第10話



 とりあえず、敵の姿が確認できるまでその場で待機することにした。

 すると俺の膝ほどの高さまである茂みがかさこそと音を立て揺らめいた。

 モンスターの出現に俺が警戒していると茂みから飛び出す影が三つあり咄嗟に後ろに飛びのき警戒する。



「これがモンスター……なのか?」



 飛び出してきたのは、体長約五十センチから七十センチほどのピンク色の表皮を持つ四足歩行の生物でひづめを地面に擦りつけながら、こちらの出方を窺う姿はまさに猛獣のそれなのだが、愛くるしい瞳と特徴的な大きな鼻は俺たちの世界にいるあの生物なわけで――。



「豚じゃねえかよ!!」



 我ながら何と安直なツッコミだと言いたくなるがこれ以上ないほどに的確なものだったためその事についての思考を放棄することにした。それ以外にどうツッコめというのか?

 ともかくこれがプレイヤーたちが悲鳴を上げていたモンスターなのは確実だ。

 その証拠にモンスターの頭上にモンスター名で【オラクタリアピッグ】と表示されていた。



 ピッグはその名の通り【豚】で間違いはないだろうがオラクタリアとはなんだろうか?

 オラクなタリアってどういう事だ、わからん。

 いくら考えを巡らせたところで答えが出ないのであれば意味がないのでオラクタリアについては一旦保留という形で頭の隅にどかした。



「まあ、一応モンスターだから攻撃してくるんだろうけど、見た目が見た目だけにやりずらいな」



 モンスターというよりもマスコット的な見た目をしているだけに戦意を掻き立てられないがどんな相手だろうとこちらに敵意を向けてくる以上は油断は禁物というのは鉄則なわけだが、どうする。

 相手の出方を窺うにしてもこっちは一人で相手は三匹だ。一匹に集中すれば他の二匹の攻撃を捌ききれない。

 かといってこのまま睨み合っていても状況は何一つとして一転するわけもないので、とにかくこちらから攻めてみることにした。



「はあああああああ!!」



 気合の乗った声と共に対峙する三匹の小豚のうち俺から見て左側の豚を攻撃することにした。

 腰に下げた剣をまるで刀で居合抜きをする要領で抜刀する。

 すると一筋の光の線が瞬くように光ったと思った瞬間、俺が攻撃を仕掛けた豚は糸の切れた人形のようにとてんという効果音が似合う体勢で倒れ、そのまま沈黙する。



「よし、まずは一匹だ」



 最初のフィールドに生息するモンスターだけあってかなりレベルが低いようで、三対一という数的には不利な状況だが、戦闘能力の高さはどうやらこちらに軍配が上がっているようだ。

 ならばこのまま残りの二匹も畳み掛けたいところだが、仲間の一匹がやられたことに激昂した一匹が「ぶひぶひ」と鳴きながらこちらに向かって突進してきた。



「おっと、あぶねえ!」



 怒りに任せた捨て身の攻撃ほど威力の高いものはない。しかし残念ではあるが当たってあげるわけにはいかないのだよ。

 向こうは向こうで命がけの戦いに身を置いているのだろうが、こちらとて負けるわけにはいかないからな。

 俺は豚の突進を直撃する寸前で左に躱し、がら空きの側面に縦斬りで斬りつけた。

 瞬間豚の悲鳴が上がりそのまま地面にダウンする。もう二度と起き上がってはこないだろう。これで残りは一匹だ。



 迎えた最終局面、なんだかラスボスと戦っているような緊迫感があるが最後の戦いの前に一つ言っておく。これ初戦だからね?

 初めてのモンスターとのバトルでしかも相手はただの豚だ。ここから壮大なるクライマックスになることはまずないだろう。

 飛ばない豚はただの豚だって誰かが言っていたが、俺の目の前にいるのはその“飛ばない豚”なのだ。



「来るか?」


「BUHEEEEEEEEEEE!!!!!」



 雄たけびにも似た咆哮は死を覚悟した者のそれだ。いいだろう、望み通り引導を渡してやる。

 もはや小細工をろうすることもなく、ただただ真っ向勝負を仕掛けるのみ。

 お互いに距離を縮めると豚は俺の鳩尾みぞおちに向かって突進を、俺は豚を懐に向かい入れると流れるような動きで野球のバットを振り抜く要領で剣を横なぎに振り抜いた。



 お互いの体位が入れ替わり、先ほどの勢いはどこへ行ったのかと言わんばかりの静寂が辺りを支配する。

 そして、俺は大地に片膝を付き剣を支えにして何とか倒れるのを防いだ。

 一方の豚はといえば、そのまま身体を大地に横たえ動かなくなってしまった。



「はあ、はあ、勝った……のか?」



 三匹の小豚との戦闘は時間で言えば、ほんの数分間の出来事だろう。だが体感的には三十分くらいの時間が経過しているような感覚だった。それだけこの戦闘は緊迫感に満ちていたのだ。

