第45話


「とりあえずさ各個人の能力の確認をしとこうか」



 新天地のベスタ街道初の戦闘を何とか切り抜けた俺たちだったが、肝心な事をし忘れていたことに今更気付いた。

 それは“各個人ができることの確認”というパーティープレイには必要不可欠なものだ。

 パーティにおける戦闘において基本的に前衛と後衛の二つのポジションが存在する。



 前衛は敵の攻撃を真っ向から受け止めたり、敵と直接対峙して戦うポジションで主に近接戦闘を得意とする者が適任だ。

 一方後衛は味方の能力を向上させたり、敵の能力を低下させたりするサポートや敵の攻撃が前衛に届かないように妨害したり、魔法や遠距離での攻撃が可能な武器で牽制したりなどの後方支援が主な仕事で遠距離戦闘が得意な者が適任のポジションだ。



「俺は見ての通り剣で戦うから前衛向きだな。ああ、それから具体的な職業は言わなくていいからな」


「ジューゴさん、どうして言わなくてもいいんですか?」


「ああそれはな……」



 答えは至ってシンプルだ。

 こういうオンラインゲームにおいて情報というのはできるだけ表に出さないというのが基本的なプレイスタイルだ。

 特にプレイヤーの個人情報取り分け就いている職業や能力に関しては他のプレイヤーに知られない方がいいという傾向がある。



 このFAOではPK俗に言うプレイヤーキルというものは禁止されているためある程度の情報の開示は問題にはならないが、もしこのFAOがPKもありのゲームだったら自分の能力を知られることはそのまま致命傷となりかねない。



 こういう能力を持っていているからその能力に有利な相手をぶつけてしまえば、ローリスクで相手を倒せてしまう。

 だが相手の能力が未知数であった場合能力の優劣で戦う事ができないためそれだけでPKの成功率は全然違ってくるだろう。

 つまり相手に自分の能力を教えるという行為は自分で自分の首を絞めかねない結果を招く危険性があるのだ。



「だからそのリスクを回避する意味でも全ての職業を言う必要はないってことさ。今回の場合臨時のパーティーなんだから余計に相手に教える必要はないと思う。それにFAOにはPKはないけど、プレイヤー同士で戦うPvPはあるからね。今後PvPを使ったイベントとかも出てくると思うから幾ら仲のいい人同士でも大事な情報は教えておかないに越したことはないと思うよ」


「なるほど、確かに自分の弱点をわざわざ人に教える馬鹿な真似はする必要はないな」


「そうだったんですね。勉強になります」


「どうでもいいけど、お腹すいちゃったな」


「「「……」」」



 アカネがお腹をさすりながら空気を読まない発言をしたため俺とカエデさんとミーコちゃんの三人で頭をはたいておいた。

 そんなやり取りがあったが、結局のところ俺とアカネが前衛、ミーコちゃんが後衛、そしてカエデさんが前衛よりの後衛というポジションで運用していくということになった。



 再びモンスターの群れが現れたため戦いを開始する。

 がその前に――。



「おい、おっぱいオバケ」


「だから、あたしはおっぱいオバケじゃないって言ってんだろう!」


「いいから聞け。とりあえずお前は前にあまり突っ込むな、俺と一緒にモンスターの攻撃を捌くんだ。わかったな?」


「はいはい、わかったわかった。わかったからもうおっぱいオバケと呼ぶんじゃない」


「だったら整形とかでその無駄にデカいおっぱいを萎ませることだな。そんときは【ちっぱいアカネ】と呼んでやろう。どうだ、嬉しいだろ?」


「嬉しくねええええええええ!!」


「二人とも喋ってないで戦闘準備を」


「わたしもジューゴさんにあだ名で呼ばれたいです……」



 俺がアカネと漫才を展開している間にモンスターが接近してきた。

 いつになく声を荒らげるカエデさんとごにょごにょと何か呟くミーコちゃんという対照的な二人の声に我に返った俺はすぐに戦闘態勢を取る。

 今回の敵のラインナップはベスタスライム三匹にベスタラビット二羽、そしてベスタアントイーター二匹という前回と比べて数が少ないが、今後のパーティーの連携を確認する意味でもちょうどいい数と言えるだろう。



