第20話・きっとまた会える

「ごめん。アデル。いまのぼくにはなんのちからもなくて。だけどもうすこしまってくれるかい? そしたらきっときみをたすけだすことができるから」

「ソール。それはだめだ」


 ソールが言いだした言葉をハルが止めた。


「そんなことかんたんにやくそくしていいもんじゃない。よくかんがえろ」

「わかってるさ。だけどきみらだっていやだろう? こんなふうにアデルたちにわかれをつげるのは?」

「ずるいぞ。ソール。ぼくらをまきこむな」


 ソールの行動を反対しながらも、ハルは辛そうな表情を浮かべている。


「かえりたくない。まだここにいたい」


 トムは地団太ふんだ。リリーはそのトムの側にいて宥めていた。この場の皆が別れを惜しんで泣いた。誰もがひとしきり泣いた後、ソールはアデルに誓うように言った。


「アデル。おわかれはいわないよ。いつかまたあえるとしんじているから」

「ソール」

「きっとまたあえるさ」

「かならずあえるから」


 ハルとトムの言葉が後に続いた。


「だからアデル。もうなかないで。いつのひかふたたびあいにくるから。それまでこれをぼくだとおもってそだててくれないかな?」

「これは?」


 泣きじゃくるアデルの目線までしゃがんだソールは、衣服のポケットから茶色の皮に包まれた、アデルの小さな拳大の塊を取りだした。塊の先端に芽のようなものが覗いていた。


「チューリップのきゅうこんなんだ。はるになったらつりがねのかたちをしたはなを、さかせてくれる。ぼくのだいすきなアデル。だいじにしてくれるかい?」

「うん。わかった。かならずさかせてみせる」


 涙を拭って肯くと、ソールが顔を近付けてきた。あっと思う間もなく頬を彼の唇がかすめた。何事か囁かれる。驚きに目を見張ると、皆が注目していた。 


「おおきくなったらぼくのおよめさんになって」

「………!」

「やくそくだよ」


 皆の手前、照れ隠しのようにソールは言い、踵を返した。その後をハルとトムが追いかけてゆく。頬に受けた唇の感触が残っている。アデルは突然のことで、しかも皆の前でされた行為に考えが追いついていかなかった。


「おい。ソール」

「まって。にいさま」


 手のなかの球根を握りしめているアデルを、リリーがこのまま別れていいのかと言うように見返して来る。夕日のなか三人は背中を向けて歩きだしていた。アデルは思いきって真ん中の背中に呼びかけた。


「ソール!」

「アデル。さよならはいわないよ。いつかきっとまたあえる。きみのさかせたチューリップのはなをみにくる。だからそのときにへんじをきかせて。じゃあね。アデル。またあした」

「じゃあね。またあした」


 ソールが手を振って来た。明日からもう二度とソールは訊ねて来ることはないと分かってるのに、それでもいつの日かソールが会いに来ると信じて、また明日。と、アデルも手を振り返せずにいられなかった。ハルたちも手を振り返して来る。 地に伸びた三つの影が遠ざかって行くのを淋しく思っていると、両肩にリリーの手が触れる。リリーも泣きそうな顔をしていた。二人はいつまでも三人を見送っていた。


 

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