セントナム海峡編
第16話 勇者は野菜が苦手なようです
私と勇者様はハンプトン支城の村を出発してサザラントの森に向かった。この森は魔物が密集し、ほぼ人の手が入らない獣道で目的地まで2日程かかるらしい。
魔物に襲われる心配も少なく、半分以下の時間でナグリッジの港町に着ける安全な海岸道の選択肢もあった。
しかし、私たちは魔王と戦うために強くなりたい、というわけでもちろん獣道を選択した。さて、森に入ってわすが数歩で魔物の気配がする。勇者様は貰った槍を構えて戦闘態勢だ。私も魔力を高めて構えた。
…………
……
…
はぁ…疲れた…もう50匹は倒した。それに、暗い。夜の森は城下町と違い灯りはないので動き回るのは危険だろう。
「勇者様、もうご飯にして休みましょう」
「うん。飯には賛成するよ。しかし…魔物が生息する森の中で?」
「勇者様、そろそろ結界の魔法を覚えていませんか?」
「え? あぁ…まだ試していないけど」
「それを使えば、結界の中は安全地帯になります」
「そうなのか!」
「はい、ぜひ試してくださいね」
勇者様は深呼吸をして魔力を高めはじめた。そうです、いいですね。
「結界!」
勇者様を中心に半径10メートル、薄い黄色いドーム状の結界が展開された。
「これは…すごい」
その時、偶然にもイノシシが私たちへ突進してきた。しかし、結界にぶつかりひっくり返り気絶した。勇者様はイノシシを掴み「ごちそうが手に入った」と満面の笑顔。
「あはは。良かったですね、ご飯にしましょうか」
勇者様はイノシシを解体し焼き始めた、いい臭い。
「それにしても勇者様、随分と腕前があがりましたね。今なら、苦戦したボスゴブリンなんか格闘技でも武器でも一撃ですよ」
「自分でも強くなったなとは感じるよ。お前のおかげだ。ありがとう」
「え、私は別に何もしていませんよ。勇者様の素質です」
「謙遜しなくていい。お前のアドバイスがなければ、俺は魔物にやられていただろう」
「お前は不思議だよな。後衛なのにやたら前衛の動きに詳しい。それにいいタイミングに魔法で攻撃してくれる。傷ついても致命傷の手前まで我慢するし。タイミング見て回復してくれる。まるでベテランだ。賢者は頭がいいのだな」
こう手放しで褒められるとこそばゆい。
「えっと、その…勇者様のお力になれるように勉強しただけですよ」
「なぁ、その、勇者様っていうのはやめてくれ」
「えっ?」
「ふたりだけの時はディナードでいい。勇者様なんて言われると距離を感じてしまう。俺はソシエ…お前の事をよく知りたいし、俺の事もよく知ってほしい…」
「へ? わ、わかりました」
はて? なんでしょう急に。好意を向けられているような発言ですね。うーん、思い当たる節は色々あるかも。
命を救われたし、心配をかけすぎて抱きしめられたことも。
逆に命を救ったし、その時に、あっ、人工呼吸もした覚えが………。
えっと、恥ずかしくなってきた……。
“いけません! いけないです。魔王を倒してもらわないといけないですし! あ、もうお肉焼けています!”
「さて、焼けたようですね! 食べましょう」
私は照れ隠しで、慌てて立ち上がり両手を合わせて“パン”と音を出した。
「お、おう…」
「しかし、この袋は便利ですね~折り畳みのテーブルと椅子と食器を取り出して、こんな場所でも文化的な生活ができています」
「あ! 勇者さ…ディナード様! ちゃんと命を頂きますと言ってください!」
「もぐもぐ…」
仕方ない…。私は、こっそりと野草や村でもらった野菜でサラダもこしらえていた。野菜嫌いの彼に食べさせてお仕置をする。でもそれだけだと可哀想なので、食べやすいように秘策を用意した。
ニワトリが産んだ卵と植物油と他に色々と調合した「黄金色のクリーム」がいわゆるサラダとすごい相性なのだ。ハンプトン村の名物らしい。彼の前に野菜と黄金色のクリームを置く。ディナード様は、ビクッと驚く。ふふふ。
「このサラダもとても美味しいですよ」
私はまっすぐと彼の目を見つめた。
「サ、サラダはなぁ、好きじゃない! 味がないし苦い!」
ディナード様は逃げ出そうと腰を浮かせる。しかし、私は素早く回り込んで肩に手を置いた。
「駄目ですよ。私からもサラダからも逃げられません!」
手に力を入れて、強制着席させる。
「肉だけではなく、野菜も食べてバランスよく!」
「いやいや、勘弁してくれ!」
「駄目です! ディナード様。はい、あ〜ん、してください」
「わ、わかった。様はつけなくていい! 恥ずかしいからやめろ!」
「では、ディ…ディナード、食べてください!」
さらに、まっすぐと彼の目を見つめ続ける。観念したのかパクリと一口。
「あ、あれ。悪くないな。この黄色い物体がすごいぞ!」
「ソシエ! 美味い!」
ディナードは、嘘のように平らげた。良かった。作戦は成功した。そのまま、和気あいあいとしながらご飯を食べて森の中で一夜を明かした。
