第51話

 ドゥーエチッタに到着した俺は職業レベルの向上を図るため、そのまま街を抜け次のフィールドを目指していた。

 だがそんなときに限って邪魔が入るのはどうやらこの仮想現実の世界も同じのようで……。



「きゃあ、やっ止めてください!」


「いいじゃねえかよ、ちょっとくらい付き合ってくれたってよぉー」


「少しくらい相手してくれてもバチは当たんないだろう?」



 これまた物凄いテンプレートな展開だな。

 果たしてこのシチュエーション、どれだけ使い古されて来ているのだろうか。

 人通りの多い場所を避け、裏路地に回り込んだところ、一人の女の子が二人組の男にナンパされているようだった。



 ナンパといっても嫌がる女の子を無理矢理誘っているようにしか見えないのでただの迷惑行為でしかないのだが、さてどうしたものか。

 え? 助け出せって? ですよねー、普通ならそうしますよねー。



 ただ考えてみて欲しいのだが、あの子を助け出した後どういう事になるのか分かるだろうか?

 仮にここで助けたとしたらこの後立てている俺の予定が狂うことになってしまう、それは避けねばならない。

 ただでさえイベントまで時間が無いというのに面倒事に首を突っ込んでいたらキリがない。



 だがこのシチュは確かに誰しもが思い描く理想的なシチュではある。

 女の子が悪漢に襲われているところを颯爽と登場し、助け出す主人公の構図ですね、分かります。

 ここで彼女をカッコよく助ければ、あの子と仲良くなれるかもしれない。



 だがしかし、何度も言っているが、俺はこの世界にラブを求めに来てはいないのだ。

 なに? 講釈はいいから早く助けろだって? わーったよ、助けりゃいんだろ、助けりゃ!



 俺が誰とも知れない誰かに言い訳じみたことを心の中で言っていると、突然どこからともなく声が響き渡った。



「待て、待てぇええい! そこの二人組! か弱い乙女に狼藉を働くとは許せん、成敗してくれる」


「まったくいきなり一人で突っ走って行ったと思ったら、何を言ってるんですか? とうとう頭の栄養がおっぱいに吸われつくしたんですか?」


「ミーコちゃん、そういうのは胸の慎ましい女性が言う言葉であって君が言うと嫌味にしか聞こえないよ? それからアカネも先走らない」



 そこにいたのはこのFAOの世界で数少ない俺の知り合いのじゃじゃ馬シスターズではないか。

 ちなみにじゃじゃ馬シスターズという言葉は今思いついた。



 閑話休題、話を戻そう。

 俺が最高のタイミングで入っていこうとした時にそこに割って入ってきたのはアカネだった。

 相変わらず自己を主張する膨らみをぷるんと揺らしながら、悪漢に言い放つ。

 馬鹿につける薬はなんとやらという言葉があるが、いつも通りの馬鹿発言に俺はため息を漏らす。



「む!? 今ジューゴがいなかったか?」


「たっ確かに今の吐息はジューゴさんのものだった気がします」


「そうかい? 誰もいないみたいだけど……」



 危ない危ない、危うくバレるところだったぜ。

 今の俺は盗賊のスキル【隠密】で姿が認識できない状態にはなっているが、透明人間になったわけではないので声を出せば当然相手に聞こえるのだ。

 それにしてもため息だけで俺の気配を察知するとは、女とはやはり恐ろしい生き物だな。



 とりあえず彼女たちの実力ならあの悪漢に遅れを取ることはないだろうし、ここはあの三人組に任せるとしますか。

 か、勘違いするなよ。決して出番を横取りされた訳じゃないんだからねっ。

 ちょっとツンデレっぽく心の中で言い訳した後、俺はその場を後にした。



 余談だが、その後はアカネ一人が悪漢二人をボコボコにし、襲われた女の子は無事に助けられた。

 助けたのはアカネだったが、なぜか女の子はカエデさんにしきりにお礼を言っていたらしい。



 その後裏路地を通り、街を抜け最初に入ってきた入り口とは反対の門から街を出る。

 そこに広がる光景は一言で言えば……【荒野】だ。



 最初のフィールドだったオラクタリア大草原とは打って変わって水気のない岩肌と雑草や灌木などが目立つフィールドとなっており、その環境に適応したモンスターが生息している。

