第44話


 街へと帰還した俺は各露店を回り足りなかった資材を補充していく。これでしばらくは大丈夫だと思うので、次に冒険者ギルドに向かう事にする。

 西の丘で入手した野草を鑑定&売却してわずかではあるがお金を手に入れる。久々にコレリアンナさんと雑談し良きところでギルドを後にする。



 次に工房へと行き挨拶もそこそこに給仕室へと直行する。

 早速手に入れた食材をふんだんに使用し、フリーマーケットに出品する料理を爆産する。

 さすがに料理人のレベルが高くなってきたこともあって、これだけ大量に生産してもレベルの方は上がらなかった。

 おにぎり、ハーブステーキ、クッキー、目玉焼き丼をそれぞれ生産し、出品したあと給仕室を片付け工房に戻る。



 親方にガッツさんに依頼した防具は届いているか確認したところ「まだしばらく時間が掛かるって言ってたな」という答えだったので、そのまま工房を後にした。

 現在の現実世界の時刻は夕方の四時くらいを回ったところで時間的にはまだ余裕がある。

 それならばと街に帰る途中で考えていた飽和状態になっている【剣士】のレベルを上げるために次の街まで遠征しに行くプランを実行に移すことにした。



 現在FAOにおいて最前線攻略組の進捗状況は俺が今拠点としている【始まりの街】の次の次の街まで到達している。

 今回初となるイベント【冒険者たちの武闘会】があるため始まりの街に戻ってきているプレイヤーも少なくない。

 とりあえず次の街である【ドゥーエチッタ】を目指す形で道中のモンスターと戦闘を重ねながら【剣士】と【盗賊】のレベルを上げる方向で行こうと思う。



 俺がそんなことを考えながら街の出入り口まで向かっていると後ろから俺を呼び止める声が掛かる。



「やあ、久しぶりだね。元気だったかい?」


「うん?」



 振り返るとそこには見知った顔の三人組がいた。

 カエデさんとおっぱいオバケことアカネ、それに中学生のミーコちゃんだったかな。その三人組だった。



「ああ、カエデさんにミーコちゃん久しぶりだね、あとおっぱいオバケも元気そうだな」


「あたしはついでかよ!」


「あはははは、アカネさんってホントに【おっぱいオバケ】って呼ばれてるんですね」


「おのれー笑ったなパイ子ぉぉぉ!」


「まったく相変わらず騒々しい奴だ。こんなのと一緒にいたらうるさくて仕方がないな」


「ははっ、もう慣れっこさ。ところでジューゴ君これからどこに行くんだい?」


「ああ、実はな……」



 俺が職業レベルを上げるため次の街まで遠征に行くことを伝えると「是非とも同行させてくれないか?」という流れになってしまった。

 俺個人としては自分のペースで進めていきたいのでパーティープレイはあまり好まないのだが、かと言っていずれ一人では敵わない状況や場合によっては強制的にパーティープレイを強いてくるダンジョンも今後登場することを考えれば、今のうちにパーティープレイでの経験を積んでおくのも悪い事ではないだろう。



「わかった、よろしく頼む」


「へへん、そうこなくちゃな!」


「よろしくお願いしますジューゴさん」


「こっちの準備は出来てるからこのまま出発しよう」



 こうして臨時ではあるもののかしましい三人組と一人の男の珍道中が始まるのであった。

 





 ……という言葉で締めくくったものはいいものの、いざ他の人と連携を組んで戦うという事がどれだけ難しいものなのか俺はこの時痛感する。



「はあ、やあ、とおー」


「ああ、アカネさんそんなに突っ込んじゃだめですよ。一人でヘイトを集めないでもっと他の人にも攻撃を譲ってください」


「なにやっとんじゃお前は! お前一人にモンスターが全員攻撃集中させてんじゃねえか!!」


「アカネ、ここは一旦私たちに任せて下がるんだ」


「大丈夫、大丈夫全部あたしに任せなって!」



 現在俺たちブレーメンの音楽隊はオラクタリア大草原の東を進みドゥーエチッタの街へと続く街道である【ベスタ街道】を進んでいた。

 ちなみに以前にも説明したが地理的に始まりの街を背にした状態で西に進むと【ベルデの森】に行き着き、北に進むと以前カエデさんとアカネと俺の三人で行った【鉱山】に行き着く。

