第134話



【乙女組サイド】



「はぁっ」



 迫りくるゴブリンたちをバッタバッタとぶった切る。倒しても倒してもどこからともなく補充されてくるゴブリンどもに嫌気が差しながらも、この状況をどうにかするべくあたしはとにかく体を動かす。



「まったく、切りがないったらありゃしない。どうすりゃあいいんだ!?」


「あの大きなゴブリンを何とかするべきなんだろうけど、こちらの攻撃は通らないみたいだしね」


「僕、もう疲れちゃったよ」


「【フレイムバレット】! 周りのゴブリンたちをある程度倒せばいいのでしょうか?」



 あたしの悪態に近くで戦っているカエデとユウとミーコが反応する。ちなみに、ユウは別の場所で戦っていたらしく、後で合流してきた。



 カエデが指摘するように、この戦いでのキーモンスターは、あのジャイアントパワーゴブリンとかいう見るからにボスだと自己主張するデカブツ野郎だ。



 開幕から現れたの三体のデカブツは、我が物顔でフィールドを徘徊している。その攻撃は鈍く余程油断していなければ当たらないお粗末なものだが、その一撃は侮れないほどの威力を持っている。事実、あの攻撃を受けた男性プレイヤーはその一撃で死に戻っていった。死ぬ間際に「まずは一回目の死に戻りじゃあー!!」と意味の分からないことを叫んでいたが、彼のお陰でデカブツの一撃がどの程度のものなのか知ることができた。



 奴の攻撃に注意しつつ、確実に体力を削っていく作戦を結構したのだが、表示されたHPのバーが減少することはなく、何かしらの条件を満たさなければダメージが通らないという結論に早々に至ったため、現在は各々デカブツ以外の雑魚ゴブリンを相手に奮闘している。



「あっ、アカネさん。ジューゴさんです」


「なにっ!?」



 ミーコの言葉に脊髄反射的反応で、首をグイっと向ける。視界の端で呆れたような視線を向けるカエデとユウの姿が映ったが、そんなことを気にしている余裕などはない。



 多数のプレイヤーがいる中、目を凝らしてよく見てみると、鳥型モンスターに乗った彼の姿が映った。その横顔はまるで少年のように生き生きとしており、それを見たあたしの胸の奥が高鳴るのを感じる。



 いつもふざけ合っているが、心の奥底ではもっと仲良くなりたいと思っている相手。でも、彼の前だと素直になれずムキになってしまう。まるで中学生の初恋のような感情だと思ってしまうが、自分でもどうしようもない。



「……カッコいいですね。ジューゴさん」


「ああ……そうだ――そ、そんなわけあるかっ!!」


「ツンデレだな」


「ツンデレだね」


「うるせぇー!!」



 ミーコの一言に思わず同意しそうになるが、寸でのところで否定する。そして、それを素直になれないとばかりにからかう友人二人。おのれ、どうしてくれようか。



 そんなことを思いつつも、視線は彼を追ってしまっているのだから自分の気持ちなどとうに理解してしまっている。すると、彼がどこかへと走り去ってしまった。目的地を目で追ってみると、そこはあの大きな口を開けた洞窟のようで、よく見ればそこから大量のゴブリンたちが流出していた。



 おそらくは、この状況をどうにかするために単独で行くつもりのようだが、無茶が過ぎる。そう考えていると、メッセージが表示される。



『特定条件【プレイヤーによるベロナ大空洞の侵入】を確認しました。これより、フェイズ2へと移行します』



 タイミング的にはあいつがあの洞窟に入った瞬間であるため、間違いなく彼が洞窟に入ったことで、イベントが進んだようだ。どこまでも話題に事欠かない奴だ。



 それから、ゴブリンクイーンというモンスター討伐ミッションが発動したかと思ったら、時間内にゴブリンクイーンが討伐され、あれよあれよという間に今回のイベントの最終ボスであるゴブリンエンペラーとの戦いが始まっていた。



 あたしたちは、あの洞窟を破壊しようとするデカブツを足止めすべく奮闘する。ゴブリンクイーンが撃破されたことで、確かにプレイヤーのダメージが通るようになったのだが、その防御力と体力は凄まじく、その減少率は微々たるものだ。



 あたしを含めた他のプレイヤーたちが必死にデカブツゴブリンの足止めをする中、何とか足止めが成功し、いつの間にやらゴブリンエンペラーが撃破されたというメッセージが表示していた。