 予想だが、おそらくサソリや蛇など現実の砂漠や荒野などに生息する動物を模したモンスターがいると思われる。



 どうやら俺の予想は当たっていたようで、気配感知のスキルを使用すると少し進んだ先にモンスターのいる気配があり、現場に到着するとサソリのモンスターが二匹いた。

 体の大きさはゲームの世界ということもありかなり大きく2メートルから2メートル半ほどあり、二つのカニのハサミに似た触肢と呼ばれる部位と尾節という毒を注入するための毒針がある。

 詳細を確認するとそのサソリ型のモンスターは【コルルクスコーピオン】と表記されていたので、差し詰めこの荒野の名前は【コルルク荒野】なのだろう。



 サソリのモンスターという事でまず注意しなければならないのが毒系の攻撃だ。

 直接的な攻撃を受けなくても徐々に体力が削られてしまう、RPGではよくある状態異常ではあるが、食らい続ければ一気にピンチになる厄介なものだ。

 一応今まで下級ではあるものの解毒ポーションはいくつか持っているため、万が一の時は問題ないが、それでも慎重に行動することを心掛ける。



 今俺は一人なのだ。何かあった時は全て自分の力で対処しなければならない。

 だからこそ、臆病だと言われても慎重に行動することは正しいことだと俺は思う。

 一先ず相手の攻撃パターンを見極めるため隠密を起動したままスコーピオンたちの背後に回り込む。



 そして、ここで鋼の剣を作った時についでに作っておいた、遠距離での牽制で使う鋼合金製の手投げナイフを使ってみることにした。

 幸い盗賊の職業を獲得したことにより命中のステータスが強化され、投擲スキルがなくてもある程度の大きさの的なら当てることができるようになっている。



(投擲スキルはないけど、当たってくれよ!)



 そう祈りつつ二匹のうちの一匹に向かって、手投げナイフを投擲する。

 するとナイフはそのまま吸い込まれるようにサソリに向かって行き一筋の光を生み出す。

 次の瞬間、スコーピオンの体は左右に真っ二つになってしまった。

 ナイフはスコーピオンの後ろにあった岩に深々と突き刺さって止まっている。



「え、ナニこの威力?」



 この荒野にいるモンスターの強さがどの程度なのかは図り兼ねるが、少なくともベルデの森やベスタ街道にいるモンスターよりも強いのは確かだ。

 そんなモンスターをたったの一撃で仕留めたことにも驚きを隠せなかったが、未だにナイフが岩に刺さっているところを鑑みるに、これは再利用可能ということだろう。



 圧倒的な切れ味で若干オーバーキル気味の攻撃を、下手をすれば使い放題な事実にいい意味でビビりながらも残りのモンスターに意識を集中する。

 残りの一匹は相方が一瞬のうちに屠られたことに驚きながらも、攻撃したことで隠密が解除され姿が露わになった俺を視認すると、両手のハサミを天に掲げ「キャシャー」という威嚇の声と共にこちらに向かってきた。



 一瞬のうちに相手がやられてしまったため相手の攻撃パターンが分からずじまいだったので、ここは接近戦に持ち込んで相手の出方を窺うとしますか。

 そう思い俺は腰に下げた剣を抜き放ち正眼に構えると迫りくるスコーピオンとの一騎打ちに臨んだ。

 結果としてスコーピオンの攻撃はハサミによる挟み攻撃と毒針による毒攻撃の二つのパターンだということを確認し、いたぶるつもりはないのでそのまま止めを刺す。



 いつものように素材を回収すると【コルルクスコーピオンの毒針】と【コルルクスコーピオンの鋏】といった素材が入手できた。

 この素材も何かに使えそうなので、その時のためにしっかりと集めておく。



 その後、荒野を徘徊しスコーピオンと新たなモンスター【コルルクリザード】という3メートルほどのトカゲが出てきたので、乱獲しまくる。

 どれくらいの強さかはわからないが、鋼合金製の手投げナイフと鋼の剣で攻撃した感想ではそれほど脅威的な相手ではなかった。

 お陰で剣士と盗賊のレベルがさらに3ずつ上昇し、それぞれ剣士が33、盗賊が28にまで上がった。



 肝心の戦術も【縮地】と緩急をつけた動きで相手の隙を付き、ヒット&アウェイのような戦術モドキを心掛けることを意識することで何とか形にはなっている気がする。

 そうこうしているうちに夜になったので、一旦街に戻り適当な宿で休息を取ることにした。朝になったらさらに鍛錬を積むとしよう。

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