「いくぞおっぱい。俺の言ったことちゃんと守れよ」


「オバケはどこに行ったオバケは!?」


「アカネうるさい、戦闘に集中するんだ!」


「アカネさん静かに戦ってください! 支援魔法発動【レッサープロテクション】!」



 先行してくるラビットの懐に潜り込み、そのまま下から上に突き上げるが如く俺が切り上げるのとほとんど同時にミーコちゃんの支援魔法【レッサープロテクション】が発動する。

 全員の体が靄のような薄い膜に覆われ、物理攻撃に対する防御力が向上する。

 カエデさんはカエデさんで投擲技術を持っているらしく、所持していた手投げナイフをアントイーターに投げ牽制役として大いに役立っていた。



 一方俺の相方と言うべきアカネはと言えば……。



「はああああああああ」


「……」



 猪突猛進とはまさにこのこと、俺の忠告などお構いなしにただただ突っ込み剣をやたらめったらに振り回すいわゆる無双プレイを楽しんでいた。

 確かに現状それほど強いモンスターは滅多に出てこないため無双プレイをしても問題なく単独で撃破できるだろう。だが俺が言ってんのはそういう事じゃねえんだよな……。



 今のモンスターのレベルなら一人で突っ込んで無双すれば勝つことはさほど難しくはない、だがしかし一人で突っ込んでもどうにもならない敵というのはこの先必ず現れるものなのだ。

 その時のために今のうちからパーティーで連携して倒すということが何よりも大事になってくる。

 言うなれば野球やサッカーなどの団体で行うスポーツと同じだ。



 一人が頑張ったところでどうにもならない状況も二人、三人、四人と協力すれば活路を見出すことも不可能ではないのだ。

 口で言ってもわからないのなら、いいだろう“その身体”に刻み付けてくれるわ……。

 肩で息を切らしながらもほとんど一人でモンスターを倒してしまったアカネ。



「や、やったー! 倒したぞー!」


「こぉぉの、馬鹿野郎がああああああ!!」



 手に握った剣を高々と天に上げ勝鬨を上げる馬鹿の背後に周り両の手の握りこぶしを彼女の側頭部に宛がうと俺はそのままそれをぐりぐりと回転させた。



「ぎゃあああああ、いだい、いだだだだ! ちょジュ、ジューゴ、や、やめ――」


「問答無用!!」



 がっちりとホールドされた両の拳に回転運動が加わり、それと同時に側頭部にめり込ませるように力を入れているため想像以上の激痛が彼女を襲った。

 痛いのは重々承知だ。だからこそ俺はここで手を抜くつもりは毛頭ない。人の忠告を無視しあまつさえ自らの欲望を満たすために身勝手な行動をした人間がどんな目に会うのかその体、いや“その身体”にたっぷりと刻み付けてくれるわ。



「うわー、す、すごく……痛そうです」


「まあ元はと言えばアカネがジューゴ君の忠告を聞かなかったことが発端だし。これは親友の私でも弁明の余地はないね」


「で、でもちょっと羨ましいかも……」


「うん? ミーコちゃん何か言ったかい?」


「い、いえ別に何も言ってないですよ?」


「そうかい、それならいいが……」


「ふっ二人とも、み、見てない、ないで、たたたタスケロ~~~」



 その後数分間に渡って意味合いの違う鉄拳制裁をお見舞いし、頃合いを見計らって手を離してやった。

 俺の手から離れたアカネは糸の切れた人形のようにそのまま地面に倒れるとピクリとも動かなくなってしまった。

 だが彼女の両手は側頭部を押さえているので死んではいない。というよりもプレイヤーである俺の攻撃ではそもそもダメージを受けない。



「ふん、今日はこれくらいで勘弁してやるが。次やったらもっと痛いことをしてやるからな」



 その後アカネが復活するまで待って再びパーティープレイを再開した。

 流石にあれだけ痛めつければどんな馬鹿でも理解するようで、その後の戦闘でアカネが前に出ることはなかった。

 それから一時間ほどモンスターと戦闘をこなしパーティーの連携もなかなか様になってきたところだったが、カエデさんがリアルの方で用事があるとの事なのでそのまま別れることとなった。



