタンを止めて行く。


「昨晩は飲み過ぎて醜態をさらしてしまったようだ。本当に済まない。申し訳ない」


 きちんと身だしなみを整えるとソラルダットは、アデルと向かい合って、布団の上で正座し何度もアデルに謝ってきた。


「自分の部屋と間違えて、しかも夢にあなたが出て来たのだと思い込んでいた」

「もういいですわ。わたくしも真夜中の突然の訪問には驚きましたけどね。侵入者かと思いましたから。さあ。みんなに見つからないうちにご自分の部屋にお戻り下さいな。皆に見つかったら一大事ですから」


 しばらくアデルとの事で、離宮への出入り禁止をナネットから言い渡されていたソラルダットだ。アデルの寝室に忍びこんでいたなどと思われたら、大変な騒ぎになりかねない。

 ようやく女官たちとの仲が鎮静化しつつある状態で、新たな騒動が勃発するのは、ソラルダットも避けたいところだろう。

 ベットから出たソラルダットに、床の上に彼が脱ぎ捨てた上着を拾って手渡せば、あなたは物分かりの良い方で助かったと言われた。


「トゥーラ王女。あなたの恩恵に感謝する」

「これからはぜひ玄関か、お部屋のドアから訊ねていらして下さいな。陛下。心臓に悪いですわ。一気に十も年をとったような気がします」

「……考慮する。あなたを老けさせては申しわけないからな」


 茶化して言えば、少しの間があって、ソラルダットは子供の様にばつの悪い顔をした。アデルの好きな顔だ。


「本当ですわ。行き遅れたら陛下が責任もって、わたくしをお嫁にもらって下さいね」

「あなたには変な所ばかり見られてるな」


 アデルが笑えば、冗談と気がついたのだろう。ソラルダットが申しわけなさそうに小さくなって言った。



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