第22話 姉が忍者屋敷にやって来る

休日。

鈴(りん)は友だちと共に遠出して、レトロな町:翔ノ内(かけのうち)に来た。

なんでも、映画の撮影でも使われている有名な忍者屋敷があるらしい。


「着いたぞ鈴!」

友治郎が興奮気味に建物を指さす。

「でけぇ門!しかも建物全部瓦の屋根…!歴史の教科書でしか見たことねぇよ!!」

友成も外観だけですっかり虜だ。

「おい早く行こうぜ!!」

体力自慢の友我(シャトルラン152回)が駆け出す。


そう、今日のメンバーは男の子ばかり。

さしずめ鈴は忍者サーの姫だ!!

鈴はいつでも姫扱いだ!!!

「お前のねーちゃんよく許したよな」

友成が思い出したように周りを警戒しながら聞く。

「?」

しかし鈴は何のことかさっぱりだ!!!


「まさか鈴も忍者好きとはな」

「な、女子にしては分かってんじゃん」

「だって忍者かっこいい!!」

「「「だよな!!!!」」」

ここには純粋な中学3年生しかいない。

これこそ、鈴の姉:涼(りょう)がこの外出を許可した理由だろう。


チケット(学割)を購入して、4人はいざ忍者屋敷へ。

入場してすぐには武器、忍術書物、修行の解説など、忍者に関する展示コーナー。

「俺 手裏剣初めて見た…」

「いろんな流派や服装があるんだね!」

「こんな武器あんの?!」

「修行厳しすぎんだろ…」

早くも釘付けになる4人。

「おっと、そろそろ行こう!」

まとめ役の友治郎の一声で展示コーナーを後にしたのは1時間後。


次は本日の目玉、忍者体験コーナー。

それぞれ気に入った忍者の衣装を選び、後ほど着替えて集合することに。


鈴は女子更衣室に衣装を持って入る。更衣室まで和式で、壁は障子風のデザイン、床は本物の畳になっている。

そんな内装と不釣り合いなスチールロッカーに荷物を入れていると、

「失礼しまーす」

人が入って来た。

3人、しかも男性だ。

忍者服に身を包んだ彼らは鈴に近寄る。


「え、な、なんですか?」

来るはずのない人たちが迫り動揺する鈴。

「ここの忍者服は本格的でして、お一人で着るのは難しいかと」

「着物の着付けより複雑なので、我々"スタッフ"が助太刀致す、です」

「にんにん」

いかにも怪しい文句と雑な忍者アピールだか、

「そうなんですね!」

今世紀最後の清楚は疑うことを知らない!!!


「でも、ちょっと恥ずかしいです」

「いやいや!初心者が扱うと怪我をする恐れもあるので、ここは我々に任せるでござる、です」

「にんにん、はぁはぁ」

謎の理由をこじつけて鈴の着替えを手伝おうと、いや、鈴の服を脱がせようとする忍たち。

その小動物的可愛さに息も荒くなってきた。


そう、荒くなってきたのだ。


「へへ、じゃあこのクナイで服をザクザクっと」

「それかこのままこの手裏剣で服をそこの壁に刺して身動き取れなくしてやるか」

「にんにんしてきた」

3忍が鈴に手を伸ばした、その時。


グルンッ


「「?!」」


スチールロッカーの隣の壁が回転した。

反転した扉にはくノ一が一人。


「いもうとぉおおおおぉおおおおお!!!!」


そう、忍者服を着た涼(りょう)だ!!

「おねえちゃん!」

「ば、ばかな!!そこは何のカラクリも仕掛けられてないぞ?!」

更衣室にはどんでん返しも落とし穴も無い。

涼がなぜ出現したのか、忍者たちは驚きで思考が停止する。

そんな彼らをよそに、涼はとっておきを繰り出す!

「くらえ!忍法・防犯ブザー!」

ピヨョヨョヨョヨョヨョヨョヨョ!!!!


忍法でも何でも無いSOSを出すと、外から本物のスタッフが駆けつけてきて彼らはお縄。事態は収まった。


「おねえちゃん、今日もありがとう!」

簡単な事情聴取が終わり、鈴は涼に抱きつく。

「み°」

唐突に絶命する涼。

「ハッ…!そ、それじゃあ、友だちと楽しんでおいで」

心臓を再起動させ、鈴に別れを告げる。

「おねえちゃんは…?」

鈴のうるうる攻撃。それは捨てられる寸前の猫ちゃんの目。しかし鈴は絶対に捨てられることはない!!!!!!

「りりりリり鈴と友だちの仲を邪魔するつもりはないからね!うん!またお家で会おうね!待ってるよ!(早口)」

なんとか人間の言葉を発したと涼は、自分が入ってきたどんでん返しから去っていった。

「おねえちゃん…ふふっ♪」

忍者屋敷でも大好きな涼に会えて、鈴はルンルンだ。


*****************************


「やっぱテンション上がるな!!」

改めて、鈴たちはみんな忍者服に着替えて集合した。

「くそ、もうちょっと身長伸びてれば…」

「鈴、褐色とは渋いな」

「ふふふ、木や枯れ葉に紛れるでござるよ~」

「「「イカす!!!!」」」

3人は大盛り上がりだ。

一方、周りの客やスタッフは、鈴の無邪気さに心打たれていた。

そして屋根裏では…

「鈴…忍者姿もかわいいぃ……」

一匹のネズミが悶えていた。

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