 そして、今回は俺たちにとって未踏の場所である大草原の東へ進むと次の拠点となるドゥーエチッタの街へと到着する。



 現在俺たちはその次の街に繋がる街道を縄張りとするモンスターと一戦を交えていた。

 場所的には開けた場所でモンスターが接近すれば【気配感知】を使用しなくてもすぐわかるのだが、いかんせん数が多かった。

 今戦っている敵のラインナップはベスタスライムが四匹にベスタラビットと呼ばれるウサギのモンスターが五羽、それにベスタアントイーターが3匹という構成だった。



 戦ってしばらくして感じたモンスターの印象は、スライムとラビットはパワーというよりもスピードで翻弄してくるタイプのようなので一匹ずつ仕留めれば問題ない。

 だがアントイーターというぱっと見完全にアリクイのモンスターは、スピード自体大したことはなさそうなのだが、両手にあるかぎ爪は当たればかなりのダメージを受けてしまうだろう。



 数自体はかなり多いものの冷静に対処すれば捌ききれるというのが俺の感想だったがその予測はとある馬鹿の突進によって完全に破綻する羽目になる。



「オラオラオラオラオラーーー」


「だからいい加減にしろよおっぱいオバケ! 一人で突っ込むなって言ってんだろうがー!」


「そうですよアカネさん、一旦下がってください。全モンスターのヘイトがアカネさんに向いちゃってます!」


「こうなったら仕方ない、ジューゴ君一気に片を付ける手伝ってくれ」



 確かにこのままでは全てのモンスターの攻撃がおっぱいオバケに集中してしまい、このままだとアイツが死んでしまう。

 まあ俺個人の意見としてはアイツがどこでどう野たれ死のうが知ったことではないが、パーティープレイをやっている以上仲間の死は自分の死に直結することだってあるのだ。

 今の状況的に言えばモンスターの強さ自体オラクタリア大草原に出現するモンスターよりも少し手ごわい程度なので、仮にアイツが死んだところで一向に構わない。



 むしろ今の状況的には死んでもらって俺とカエデさんとミーコちゃんの三人で連携すれば容易く勝つことができるだろう。

 だからと言って「お前邪魔だから死んでくれ」というのも何か間違ってる気がするので口には出さんが、戦略的には正しい判断だと俺はそう思う。

 こういう周りの事を一切考えずに突っ走る奴というのはどこの世界にもいるが、実際にそういう奴を相手にすると精神的に疲れてくる。



「仕方ねえ、カエデさんは左から攻撃してくれ。俺は右から回って挟み撃ちにするから」


「わかった。いくぞスキル発動【縮地】!」


「こっちもスキル発動【縮地】!」


「わっわたしだって、【アイシクルバレット】!」



 アカネを取り囲むようにして周りを包囲するモンスターたちに左からカエデさんが、そして右から俺が突っ込む。

 俺たちがモンスターを捉える射程圏に入る直前、ミーコちゃんが唱えた魔法がモンスターたちに襲い掛かる。

 無数の氷でできた弾丸がモンスターたちの足元に降り注ぐと氷の塊となって動きを封じる。



 モンスターが氷で動けなくなったのと俺とカエデさんの攻撃が届く距離まで接近できたのとはほぼ同時で、左右から瞬く間にモンスターたちを屠っていった。

 ちなみにこの時アカネはどうしていたのかと言えば、ミーコちゃんの放った魔法の余波でモンスターたちと同じように氷漬けになっていた。

 ミーコちゃんとしては狙ってやった事ではないだろうが、結果的にはアカネが動かないほうがよかったのでグッジョブである。



 兎にも角にもアカネが一人で突っ走ったことによって戦況が悪かったが、俺たち三人がそれぞれ協力したお陰で見事にモンスターを撃退することができた。

 余談だが、この後アカネが俺たち三人にこってりと絞られたのは言うまでもない事だ。

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