隣のクラスのS級美少女がガチャをきっかけに「同棲しよ?」って求めて来るのが、愛おしい件
遥 かずら
第1話 S級の美少女師匠さん
両親が経営するコンビニで、今日もいつものようにマネーカードを購入した。
もちろん、アルバイト代を使ってその日の売り上げに還元するのだから、親も文句なんか言わない。
「また何とかカードを買うのか?
「マネーカードだよ、親父。……じゃなくて、店長」
「ほどほどにな……」
家がコンビニ兼実家ということもあり、いつでもマネーカードが買える。
俺にとって最高すぎた環境のせいで、ガチャに相当つぎ込んでしまった。
そんなことがあったせいか、数か月くらい経った辺りに「お前の為にならない」とか言われて、今はアパートに一人で暮らしている。
従業員向けのアパートということもあり、家賃その他は一切かからないし学校がほぼ目の前なので、遅刻する心配が無い。ご飯については自炊を求められたけど、その辺も問題無く過ごせている。
コンビニからアパート、学校までは、徒歩で片道2㎞くらいの距離だ。
遠い所に、そこまでムキになって買いに来ないだろう――という狙いがあったらしい。
親の思惑通り、今ではアルバイトに行ったついでにしか購入しなくなった。
そんなガチャゲームとは、始めてからかれこれ一年以上の付き合いになる。
始めた当初は無料ガチャしかして来なかったが、今ではポイントをつぎ込んだ分だけのプレイヤーとなれた。
もちろん、それだけで続けて来れたわけじゃない。
俺が同じガチャゲームを一年以上にも渡って続けて来られたのも、"師匠"のおかげにほかならない。
何も分からずに弱い俺を強くしてくれたのは、シズキという上級プレイヤーがいたからだ。
シズキとは今では友達登録をしていて、メッセージのやり取りをするようにまでなった。俺が勝手に師匠と呼んでいるシズキは、俺が通う同じ高校に通っているらしい。
しかしそれ以外の情報が無く性別も不明で、あくまでもガチャゲームの中でしか会えない状態だ。
一年以上も面倒を見てくれているというだけなのに、シズキに会いたいという気持ちが溢れ出した結果、俺は思い切ってメッセージを送ってみた。
「師匠! 俺は師匠に直接会って、語り合いたいです。ルール違反なのは分かっています。でも会いたいんです!」
基本的にどんなゲームでも、ルールが存在する。
ゲーム上では友達でも、現実までは踏み入れてはいけない。
それを知りながら、駄目もとでメッセージを送った。
すると、まるで定型文のような返事が返って来た。
「放課後、教室にて」
こ、これは、まさか本当に師匠に会えるのか。
興奮した俺だったが、師匠からのメッセージ以降は何事もなかったかのようにガチャを楽しんだ。
こうなるともう、明日が待ち遠しくてたまらない。
明日はアルバイトも入れていないし、師匠にお礼を言いまくろう。
翌日になり教室に入ると、すでに引退を決め込んだ元ガチャ友であり級友でもある、
「なに浮かれてんだ、輝」
「そ、そうか? そんなことないけどな」
もしかして顔に出ていたのか。
遊馬とは一年の頃からの付き合いで、そもそも俺をガチャゲームに引き込んだ張本人でもある。
飽きっぽい性格らしく、俺だけが長く続け遊馬はすぐにやめていた。
もっともそのおかげで師匠と呼べるシズキに出会えたし、放課後に出会えるわけだ。
「――で?」
「あ、いや……何というか。ガチャ友に会えるっていうか」
「おいおい、マジか。ガセじゃねーの? 引き込んだオレが言うのも何だけど、夢は見るなよマジで」
こういう現実っぽいところも遊馬らしい。
遊馬は俺と比べても女子受けがいいし、成績も優秀で先輩後輩分け隔てなく付き合える奴だ。
対する俺は、可もなく不可もなく。
これといった強い個性は無いし成績も中くらいで、それこそガチャゲームと同じ中級クラスのプレイヤーと言ってもいいくらい、平均的な男子だ。
身長も平均で、運動神経もそこそこといった感じと言える。
唯一優れているのは、実家がコンビニというくらい。
マネーカードを買うには最適なので、そこだけは勝ち誇れる。
「分かってるよ。気を付ける」
遊馬には細かいことまで教えずに、とにかく放課後になるまで時間を過ごした。
同じクラスの連中は体育系が多くて、すぐに教室からいなくなる。
