魔王討伐に勇者で出発したけど賢者で再出発することになった

みずがね燈

プロローグ

第1話 魔王と戦ったら女になっていた

 ここが目的の場所、魔王の間か…そして、玉座に座っているのは…あいつが魔王か。奴を倒すために俺はここまで来たんだ。

「覚悟するがいい…魔王テンダエル!」

 俺はひとりで魔王の城に乗り込んだ。

 そして、襲いくる魔物を片付けながら、ついに魔王の前に立っている。


「来たか…ワシの放った刺客を次々と葬り…ワシの帝国を荒らしているのは貴様か…勇者ベルスよ」

 こいつが…世界を混乱に貶めている張本人だ。ほぅ〜今まであった魔物の中でも最高の戦闘力だ…ワクワクする。

「さぁ…本気で来い…魔王さんよ…」

 俺は、オリハルコンの剣を抜いて構えた。


「ぬぅ…」

 魔王も禍々しい剣を取り出した。

「ほぅ…あんたも剣を使うのか…想像していたのと違ったな。こぅ…威厳のある杖とかで魔法を使ってくるタイプと思ったんだがな…」

「いくぞ…勇者よ! 力を見せてみろ!」


 ふむ、鋭い踏み込みだ。剣の振りもいいし隙も無い。しかし…。


「おぃ…もっと本気で来いよ…」

 俺は剣を鞘に戻し、魔王の剣筋を見切り両手で止めた。

「ふんっ!」

 俺は魔王の鳩尾に前蹴りを放った。奴は、吹き飛び壁にめり込んだ。


「ぐはっ!」

 まさか…この程度なのか?

 お、いいぞ…そうだ…立て…そうだ…いいね、魔力を高めて来たか。来い、もう少し俺を楽しませてくれ。


「魔王の剣!」

「ほぅ…貴様…魔物の癖に魔力の扱いと剣の使い方もうまいじゃないか…どこで覚えた?」

「貴様に説明する必要は…ない!」

 おぉ! 一瞬で目の前に来たぞ。いいぞ、俺を驚かせるんだ。


「くっ…貴様…よく止めたな」

「先ほどより数段動きが速くなった。そしてこれは魔法剣か…暗黒魔力を感じる」

 俺と魔王はついに剣を合わせた。傍からみると互角に見えるかもしれん。だが…。


「覚悟しろよ?」

 俺は魔王を押し切って力任せに剣を振り切った。


 魔王を肩口から斜めに切裂いた。


「ギャアアアアア!」

 大量の出血だ。噴水のように血があふれだす。俺の顔にも飛び散った。


「ちっ…この程度か…所詮あんたも…」

 俺は、心底残念に思った。敵として最高の戦闘力を誇る魔王が、俺が少し本気を出しただけでこんなにも弱弱しい。


「魔王様!」

 どこかで隠れていたか、それとも…俺が通らなかった城内の守りについていた魔物か…まぁ、どうでもいいがともかく10体程やってきた。

 俺に向ってくるのか…仕方ない。


「失せろ! もぅ、遅いんだよ! 主を守るのならもう少し早く来ないとな?」

 魔物たちが突進してくると同時に、俺は剣を一振りする。すると奴らは俺に触れる前に真っ二つになった。


「雑魚は黙っていろ」

 俺の剣は音速を超えているため、衝撃波が相手を襲う。さらに光の闘気を乗せれば目に見えない刃で相手を切裂くのだ。


 ん?


 ほぅ…魔王…立ち上がって来たか…嬉しいね。そうこなくてはな。


「き…さま…光の闘気を使うのか…」

 なぜ、こいつは死にそうな癖に嬉しそうなのだ?


「あぁ…貴様程の腕前なら俺の力はわかるはず。そして、勝てないこともな」


「そうじゃな…ワシの力を超える者がいた…そして光の者…闇と相反するは光…ククク…」

「何を言っているんだ? もぅ、いいだろう…死ね。お前は長く生きすぎた」


 俺は、一歩歩くと…カチリと音がした。ん? なんだ。


 俺の足元に魔法陣が現れた。な、なんだ…身動きができん。


「ふぅ…全く恐ろしい奴だ。確かにベルスよ、貴様は完全にワシを超えていた。だがのぅ…その魔法陣は何百年も魔力を注ぎ込んで作っておいた罠じゃ…そう簡単には動けんよ…」


「お…おのれ!」

 まずぃ…これは…こんなにゾクリとしたことはない。どうする?


「どんなに強くてもな…無力化する手立てがあるのだ。わかったか…この若造が・・・・貴様のすべてを奪ってくれるわ!」

 魔王の両手から怪しい光が放たれると、俺を新しい魔法陣で包みんだ。

「これぞ…究極の変化魔法。究極絶対変化…対象者をワシの意のままの姿に変えることができるのじゃ…」


 なんてやつだ…こんな奥の手が…油断した…力が抜けていく…だが、俺は、まだ…終わらん…。


 終わってたまるか!


