第24話
状況を整理しよう。まず確実なのが俺は死んだ。
なにせログにこういうメッセージが表示されていたからだ。それがこれ。
『ジューゴ・フォレストはクエックに殺された』
Oh……なんかさ、ゲームの世界とはいえ自分が殺されたとか言われているのはあまりいい気分じゃないな。
まあそれはそれとしてだ。俺がどんな目にあったかは理解できた。
クエックというモンスターに止めを刺されたことはわかったのだが肝心の姿形を見ることができなかったのは残念だ。
まあそれはまた次の機会という事で他の確認をしよう。
今回の死に戻りが初めてのことなのでいろいろと確認しなきゃいけないことがいくつかある。
まずはデスペナルティ略してデスペナだ。
こういうRPG系のゲームは死んだりすると所持品の一部を失ったり、所持金が半分になってしまうなどの罰則が科せられる。
それを確認しておかないと気付いた時に貴重なアイテムを失ってましたという事になりかねない。
俺は所持品と所持金を死に戻る前と比べてみたが記憶が間違っていなければこれと言った変化はなかった。
オラクタリアピッグの肉を所持していることからどうやら死に戻る直前に手に入れたアイテムは持って逝けるようだ。
ちなみに“行ける”ではなく“逝ける”だ。誤字ではないことを言っておく。
となれば一体どんなペナルティを食らっているのだろうか?
流石にデスペナなしということはないので俺の見えていない部分が変わっている可能性が高い。
そう思いながら最後にステータスをチェックしているとようやくデスペナの影響に気付く。
職業レベルが軒並み1段階下がっているではないか。これは痛い罰則だ。
つまり剣士と料理人のレベルが4に鍛冶職人は16にダウンしていた。
不幸中の幸いだったのが、レベルダウンによるスキルの忘却はなかったのでほっと胸を撫でおろす。
とりあえずFAOのデスペナが職業レベルのダウンだとわかったが、内容の把握はまだ不完全だ。
というのも現在のデスペナの影響であろう職業レベルのダウンは1だがこれが高レベルになればなるほどダウン率が上昇する可能性がある。
今はレベル1のダウンが確認されているがこれはレベル1という固定のダウンなのかそれとも現在のレベルから計算されたダウン率が適応されているのかわからないからだ。
具体的には死んだらレベルが1下がるという内容と死んだらレベル×○○%の数値がダウンするでは全く違うのだ。
まあ考えたところで答えが出なかったのでデスペナのレベルダウンのシステムに関しては一旦頭の隅に置くことにした。
そうだ、要は死ななければいいだけだ。死なずに生きていればデスペナも糞もないのだから。
デスペナによる影響を確認したところで俺は一旦工房へと戻ることにした。
工房に戻ると親方が俺に話しかけてきた。
「よう兄ちゃん、ちょっといいか?」
「何かありましたか?」
「実はな、お前さんの作ったこの鉄の剣の事なんだが……」
俺が最終的に作った剣の本数は【卓越した鉄の剣】を含めて九本だ。
一本は今装備しているので重ねて置いてある剣の束数は八本となる。
「ここに置いておいても邪魔になるだけだし、俺んとこで処分しても構わないか?」
「処分ですか、ちょっと待ってください」
俺は改めて自分が作った剣を確認する。
攻撃力が平均すると23あり今は見れないがおそらく耐久値も高いはずだ。
俺は八本の鉄の剣のうち唯一俊敏性+1が付与されている剣を取りそれを予備の武器として取っておくことにする。
残りの七本に関しては攻撃力だけの上昇しかないので元の鉄に溶かしても問題はないだろう。
「ではこの七本の処分を任せてもいいですか?」
「わかったこっちの方で処分しとくから任しとけ」
その後俺は失ったレベルを取り戻すべく親方と一緒に鉄を打ち、給仕室で親方たちに振舞った分のハーブステーキとおにぎりを補充することでデスペナを受ける前のレベルに戻した。
剣士に関しては鉄の剣をひたすら素振りしてれば元に戻らないかなと思ってやってみたところどうやら思惑通りに事が運び本日のログイン時間を目一杯使ってデスペナを受ける前のレベルにまで戻した。
その後いつもの宿でログアウトし今日の活動はこれまでとした。
