第十一章 転移魔法とダンジョン

第97話



「【フレイムバレット】!」


「クエー!」



 俺の手から10センチほどの長方形の形をした小さな無数の火の弾丸がモンスターに襲い掛かる。

 敵は泥人形型のモンスターで、【ロウェナマッドマン】という名前だ。



 手から放たれたフレイムバレットが三体の【ロウェナマッドマン】に命中し、人形の形からただの泥の塊へと成り下がる。

 クーコはクーコで自分に身体能力強化魔法を施すと、クエック最大の武器である蹴りで仕留めていた。



 現在俺たちは王都【ラヴァルベルク】を出てすぐの平野である【ロウェナ平野】でモンスター狩りを行っている。



 目的は言わずもがな、【魔導師】のレベルを20まで上げ【テレポーテーション】の魔法を覚える事だ。

 ついでに【剣士】、【鑑定士】、【盗賊】のレベルもいい感じに上げたいところではあるが、とりあえず最優先は【魔導師】だ。



 今のところ魔導師のレベルは13まで上昇しており、その過程で【フレイムバレット】【アイシクルバレット】【エレキバレット】の範囲型の三種類の魔法を覚えた。



 一緒に行動しているクーコといえば、自身の種族職業である【クエック】はレベル26に【僧侶】はレベル18になり【蹴術士】に至ってはレベル21にまで成長している。



 コブリン軍との決戦までには何とかクーコの全て職業レベルを30以上にして、俺の職業レベルは40以上にするのが理想的だと考えている。



 最もこれは飽くまでも理想であって目標ではないので、できればという注釈が付くもののできれば達成したいところではある。



 そんなわけで目下レベル上げ中の俺たちだが、【ロウェナ平野】に登場する主なモンスターはさっきまで戦っていた【ロウェナマッドマン】にキノコ型のモンスターである【ロウェナマッシュルーム】と牛型のモンスターである【ロウェナバッファロー】だ。



 【ロウェナマッドマン】は某有名RPGに登場する泥人形とは違い仲間を呼ぶ事はないが、自分の体を形成している泥を投げつけてきたり、物理的な攻撃としては殴りかかってきたりもするがそれほど脅威は感じない。



 次に【ロウェナマッシュルーム】は同じくあの有名なキノコ型のモンスターと違い眠りへと誘う息は吐いてこないが、一度に出現する数が多く徒党を組まれると面倒なことこの上ない。



 最後の【ロウェナバッファロー】は牛型のモンスターという事で、一発の攻撃力はデカいものの、それこそ当たらなければどうという事はないので問題はない。



「うーん、それにしても解せないなぁ~」


「クエ?」



 俺はメニュー画面のステータスの称号一覧を見ながら何度呟いたかわからない言葉を呟く。

 それは王女と話をした後のことなのだが、とある称号を獲得してしまったのだ。



 俺にそんな自覚はまったくもってないのだが、二つの称号が追加されたとアナウンスされたのだ。

 え? 勿体ぶらずに教えろだって? いいだろう、そこまで言うなら教えて進ぜよう。その称号とはこれだ!



 【天然たらし】



 思わせぶりな言動で、相手に勘違いさせてしまう者に与えられる称号



 獲得条件:5人以上の好感度を特定の数値以上にすること  発動効果:異性からの好感度が上がり易くなる(NPC限定)




 【傍若無人ないたずら小僧】



 他人の事などお構いなしに我が道を行く者、相手についつい意地悪をしてしまう者に与えられる称号



 発動条件:10人以上に自分勝手な人間だと思われること  発動効果:戦闘時自分以外のパーティーに所属する仲間のステータスに補正が掛かる(補正幅は-5%~+5%)




「解せぬぅぅぅううううう!!」


「ク、クエー!?」



 なんでだよ!? なんでこんな称号が手に入ってんの!? おかしくない!?

 まず【天然たらし】からだが、いつ俺がたらし込んだんだ? そんな記憶は一つとして……なくはないか?



 しかも5人以上の好感度を上げるっていうことは少なくとも5人が俺に好意を抱いてるって事かこれ?

 一応今まで出会った女の子で好意を持たれてる自覚があるのはルインとアキラくらいだぞ?



 ああ、最近で言えばバレッタさんもそうなのか? あと異性以外も含まれるなら、プリオとか親方とかかな?

 何にしても俺にたらし込んだ記憶がない以上こんな称号認められんぞ!



 次に【傍若無人ないたずら小僧】に関しては、自覚症状は……ある。

 今まで散々好き勝手にやってきたのは認めるし、他の人間に一定数の迷惑を掛けていることも分からなくはない。



 だがしかし、だ・が・し・か・しだ。

 自覚があるという事と実際それを称号としてもらって嬉しいかという事は、別問題でありこれに関しても認めるわけにはいかない。



 そう思い俺はGMに抗議のメールを送ったのだが、矢継ぎ早に短い返事でこう返ってきたのだ。



 “あなたに拒否権はありません”と……。



「解せぬ……」


「クエ……」



 どうやら俺の中で新しい口癖が生まれてしまったようだ。

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