イカサマ紳士
ジュン
第1話
「あの人かっこいいわね」
「そうね」
コーヒーハウスで女性客がそう小声で話している。
「よくこのコーヒーハウスに来てるみたいよ」
「なんでわかるの?」
「あの男の人と何度か一緒になったわ」
「そう」
彼女たちの会話は続いた。
「憂いのある雰囲気よね」
「そうね」
「いつも、お一人で来てるけど連れ合いっていないのかしら?」
「……わからないわ」
「紳士って感じよね」
「なぜ、あんなに憂いがあるのかしらね」
僕は彼女たちの会話を聞いて思った。
「僕が憂いているのは君たちの勘違いのせいだ」
僕は続けて思った。
「僕は言ってみれば『イカサマ紳士』なんだ」
「僕は紳士でも何でもないんだ。ただ……」
「『イカサマ紳士』といえども、究めるとなると大変なもの」
「僕は元役者業をやってたから、演じることが『自然』なんだ。もっと言えば『演じている方が自然』だ」
不意に彼女たちが言った。
「紳士って感じがするけど」
「けどなに?」
「一人の時はどうなのかしら」
「変態に変わるとか」
「人間ってそういうものよ。誰でも」
僕は彼女たちの、その会話を聞いて、憂いの雰囲気を退けることができたのだった。
イカサマ紳士 ジュン @mizukubo
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