新天地でドキドキわくわくの展開だったがいきなり出鼻を挫かれてしまった気分だ。
次はもっと準備を整えてから再挑戦したいものだ。
初めての死に戻りを経験してリアルの世界で三日が経過した。
その間に俺がやっていたことと言えばひたすら【レベル上げ】だった。
RPGではお決まりのパターンだが、今の自分の実力で倒せない敵が現れた場合ひたすらそいつを倒せるようになるまでレベルを上げる作業をする。
それはこのFAOの世界でも同じことなので俺はこの三日間ある工程を繰り返していた。
箇条書きで表すとこうなる。
1:オラクタリア大草原でモンスター狩り。
2:西の丘で薬草採集。
3:手に入れた素材を必要分を残してギルドに売却。
4:工房に赴き、トンテンカン。
5:給仕室でハーブステーキとおにぎりの大量生産。
以上の工程を火水木曜日のログインで毎日行い、全体的な職業レベル向上を図った。
そのお陰もあって剣士はレベル9に料理人はレベル11となり鍛冶職人は元々レベルが高かったこともあってかレベル19に留まった。
いずれにせよあの時とは比べものにならない程レベルが向上し全体的なステータスも上がった。
鍛冶職人は相変わらず耐久値が見れないがな……。
モンスター狩りと薬草採集で手に入れた素材をギルドで売却したが稼ぎが少なくせいぜい数千ウェンというところだ。
毎回素材を鑑定に出すたびに何故かギルド職員の視線が俺に集中していたが、気にしたら負けだと自分に言い聞かせそこは耐えた。
工房では親方に最初に教えてもらった鉄をただハンマーで打ち続ける作業やたまに親方の手伝いで一緒に打ったりした。
親方に防具も作ってみたらどうだと言われたが鍛冶職人の職にしか就いていない俺では鉄や銅のみを使った重鎧しか作成できないため断念していた。
動き易さを重視した軽装系の装備作成にも挑戦したいがそのためには木工職人と革職人が必要となってくる。
早く就ける職業の枠が増えて欲しいところだ。
料理に関しては新しい料理にチャレンジするかとも思ったがあれこれ手を出すよりも一つのものを極めることを重視した。
その結果ハーブステーキが約200枚、おにぎりが約600個ほど爆産されてしまった。
えっ?作り過ぎだって? だってしょうがないじゃないか料理人だもの。
幸いなことに収納空間では食べ物などのアイテム劣化は起こらないのでそれは非常に助かっている。
最後になったが水曜日に緊急アップデートの告知が公式サイトで発表された。
内容はサーバーを軽くするためのちょっとしたメンテナンスと不具合の修正を行うという内容だった。
どうやら俺がGMに送ったメッセージ内容の製作者の非公開設定がなかったのもどうやらバグだったようで元々非公開設定が実装されていたが不具合により設定欄が抜けてしまっていたようだ。
(まさか俺が送ったメッセージで気付いたとかじゃないよな運営さん?)
タイミング的に被るところがあったのでまさかとは思ったが、まさかね……ははは。
そして、木曜日の午前零時から午前九時という長期メンテナンスが行われた。
現在金曜日なのでメンテナンスは終了し、いくつかの不具合の改善とサーバーの軽減化が完了したようだ。
ちなみに非公開設定以外の不具合と言えば倒したモンスターから素材を入手する前にモンスターが消失してしまう不具合やある特定の時間帯になると背景などの読み込みで中途半端な部分があるなどだったが俺が確認したのは非公開設定だけだったのでそんなにバグがあったのかよと思ってしまった。
まあ配信されたばかりのオンラインゲームは最初は不具合とそれを修正するためのメンテナンスの嵐とか聞いたことがあるけどこのFAOにおいてもそれは例外ではないらしいな。
とはいえ俺が危惧していた製作者の非公開設定ができるようになったことは僥倖(ぎょうこう)だった。
俺はいつものようにログインすると工房に向かう。
だがそこにはいつもと違う光景が広がっていた。
「ここにいるんだろ? 隠れてないで出て来いよ」
「頼む、俺の剣を作って欲しいんだ」
「使ってた愛刀が折れちまったんだ。そいつに修理を頼みたいのだが」
なんだなんだ、この人ごみは一体どうした?