 俺はわずかに残る光の闘気を増幅、この魔法に抗った。


「なんと! この魔法に耐えるとは…お前は…一体何者なのじゃ…普通の人間ではない…」


「苦労しているようだな…魔王テンダエルよ…手を貸そう…」

 な、なんの声だ…。まだ、魔王の仲間がいるのか…しかも…同格かそれ以上の口ぶり…。


 な、なんだ…俺の周りの空気が固体化している感覚がする。

 ひびだと! これは…次元の裂け目なのか!?

 裂け目から…巨大な目が…な、なんだ…まずい…大変まずい…撤退せねば…。


「ありがたい…どうやらこの者はワシの待ち望んでいた者かもしれぬ…手を貸してくれぬか?」

「よかろう…お前の計画には興味がある…」


 こ、こいつら何を言っている…ぐわっ! な、なんだ…魔法が…追加された…この巨大な目の化け物の力か!

 一時撤退する…転移の魔法だ…そして…今度は、速攻で魔王を討つ…これしかない…。


「さらばだ…勇者ベルスよ…ワシの究極絶対変化にも耐えたことで、皮肉にも貴様の正体は分かった。だが、こうしてワシと同格の者ふたりがかりでは手も足もでまい…死ね…」


「あぁ…そうだな…油断した…だが、必ず…貴様を倒す」

 俺の最後の力だ…もぅ、一度…全身を発光する。これで…俺が魔方陣で拘束されていようとも…関係なく貫通してやつらにダメージを与えることができる。その隙に…俺は…逃げる!


 ぬんっ! うぉおおおおおおおお! 俺の体は光に包まれた。


「グォオオオオオオオ!」

 目玉野郎にダメージを与えた! 悶絶している! テンダエルは…しめた! 奴も壁際まで吹き飛んだ! 今だ!


「転移!」「逃がさぬ! 発動!」

 俺と魔王は同時に叫んだ。


 ――とある廃村の納屋


 あの瞬間、俺は転移魔法を発動した。しかし、魔王の魔法との衝撃により、転移する空間座標が狂ったようだな。

 見たこともない場所で俺は目を覚まして天井を見ていた。それに…何故かはわからんが…俺の体は光の膜に覆われている。

 はて…? 俺…回復魔法なんか覚えていたかな…しかし、次第に光は弱まり膜が消えた。


 “おきなきゃ!” ん? 俺、何か言ったかな…?


 しかし、体が重い。なんか抵抗を感じるな。よし…なんとか立ち上がった。

 ここは、どこだ? あたりを見回してみたが納屋の中か…。なぜこんなところに?

 まあ仕方ない。とりあえず体は無事だ。まずは、ほっとした。しかし、魔王にあんな切り札があったとは…。


 今度は手心を加えぬ!

 速攻でぶっ倒してやる。今から魔王の城に乗り込もう。こんな納屋は出るぞ! 俺は外に出てみて驚いた。

 これは!? この静けさ、建物の痛み、明らかに人は住んでいない。廃村か。


「おい、誰かおらんか!」


 えっ? 女の声がする。誰かいるのか。いや、ちょっとまて。


「おーい!」


 やっぱりそうか。自分の声か? えっ、どうなっているのだ。俺は慌てて自分の体をみた。

 な、なんだと! この服は! まるで賢者ではないか!?

 鎧は!? 武器は!? 杖!?


「そうだ。か、鏡、鏡はどこだ!?」

 俺は、人生で最も焦りながら、鏡の前で絶叫した。


「な、なにぃーーーーーーーー!!! お、女になっている!」


 魔王の野郎! くそ…こういう…ことか! 俺から…勇者の力と男の体を奪ってしまえば…もぅ…奴には勝てない…。

 俺は、混乱している。色々な事が起こり過ぎて…。

「う…うそだろ…し…しかし…」

 これは…いい女になっている。

 くるりと回ってみた。髪の毛はサラサラする。

「金髪か…美しい。顔も可愛い。悪くはないな…」

 なぜか、俺は見とれてしまった。しかし…なんだ…この感じは…。

 顔を思わず触る。すごい。すべすべだ。手も綺麗だ。触ってみた。柔らかくてぷにぷにする。

「すごい。この吸い付くような触り心地、きれいな肌、そして柔らかい。これが女か」

「ふむ、胸はちいさめだ。残念だ…」

 くっ、なんで俺は残念がる。いや、悔しがっている。まさか! やっぱりあそこも。


 ………。


「ない、ない、ないよ~! まあ、この姿であったら逆におかしい」

 とりあえず、落ち着け、落ち着け。深呼吸だ。いや、無理だ。ははっ…もぅ、泣けてきたし…声も震えてきた…。


 この廃村にいても仕方ない。近場の集落にでも行ってまずは落ち着きたい。コーヒーでも飲みながらこれからの事を考えなければ。それと、情報がほしい。どこだかさっぱりわからない。


 俺はがっくりと肩を落とし、ふらふらと怪しい足取りで集落がありそうな方向に歩きはじめた。

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