こういう時は、ありがたいと思ってしまった。
もうすぐ師匠に出会える――なんて期待していた俺だったが、放課後はともかく教室と書かれていただけで、それがどこの教室なのか分からないことに気付いた。
しかも師匠が先輩なのか後輩なのかさえも不明だ。
でも待てる教室というと自分のクラスしか無いし、他は知らないし行けるはずも無い。
遊馬の言うようにガセで、しかもからかわれただけだとしたら。
その瞬間、急に不安に思ってしまった。
それに時間だけが過ぎていたことで、勢いよく自分の席を立った状態で呆然としていた。
机の上に置いていたリュックを肩にかけ、席を離れようとしたその時――。
ワイシャツの胸の辺りに伸びて来た手が、俺をトンッと押して来た。
押す力はそれほど強くは無かったが、席に着くのを迷っていると、透き通るような声が届いた。
「落ち着いてそこに座りたまえ」
――この言い方は、まさか。
「も、もしかして、師匠……ですか?」
俺の言葉にぴくっとした女子は、どうやら師匠で間違いないらしい。
いやそれにしたって、おかしいくらいの美貌でまつ毛の先まで愛おしいレベルすぎる。
国の宝と言っても過言じゃないくらいの顔面だし、骨格、体のパーツ、すらりとした細い腕に足――何から何まで、S級の美少女と言っていい。
さらさらで長い黒髪も、まるで輝いているかのように綺麗だ。
一見するとクール美少女のように見えるが、どこか無邪気な少年っぽさを感じるところもいい。
しかも極めつきは、独特な言葉だ。
師匠と呼んでも、違和感がまるで無い。
「テルくん、落ち着きたまえ」
「え、あれ? 名前はまだ教えてませんよね?」
「君は中級のテルだろう? そして私が誰なのか、君は知っているはずだ」
ああ、そうだった。
ガチャゲームでも名前で登録していたんだ。
セオリーは大体当たらないことが多かったけど、師匠と呼ぶ彼女には当てはまるわけか。
「上級プレイヤーのシズキ……?」
「正解だ。褒美をやろう。何がいい?」
「な、名前を教えてください」
「……あぁ、すまない。私の名は、
「
これは、第一歩と言っていいのだろうか。
彼女がまさか師匠で、しかもこんな出会ったことが無いS級の美少女だなんて。
高校二年目でもうすぐ夏になるけど、春が来た――かもしれない。
「では、輝くん。語り合うとしよう」
「あ、いや、もうすぐ帰る時間かと」
俺の返事に、彼女はさすがに目を丸くさせた。
俺から会いたいとメッセージを送っておきながら、ちゃんと会えたから満足したとでも思われただろうか。
決してそんな酷いことではなく、俺も彼女も焦ることにならない為の返事だったのだが――。
「君は私が嫌いか?」
「え、そんな……そうじゃないです。えっと、窓の外が……」
「窓? 心配しなくとも、ここは二階だ。誰かが入って来ることもない」
「いえ、そうではなく」
せっかく出会えたしたくさん話をしたいのは山々だけど、外が結構暗くなり始めている。
何だかんだで、彼女が現れるまで時間がかなり経っていた。
そうなると運動部以外の生徒は、高確率で締め出しをくらってしまう。
惜しいけど、教室で語り合うのは難しくなってしまった――というのを伝えたかった。
しかし彼女は俺だけを見つめていて、そのことに気付いてもいない。
急に恥ずかしくなって思わずスマホに目をやった上、照れ隠しのつもりでゲームを起動させてしまった。
こんな美少女に見つめられるなんて人生で初なのに、幸運の無駄遣いなのでは。
「――ああ、君の言っていることをようやく理解出来た。コンビニに行きたいのだろう?」
「えっ……? あ、そうですそうです!」
そうじゃなかったけど、スマホを見たことが功を奏したのか。
これもガチャをしている者同士でしか通じ合えないものだとすれば、嬉しく感じる。
それに実を言うと、学校帰りにコンビニに寄るのは俺の日課だ。
マネーカードを買うついでと親に顔を見せる為でもあるが、いい方に取るようにしなければ。
「ではそうしよう。輝くん、コンビニへは歩いて?」
「あ、です。歩いて行ける距離なので」
「それなら君について行く」
そう言うと彼女は、何とも凛々しい立ち振る舞いで、俺が歩き出すのを黙って見守っている。何から何まで美しすぎる人が俺の後ろに立っているなんて、夢を見ているのではと錯覚しそう。