「どうやら、上手くやったみたいだな」


「これでますます彼の名声が轟くね」


「うぅー、これ以上ライバルが増えるのは困ります」


「じゃあ、三人とも頑張らなくちゃね」



 ユウはともかくあたしたちは気が気でなかった。カエデはどことなく余裕な表情だけど、冗談じゃない。ただでさえ、パイ子のミーコだけでも厄介なのに、これ以上恋敵が増えるなど看過できない事態だ。



 それから、ユウはリアルで用事があるとか言ってログアウトしていった。次ログインできるのは一週間以上先だと言っていたので、しばらく三人での行動となるだろう。



 これから、彼にどうアプローチを仕掛けるかを考えつつ、あたしはイベントのリザルトを確認するのであった。






【凸凹コンビサイド】



「【エレキバレット】! あなたは邪魔だから下がっててちょうだい」


「……お前こそ、ボクの邪魔をするな」



 ご主人様にこの場を任された私は、その思いに応えるべく奮闘していたが、一つだけ気に食わないことがある。それは、今目の前でちょろちょろと動き回っているNPCの女の子だ。



 見た目的にはダークエルフの少女らしく、その動きは洗練されており只者でないことが窺える。あのご主人様が、自分の代わりを任せられると判断しただけはあるみたいね。



 でも、あの方の役に立てる存在など私以外に必要はない。故に、この子は私にとっていろんな意味で敵だ。まあ、胸は私よりも小ぶりで体型も小柄だし、私に勝っている部分などあるわけがない。だというのに、出会った最初からこの子は私に敵意を向けてきた。



 おそらくだけど、女の勘で私がご主人様に思いを寄せていることを察知したようで、自分の敵になり得ると感じ取ったみたい。でも、私もたかが少女如きに身を引いてあげるわけにはいかない。



「おっふ。なかなかいい攻撃だ。だが、まだパッションが足りんな」


「何がパッションだ。ただの雑魚ゴブリンにそんなものを求めるな! そして、もっと真面目に戦え!!」


「そうでござるよ、ニコルソン殿。まともに戦えば、貴殿もそこそこ強いではござらぬか。なぜそこまで死に戻ろうとするでござる」


「そんなものは決まっている! そこに死に戻りが待っているからだ!!」


「「待ってねぇよ(でござるよ)!!」」



 さらに私をいら立たせているのが、私と同じくご主人様に直接この場を任された奇妙な三人組だ。周りの聞こえてくる情報では、掲示板の住人らしくその界隈ではかなりの有名人らしいけど、前線組の私が知らないということは、そこまで実力はないと判断していいわね。



 何故か知らないけど、三人の内の一人ニコルソンという男。謎にゴブリンの攻撃を受け続けている。あれではすぐに死に戻ってしまうんじゃないかしら。



 彼をフォローしている二人はかなりのもので、確かな実力があることが窺える。でも、それをすべてあの男が台無しにしているのは明白だった。人にはいろんな事情があることは理解しているから口は出さないけど、あれじゃあ二人が可哀想だわ。



「グオオオオオオオ」



 私がそう考えているタイミングで、あの大きな巨大ゴブリンがこちらに攻撃を仕掛けてくる。攻撃自体は鈍くてとても避け易いから、攻撃の予備動作さえ把握していれば問題なく避けられるのだけど……。



「よし来い! 三回目じゃ!!」


「やめんか、アホタレ!!」


「これ以上死に戻ってはいけないでござるよ!!」



 あの巨大ゴブリンの攻撃を真正面から受け止めようと、ニコルソンとかいう男が前に出ようとするが、その動きを読んでいた二人が止めに入る。まあ、当然よね。



 それから、ご主人様がゴブリンクイーンを倒したことによって巨大ゴブリンに攻撃が通るようになり、洞窟を破壊しようとするのを妨害している間にあっけなくゴブリンエンペラーが撃破されてしまった。



 さすがはご主人様と言いたいところだが、まさかたった一人でゴブリンのボスを倒したっていうことだよね? うん、やっぱり異常だわ。



「まあ、とりあえず。ご主人様を迎えに行かなくちゃ」


「……」



 ご主人様の活躍に喜びつつ、私は生意気な小娘と一緒に彼の元へと向かった。

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