第52話
「おらおらおらおらおらーー」
気合の籠った声を上げながらモンスターの群れを蹂躙し、その血肉を糧としていく。
今日もまた昨日同様コルルク荒野のモンスターを相手に職業レベルを上げていた。
もちろんそれだけでなく、戦術的な要素も取り入れつつ実践していくことも忘れてはいない。
あの後色々と試してみたが、どうやら俺は超接近が得意のようで【縮地】を使って相手の懐に飛び込み、そこから強力な一撃を加えるというスタイルが定着しつつあった。
もっとも、使える戦術がそれだけだと馬鹿の一つ覚えのようにそれしかできなくなってしまうので、わざとモンスターに攻撃させそれを避けてから懐を取り、カウンター攻撃を食らわせるという方法も取り入れていった。
盗賊の職業を獲得したことで俊敏性と命中のステータスが大幅に上昇したので、スピード重視の戦い方が今の俺には向いているようだ。
しばらく自分に合った戦い方を模索しそれを定着させていった。
最終的な結果として28だった剣士のレベルは37になり、22だった盗賊も31にまで上がっていた。
鍛冶職人は鋼の剣を作製した時に上昇しており32から35に、料理人も空いた時間で【時間短縮】を使って手早く作り上げ29が33にまで上がっていた。
これで新たに獲得した職業を含め、全ての職業レベルが30を超えたことになる。
武器防具共に性能も上がり、ちょっとやそっとのことではピンチになることも少なくなっていた。
これならば来たる武闘会のモンスターとも勝てなくとも少しは戦えるのではないかと期待している。
ちなみに現在俺が所持している所持金は約73万ウェンほどだ。
なぜそれだけの大金を持っているのかはフリーマーケット場で出品している料理によるところが大きい。
生産系の情報は掲示板などで細かにチェックしているが、未だに俺に替わる新たな料理人は出てきてないようだ。
というのもこのFAOでは現実世界での料理スキルが重要なカギを握っており、なかなか高品質な料理を作るのは難しい。
実際に食材を使って現実世界同様に適切な調理手順を踏まなければ、料理自体が完成しないからだ。
料理人自体はちらほらと出てきてはいるものの掲示板の意見としては「やっぱりセルバ百貨店の料理が一番だな」という結論に行き着いてしまっているようだ。
俺は別に金の亡者ではないし、料理一本でやっていこうとは思っていないので、早く俺以外にも美味い料理を出す料理人が現れて欲しいものだ。
そんなことを考えながら手ごろな岩に腰かけ、収納空間から以前作っておいた目玉焼き丼を胃袋にかき込んでいると、俺の気配感知に気になる反応があった。
不審に思った俺は料理を急いで平らげ、そのままその場所に向かった。
「人……襲われているのか?」
そこには数十匹という途方もない数のモンスターに囲まれた人がダガーを片手に戦っている光景が目に飛び込んできた。
姿形や男か女かといった外見的特徴などは全身をフード付きの外套で覆い隠しているためはっきりとは分からない。
俺の存在に気付いたのか一瞬だけこちらに視線を向けてきたのが気配感知でわかった。
(さて、どうするか……助けるにしてもメリットがないな……)
人間というのは自分にとって利益となるような事がないと他人のために行動しない生き物だ。
よくアニメやドラマなんかで他人のために無償で助けたり協力したりしているが、現実でそういうのは一切ない。
これが仮に現実の世界で起きていたとして、自分の命を犠牲にして何の見返りも求めずに他人を助けたりするだろうか?