身長は同じくらいなのに、違う次元にいる感じだ。
彼女は歩幅を合わせるようにして、俺の一歩後ろをついて来ている。
その所作が完璧すぎて、迂闊に振り向けない。
後ろをついて来ているとはいえ、ずっと無言のままだ。
かなり気まずいので、積極的に話しかけることにした。
姿を見ないまま話しかけることになるが、今はその方が話しやすい。
「師匠は、何年生なんですか?」
「輝くん。私のことは静稀と呼びたまえ」
「え、し、しかし……初めて出会ったばかりでそれは――」
「一年以上の付き合いのはずだが?」
それは本当にそのとおりで、ガチャゲームの中では一年以上が経った。
こうして違和感なく話しかけることが出来ているのも、そのおかげではある。
自分としては親しみを込めて師匠と呼んでいるつもりなのに、彼女にとってはそうじゃないのだろうか。
「じゃあ、静稀さんということでいいですか?」
「それでいいよ、輝くん。それと、君は同い年の女子とは敬語で話すんだな」
なるほど。同学年の女子だったようだ。
それにしては大人びているし、年齢とか関係無しに眩しいくらいの美少女すぎる。
こうやって会話で透き通りの声を聞いているだけで、癒し効果が得られそう。
歩道を照らす街路樹よりも、彼女の方がずっと輝いて見える。
「これはその、静稀さんが師匠なのでクセになっているだけで……」
「それでは今日という日を境に、話しやすいようにしよう」
「つまり、ため口……」
「私に遠慮することはない。輝くんが決めたまえ」
すでに彼女のペースに乗せられている気がする。
師匠と呼ぶのは自分だけにして、彼女と話す時だけは努力するしかなさそうだ。
「よ、よろしく、静稀さん」
「輝くん、よろしく」
独特な口調なのに何の不思議さも感じないし、とにかく聞きやすいとさえ感じられる。彼女には言えないが、遊馬と違って他の女子とほとんど話したことが無いからだろう。
「もうすぐ着きます……じゃなくて、着くので」
話しながら歩いていたせいか、いつもより早く着きそうだ。
視界にコンビニというか、実家が見えて来る。
そう思っていたら、後ろの彼女から息が漏れ出しているのが聞こえて来た。
「……はぁっ。輝くん、君は嘘つきだ!」
「えぇっ? ど、どういう――」
「コンビニまですぐと言ったじゃないか。それなのに、一体どこまで歩かせるつもりがあるんだ?」
俺としては歩き慣れた距離だし、徒歩で大体20分くらいなら近いと思っていた。
それってもしかして、俺だけの感覚だったりするのだろうか。
どうりで、少しずつおれの後ろをついて来るのが遅れているなと感じていたけど、そういうことだった。
運動部では無いとはいえ、実は鍛えられていたのか。
もしかしなくても師匠は、いいとこのお嬢様とかだったりして。
そんな俺に呆れたのか、彼女は深く息を吐きながら予想外の行動に出た。
「――ふぅっ。ふふ、これでいい」
「し、静稀さん?」
「いいから、君はそのまま歩きたまえ! 私は君に引っ張られているだけなんだ」
彼女が指先で掴んでいることで、俺の制服が後ろに引っ張られている。
その姿を見ることが出来ないのは残念だが、その仕草を想像しただけでもにやにやが止まらない。
何とも言えない高揚感を味わっていたら、目の前にコンビニが見えていた。
やはり感覚的にいつもより早く感じる。
立ち止まったところで後ろを振り向くと、そこには誰もいなく店の方に目をやると、彼女の姿はすでに店内にあった。コンビニに来るまでが大変だったはずなのに、外から見える彼女の表情はとても無邪気なものに見える。
他に客がいたとしたら、誰もが彼女に一目惚れしてしまうだろう。
そういう俺も、実家でありながら店に入る最初の一歩が踏み出せない。
そう思っていたら、彼女が店内から顔だけ覗かせて来た。
「こら、輝くん。君から誘っておいて、私だけを楽しませるつもりか?」
「い、いま行きます! 今すぐ!」
コンビニに入るだけなのに、こんなにも心が弾むなんて彼女が魅力的すぎる。
買うものはいつもと変わらないというのに。
でもまずは、師匠である静稀を楽しませることに集中しよう。
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