 何はともあれ俺は初めてのモンスターとの戦闘を勝利で終わらせることに成功したのであった。

 

  

 急なモンスターの襲撃だったが、それほど強い相手ではなかったためなんとか勝つことはできた。

 体力も少しばかり消耗したがこのあとの活動に支障をきたすほどではないので問題はない。

 俺はしばらくその場に座って息を整えたあと立ち上がり今回討伐したオラクタリアピッグの死骸に近寄る。

 このFAOでは討伐したモンスターに手をかざすことにより、討伐したモンスターの素材を入手できるのだ。

 


 討伐したモンスターを横取りできないようにするためなのかどうやらこの素材を入手するという行為はモンスターを倒したプレイヤーしかその権利を与えられないようだ。だからこそ俺はしばらく地面に座り込んで息を整えていたのだ。

 早速倒したオラクタリアピッグの死骸から二十センチほどの距離まで手を近づけると豚の体が光の粒子となって霧散していく。

 そして、入手したアイテムなどの情報がウインドウで告知された。その情報がこちら。




『オラクタリアピッグの肉×3 オラクタリアピッグの皮×2を入手しました』



 

 やったー、初めての素材ゲットだぜ。

 とりあえず肉と皮という分かりやすい二つの素材を手に入れた。

 その後残りの二匹も同様に素材を入手し、合計で肉が10個と皮を7枚となった。

 当初の目的であったモンスター討伐もこれで完了でき俺としては万々歳の結果だ。



 初めてモンスターを討伐した達成感に浸っていたその時、その場に似つかわしくない音が鳴り響く。



 ピコン――。



「うん? 一体何の音だ?」

 


 まるでゲームの電子音のようなそれはこのFAOというものがゲームであるということを思い出させてくれる。

 音の発生源を探るとどうやら自分のメニューから発せられたようなのでメニュー画面を開くとウインドウが展開する。

 そして、これまた珍妙な効果音と共にあるメッセージが表示された。



『ジューゴ・フォレストの【剣士】がレベル2に上がりました』



 どうやら先ほどのオラクタリアピッグ三匹を討伐したことで剣士の職業レベルが上がったようだ。

 さらにウインドウをタッチすると詳細が記載されている。




 【剣士レベル2】


 パラメーター上昇率 体力+10、力+3、物理防御+4、俊敏性+2、命中+2



 

 というような感じで、剣士のレベルが上がったことで基本ステータスに補正が掛かるようだ。

 つまり一般的なRPGのようにキャラクター自体にレベルがありそのレベルを上げることでパラメーターが上昇するのではなく、取得した職業のレベルが上がるとその都度パラメーターに補正が掛かる数値の最大値が上がっていく仕組みのようだ。



 つまり今自分が取得している剣士、鍛冶職人、料理人、この三つの職を極めれば極めるほど、自分のステータスも強くなっていくということだ。うーん、なかなかに面白いシステムだな、こりゃ。



「よし、予定とはちょっと違ったがこれでクエストクリアだな。一旦街に戻るか」



 気が付けば太陽が地平線に沈もうとしており、辺りは茜空が広がっている。あと十分ほどすれば夜になるだろう。

 俺は今回の活動の結果に満足しながらルンルン気分で街へと戻っていくのだった。



 


 ※今日の活動によるステータスの変化



 【プレイヤー名】ジューゴ・フォレスト



 【取得職業】 剣士レベル2  鍛冶職人レベル1  料理人レベル1



 【各パラメーター】

 HP (体力)   88 → 98

 MP (魔力)   70

 STR (力)    10 → 13(+7)

 VIT (物理防御) 12 → 16(+21)

 AGI (俊敏性)   9 → 11(+9)

 DEX (命中)    8 → 10(+9) 

 INT (賢さ)   10 

 MND (精神力) 10

 LUK (運)    20


 

 スキル:なし

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