答えは否だ。
しかし、今襲われている者にとって幸運だった事が二つある。
一つは俺にとってこの世界は一度死ねばそれで終わりの現実世界ではなく、リスクはあれどもその気になれば何度でも蘇ることができる仮想現実の世界だという事。
そして二つ目は今襲っているモンスターは今の俺にとって何の脅威にもならないということだ。
「はっ」
俺はそのまま地面を蹴りモンスターの群れへと肉薄する。
それに気づいたモンスターの一部が襲い掛かってくるが、一瞬のうちに切り伏せていく。
その後モンスターの死骸の山が出来上がるのに時間は掛からず、全てのモンスターを掃討するのに十分も掛からなかった。
全てのモンスターを片付けた後、俺は未だに警戒態勢を取っている相手に向かって問いかけた。
「おい、そこのお前大丈夫か?」
「……」
返答はなかった。
かなり警戒されているようで、こちらが一歩進めば向こうは二歩後退するという構図が出来上がっていた。
俺は相手にも聞こえるようにはっきり嘆息すると、やるせない態度といった雰囲気でさらに問いかけた。
「別にお前をどうこうするつもりはないから事情を聞かせてくれないか? なぜモンスターに襲われていた」
「ほっホントに襲ってこないか?」
「襲う気があるならモンスターを片付けた後すぐに襲っているだろ?」
その声は声変わり前の男の子なのか、それとも純粋に女の子なのかどちらかは分かり兼ねたが、鈴を転がしたような綺麗な若い声音だった。
とりあえずこのまま睨み合っていても仕方がないと思ったのか、相手が警戒態勢を維持しながら俺の問いに答え始める。
「む、村に帰る途中でいきなりモンスターが襲ってきた。この荒野では大規模なモンスターの群れがよく発生することがある。たぶんそれに巻き込まれた」
「そうか、それは災難だったな。じゃ俺はこれで」
「えっ?」
俺の答えが意外だったのか、表情は分らないがきょとんとした声を上げていた。
これ以上この子に構うつもりもなかったので、早々にその場から引き上げることにした。
ひょっとしたら何か隠しイベント的な何かだったのかもしれないが、今は武闘会の準備に専念すべきだろう。
そのまま荒野を進み続けていたのだが、常に気配感知を発動している俺に見つからないとでも思っていたのか、その子が後ろからこっそりと姿を隠して付いてきているのがわかった。
「はぁー、何か俺に用でもあるのか?」
そのまま立ち止まると俺は振り返らずについてきている人物に向かって聞こえるように声を張り上げる。
数秒ほどの沈黙がその場を支配したが、観念して先ほどの助けた者が姿を現した。
「な、なんでわかった」
「俺には気配を感じ取る技がある。一定の距離にいる生き物の位置なら大体わかるぞ」
「……」
俺の言葉にどこかムッとした雰囲気になったが、しばらくしてフードを取りその容貌を曝け出した後、俺に向かって言い放った。
「ボクはアナタに助けられた。だからお礼がしたい、一緒に村に来て」
フード取った容姿は褐色の浅黒い肌に目鼻立ちの整った顔をした男の子とも女の子とも取れる若い人物だった。
見た目の綺麗さもさることながら、何よりも特徴的だったのが長くぴんと尖がった耳だ。
この特徴に合致する種族は一つしかない、その種族とは……。
「お前、ダークエルフか」
「ん、ルイン」
「ルインって?」
「ボクの名前、ルイン。君は?」
「ああ、俺はジューゴ、ジューゴ・フォレストだ」
お互いに簡単な自己紹介を済ませたが、俺に助けられた礼をしたいから村に来いというなんともテンプレートな展開だった。
さらに戦術に磨きをかけたいところではあったが、このFAOで人族以外に初めて出会ったということもあって、少しテンションが上がった俺はこの子の申し出を受けることにした。
決して、この子が「来て欲しいなぁ~」という捨てられた子犬のような目をしていたからではないということを声を大にしていっておく。
ダークエルフの村か、どんなところかちょっとだけ楽しみだ。
※今回の活動によるステータスの変化
【プレイヤー名】ジューゴ・フォレスト
【取得職業】
【剣士レベル37】
パラメーター上昇率 体力+228、力+160、物理防御+148、俊敏性+87、命中+68
【鍛冶職人レベル35】
パラメーター上昇率 体力+217、魔力+85、力+138、命中+52、賢さ+60、精神力+111、運+8
【料理人レベル33】
パラメーター上昇率 体力+165、魔力+107、力+72、命中+60、精神力+66
【盗賊レベル31】
パラメーター上昇率 体力+145、魔力+68、物理防御+85、俊敏性+142、命中+107、賢さ+67
【各パラメーター】 【補正後(10%)】
HP (体力) 716 → 843 → 927
MP (魔力) 287 → 330 → 363
STR (力) 309 → 380(+82) → 418(+82)
VIT (物理防御) 182 → 245 → 270(+125)
AGI (俊敏性) 175 → 238 → 262(+75)
DEX (命中) 236 → 295(+48) → 325(+48)
INT (賢さ) 113 → 137 → 151
MND (精神力) 163 → 187 → 206
LUK (運) 28 → 31
スキル:時間短縮、鍛冶の心得、十文字斬り、身体能力向上、縮地、気配感知、隠密、盗賊の心得
称号:勇ましき者
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