……
…
朝か…う〜ん、眠い…。
でも起きないと。寝袋からのそのそと起き出す。ディナードは隣でまだ寝袋につつまれている。くすっと笑いながらも、そっとしておこう。私が朝食を仕上げる頃に彼はゆっくりと起きてきた。ふたりで朝食を平らげて出発。
またもや魔物を50匹ほど倒して、ようやくナグリッジ港町に到着した。
ここ港町のナグリッジは、ハイランド王国の南大陸の最北端に位置する。セントナム海峡を渡るとイーリーンの港町に到着できる。そこは、北大陸の最南端の町である。そして、そのまま北上すると最北端には、ティリマス港町がある。なるほど…知っている場所を聞くと懐かしい気分になる。
待ちに着いた時には夜だったため、この日はすぐに宿屋に泊まった。しかし、波の音が激しくてなかなか寝付けなかった。
……
…
翌日、案内所に行き、勇者ディナードと賢者ソシエが来たと知らせた。すると町長があわててやってきた。
「勇者様と賢者様。ようこそお越しくださいました。すぐにでもイーリーンの港町まで船を出したいのですが、3日前から海峡のうねりが激しく船が出せない状況なのです」
「なるほど…海の魔物が関係しているかもしれないな。案内してくれ、見てみたい!」
ディナードは、頷きながら案内を促した。
やがて問題の場所に案内された。これは…強力な魔物の気配がする。これほどの緊張感は初めてだ…あの無人島の魔物を遥かに越える強さを感じる。私の心拍数は早い…落ちつこう…。
「もうお前たちはいい。戻れ。魔物の気配がする。ここは危険だ!」
ディナードは案内役の数人をさがらせた。私たちは臨戦態勢に入る。
「ディナード、あの渦の中を見てください。魔物がいます」
ディナードもわかっていると頷く。
「とてつもない敵だ。今までで最強だろう。どうするかな。飛び込むわけにはいかないし」
「もし、水中戦になった場合は結界を使ってくださいね。地上と同じように呼吸ができます」
「そんなにすごいのか結界は…」
ディナードは驚いている。
「そうです。ですが…保険として引きずり込まれたらの話ですよ」
「海中では、結界の中では1人あたり10分程度の呼吸しかできません。ふたりなら5分です」
「水の中で再び結界を展開してもだめです。空気が尽きた状態では意味がありません」
「よくわかった。ソシエ、俺たちに魔力増幅と攻撃力増幅と防御力増幅をかけろ! 水の魔物なら土、雷も有効そうだな。雷を落としてやれ。出てくるはずだ」
「はい。ディナード」
早速、ディナードは私が教えた魔物と四代元素の相関関係を覚えてくれた。飲み込みが早い。
では…裁きの雷をこの魔物に贈ろう…雷弩。
私が握りしめた杖から、大量の雷でできた矢が勢いよく発射された。ディナードも土の槍を槍投げみたいに投げ続けた。
「ウォオオオオオオ!!!」
海中からも聞こえる恐ろしい咆哮。
渦の中から、巨大な影が浮き上がってくる。
水の龍、リヴァイアサンが現れた。
っ…こんな時にベルスの気配が…。
--さて、ディナードよ、お前・・・ソシエに惚れたのか? よくわからんけど。そんな気がしたが…。
ちょっと…ベルス…こんな時に変な事考えないでよ!
――ソシエとも絆はできただろうし、まあ、好きになっちゃうか…惚れるのは勝手だけどな。俺は元に戻る予定だし。うーん、ちょっと可哀想だな。
もぅ…気が散るよ…。
賢者ソシエ
[ジョブ]
賢者Lv16 魔術師Lv23 聖職者Lv20 戦士Lv3 格闘家Lv2 大工Lv2 薬草師Lv5 薬剤師Lv3 地質学者Lv2 農家Lv1
[ステータス]
戦闘力512 物理攻撃力42 物理防御67 魔法防御103 HP425 MP348 技術44 素早さ38 知力86 運56 魔力87
[装備]
魔術師長の杖 賢者のローブ 疾風のブーツ エメラルドのネックレス 身の守りの腕輪
[スキル]
賢者:業火Lv5 飛翔Lv18 計測Lv14
魔術師:火球Lv15 氷結Lv14 土槍Lv16 竜巻Lv13 魔力増幅Lv8 攻撃力増幅Lv7
聖職者:雷弩Lv10 回復Lv20 状態異常回復Lv17 防御力増幅Lv7 破邪Lv5
ハイランドの勇者ディナード
[ジョブ]
勇者Lv18 戦士Lv25 格闘家Lv25 魔術師Lv21 狩人Lv1
[ステータス]
戦闘力762 物理攻撃力113 物理防御122 魔法防御96 HP811 MP409 技術79 素早さ84 知力63 運54 魔力67
[装備]
ウンディーネの槍 戦士の鎧 鉄の盾 鉄の籠手 皮のブーツ 破邪の首飾り
[スキル]
勇者:結界Lv2
魔術師:火球Lv15 氷結Lv17 土槍Lv19 竜巻Lv12
格闘家:打撃技Lv14 関節技Lv10 神速Lv5
戦士:命中率+10%上昇
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