いつもならトンテンカンという鉄を叩く音と熱気で支配されているはずの工房が人ごみと喧騒でごった返していた。
何事かと思い近くにいた人に聞こうと思って声を掛けようとした時聞き覚えのある声がした。
「兄ちゃん兄ちゃん、ちょ、ちょっとこっちに来てくれ!!」
「親方?」
人ごみの中心にいたのは親方だった。
ぴょんぴょんと飛び跳ねながらこっちに向かって手を振る姿はちょっと可愛らしいと思ったがその感情を黙殺し人ごみをかき分けながら親方の元へと駆け寄る。
「この騒ぎは一体なんです?」
「それがな――」
「アンタがジューゴ・フォレストか?」
親方の言葉を遮って問いかけてきたのはプレイヤーの一人だった。
何か嫌な予感がしたが、状況的には嘘を言ってもすぐにバレるため素直に頷く。
「そうだが、これは一体何の騒ぎだ?」
「頼む、アンタに剣を作ってもらいたいんだ!」
「話が見えないんだが?」
「この剣アンタが作ったんだろ?」
そう言うとプレイヤーの男は一本の剣を差し出す。
よく見ればそれは三日前に俺が親方に処分を依頼したはずの剣だった。
なんでこれがここにあるのか親方に尋ねたところ……。
「実はこの工房の裏手が装備屋や道具屋が店を構えてんだが、兄ちゃんが作った剣を売りに出したところ瞬く間に完売してな。買う事が出来なかった連中がここに押し寄せてきたっつう訳だ」
「でも親方この剣処分するとか言ってませんでしたか?」
「おう、だから店で売って処分をな」
「処分って鉄に戻すって意味じゃなかったんですか!?」
どうやら俺と親方の中で処分という言葉に齟齬(そご)があったようだ。
俺はてっきり鉄に戻して再利用するとばかり思っていたが、親方は店で販売するつもりだったらしい。
とにかく状況はかなり不味い。
「話の最中で悪いけどよ依頼したい事があるんだが?」
「頼む新しい剣を俺に……」
「金はそっちの言い値でいい是非作ってくれ」
なぜこんなことになってしまったのだ。
ただの試作品で作っただけの剣がどうしてここまで?
俺は疑問に思いどうやって俺の居場所を突き止めたのかプレイヤーたちに聞いてみた。
すると口を揃えてとある掲示板から知ったらしい。
「掲示板? どこのスレッドだ?」
「これだよこれ」
今詰めかけている人たちには申し訳ないが、どうしてこんなことになっているのか事情を知る必要がある。
俺はそれを確認するためにとある掲示板のスレッドを開いた。
※今回の活動によるステータスの変化
【プレイヤー名】ジューゴ・フォレスト
【取得職業】
【剣士レベル9】 パラメーター上昇率 体力+65、力+39、物理防御+35、俊敏性+21、命中+19
【鍛冶職人レベル19】 パラメーター上昇率 体力+103、魔力+29、力+63、命中+19、賢さ+19、精神力+41、運+5
【料理人レベル11】 パラメーター上昇率 体力+66、魔力+42、力+25、命中+21、精神力+19
【各パラメーター】
HP (体力) 244 → 322
MP (魔力) 107 → 141
STR (力) 88 → 137(+25)
VIT (物理防御) 30 → 47(+21)
AGI (俊敏性) 20 → 30(+9)
DEX (命中) 41 → 67(+9)
INT (賢さ) 25 → 29
MND (精神力) 51 → 70
LUK (運) 25
スキル:時間短縮、鍛冶の心得、十文字斬り
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます