おすそわけ


「これ、先日のお礼ですのよ」

大塚婦人はそう言うと私へ大きなスイカをひと玉差し出した。

よく晴れた昼下がり。塀の上では野良猫が虚空を見つめている。

「あの、先日と言いますと」

「あら、覚えていらっしゃらなくて? あなた拾ってくだすったじゃない。わたくしのお洗濯物」

「ああ……」

そういえば、道に落ちていた白い靴下をたまたま拾ったことを思い出す。

「いえ、あの程度のことでこんな……いただけませんよ」

断ろうと手の平を向けるも、大塚婦人はむしろこちらへ一歩体を近づける。

「たまたま田舎からこの大きさが二つも送られてきたんですの。わたくしは亭主と二人暮らしですから、とても食べきれなくて。ぜひご家族で召し上がってくださいな」

わたしと夫と二人の娘。確かに四人で食べるには丁度いい大きさだろう。

とうとう根負けし、スイカを受け取ると、大塚婦人は「またお会いしましょう」と言い残し去っていった。

いやはや、靴下を拾っただけでスイカをもらってしまった。

そこで、そういえばこの町の住民はよく人に何かをおすそわけしているな、とふと思った。

隣の家の榊さんは、庭で育てているナスやキュウリを持ってきてくださる。

はす向かいの落合先生は旅好きで、よくご当地の銘菓や郷土料理を買ってきてくださる。


そして裏にお住まいのインセクター羽蛾さんは、時々わたしたちへカードをくださいます。


「ヒョヒョヒョ……」


あっ、噂をすれば羽蛾さんだ。

どうもどうもこんにちは。どうされたんですか今日は。

え、レアカード? いやそんな申し訳ないですよ、いつも頂いてばかりで……。



ちょ、羽蛾さんw

これゴキボールwwwレアカードなんかじゃないwwwww

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