「おい、おっぱいオバケ」


「ひゃ、ひゃい!」


「プフッ、アカネさんびっくりしすぎですよー」


「ジューゴ君の調きょ……もとい、教育が効いたようだね」



 あー聞こえない聞こえない。調教? ナニソレ美味しいの?

 カエデさんが聞き捨てならないことを口走ったがここは敢えてスルーして話の続きをすることにした。



「いいか、パーティーで連携して倒すことに慣れておかなければいずれ強敵が出くわした時に躓くことになる。そのためにも今後二人との連携をちゃんとやっておくんだぞ。じゃないといつか二人に迷惑かけることになるだろうからな。わかったな?」


「わ、わかった。二人と連携の練習する……」


「よし、いい子だ」



 まるで借りてきた猫のように小さく縮こまった姿がなんとも愛くるしかったため、ついつい小動物を愛でるようにアカネの頭を撫で回してしまった。

 何をされたのか一瞬理解できなかったようだが、俺に頭を撫でられたことを理解した瞬間“ボッ”という効果音が付く勢いで顔を真っ赤に染め上げた。

 他の二人の何とも言えない視線が突き刺さり、居たたまれなくなった俺は半ば強引に別れの挨拶を言い放つと逃げるようにその場を後にした。



 おそらく他の三人はこのまま次の拠点である【ドゥーエチッタ】に向かうはずなので俺は来た道をそのまま引き返す形で始まりの街へと帰還することにした。

 今回でなくとも拠点は逃げたりしないので、また今度の折を見てドゥーエチッタに向かうとしよう。

 そのままできるだけモンスターと戦い戦闘経験を積んだことで始まりの街まで帰還する頃には【剣士】のレベルが28になり【盗賊】のレベルは22にまで上がっていた。



 相応のレベル上昇はあったもののまだまだ戦力的には厳しいものがあると判断し、精進していこうと思う。

 今日はそのまま宿に直行しログアウトした。次回は先延ばしにしていた鋼合金を使った剣の作成に挑戦してみるとしますかね。





 


   ※今回の活動によるステータスの変化



 【プレイヤー名】ジューゴ・フォレスト



 【取得職業】


 【剣士レベル28】

 

  パラメーター上昇率 体力+174、力+115、物理防御+112、俊敏性+60、命中+50




 【鍛冶職人レベル25】


  パラメーター上昇率 体力+155、魔力+48、力+92、命中+25、賢さ+26、精神力+64、運+6




 【料理人レベル29】


  パラメーター上昇率 体力+149、魔力+91、力+64、命中+52、精神力+54




 【盗賊レベル22】


  パラメーター上昇率 体力+100、魔力+50、物理防御+58、俊敏性+106、命中+80、賢さ+49


        


 【各パラメーター】            【補正後(10%)】

 HP (体力)   630 → 666      → 733

 MP (魔力)   247 → 259     → 285

 STR (力)    265 → 281(+30) → 309(+30)

 VIT (物理防御) 155 → 182(+56) → 200(+56)

 AGI (俊敏性)  147 → 175(+15) → 193(+15)

 DEX (命中)   190 → 215(+16) → 237(+16)

 INT (賢さ)    73 → 85       → 94

 MND (精神力) 128            → 141

 LUK (運)     26            → 29


 



 スキル:時間短縮、鍛冶の心得、十文字斬り、身体能力向上、縮地、気配感知、隠密、盗賊の心得



 称号:勇ましき者 

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