第5話・噂とはあてにならない?
「トゥーラ王女は小太りと聞いていたのだが… そなたは着痩(きや)せするタイプなのだろうか?」
「はあ?」
アデルと目が合ったマクルナ国王ソラルダットは、気まずそうに目をそらす。
「ああ。申し訳ない。レデイの前で体型のことなど口にしては失礼に当たるな。噂に聞くトゥーラ王女は、大らかな人柄で着飾る事と三食昼寝付きに三度のおやつに、三度の夜食の生活が何より大好きで、それを物語るような容姿と体型をしていると聞いていた。それがこのような清楚な可愛い女性とは想像もしてなかった…!」
トゥーラに関してよくご存知のようだ。本物はそうです。その通りですと、肯きたくなったアデルだが、自分はトゥーラの偽者なのだ。ここで認めるわけにはいかない。
認めてしまえば、じゃあ、あなた誰? と、なるのは分かりきっている。どう言い訳しようかと戸惑っていると、ソラルダットの後ろで白金の若者が吹き出した。 灰色の瞳が笑っている。リリーは不愉快そうに眉根を吊り上げた。
アデルは吹き出した男の真意が分からず、自分が馬鹿にされたような気がして、白金の男を軽く睨み付けた。
「ハロルド。王女の手前、失礼だぞ」
ソラルダットが叱責する。なんだかその言いかたに焦りを感じて、戸惑う国王が可愛く思えてきたアデルは笑いを堪えた。
「申し訳ありません。でも失礼なのは陛下の発言だと思いますが」
確かにその通りだ。トゥーラを前にして今の発言は、本人を傷付けることになっただろう。でもここにいるのはアデルだ。トゥーラに関して何を言われようと、自分のことではないのでアデルが気にすることは何一つない。
「失礼。トゥーラ王女。この者は余の近衛騎士団の総隊長でハロルドと言う」
「初めまして。ハロルドさま」
「我が主はあなたさまのような愛らしい王女さまが、婚礼相手だと知って舞い上がってるようです。御容赦を」
「ハロルド」
ハロルドのお茶目な発言に緊張を解かれたようで、アデルは自然に微笑んでいた。ソラルダットと目が合うと、なぜかソラルダットは慌てて目を放す。
「そんな可笑しいか? 余は聞いたままを口にしたまでだが。でも噂とはあてにならないものだな。こんなに愛らしい姫とは思わなかった」
「おや。陛下。一目惚れですか? 無理もないですね。トゥーラ王女がこのように綺麗で可憐なお方では、一瞬で心を奪われるさまがよく分かりますよ」
「ハロルド。余計な事を言うな」
ソラルダットとハロルドの称賛に気恥ずかしい想いをしながらも、アデルも心のうちで、本当に噂とはあてにならないものだと思っていた。側近と語り合う様子からしてソラルダットは穏やかな人物のようだ。自分よりも五つほど年上だろうか? 噂通りの野蛮で粗雑な男性だったらどうしようかと思っていたが、これなら杞憂に終わりそうだ。
「トゥーラ王女。長い移動でかなりお疲れのことだろう。すぐ部屋に案内させる。足湯を用意させよう。休憩をとってからまた馬車移動となる。それまでゆっくりしてくれ」
「お気遣いありがとうございます」
お礼を言うと、ソラルダットは案内の兵を呼び、アデルとリリーを部屋に案内させた。
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