第20話 姉が父と飲んでくる

「正直、子供は5人くらいほしかった」

「キモっ」

居酒屋:北の河。

涼(りょう)は父と酒を飲みに来ていた。

昼間から。


「しかし、涼くんが生まれた時点でもういいと思った。

…胸が張り裂けるほどの愛おしさを前に、2人目などありえない、と。

もし2人も天使がいたら私はどうなってしまうのだ…と」

真っ赤な顔で真面目に語る父。

涼は無視を決め込む。


「…私たちの育て方が問題だったのかもしれない。

共働きで、必要な時期に充分な愛情を与え切れていなかったのかもしれない。

こんなに愛しているのに…」

父は目を閉じて涼の幼少期を振り返る。

手のかからない子供だった。夜泣きせず、言葉を覚えるのが早く、両親の忙しさを察することができた。

反対に、あまり笑わない子供だった。

抱きしめても、褒めても、何を買っても、何を見せても。

父は、涼の聡明さに甘えて一緒にいる時間を割いていたことをずっと後悔していた。


コトン

「…別に、父さんや母さんのせいじゃないよ。こういう性格で生まれてきたってだけ」

涼は愛情を必要としてこなかった。

父を慰めるためではなく、あくまでも事実を述べたのだと主張するように杯(さかずき)を置く。


「涼くん…

…2人目はありえない、その考えを改めて母さんと2人で決めたんだ。

涼くんにきょうだいを、と。

そして、自分たちも2人まとめてたっぷり愛情を注いでいくぞ、と」

「・・・」

その言葉を聞いて、うれしくないわけはない涼。

「2人の決心は分かるけど、なぜ私のためにきょうだいをと思ったの?」

「愛のためさ。涼くんに愛を知ってもらうため。

…私たちでは愛を与えられなかったかもしれない。しかし、次に生まれてくる子どもなら、涼くんが愛を与え、そしてその子から涼くんに愛を与えてくれるかもしれない、そう考えたんだ」

「そのおかげで、私は本当の愛に気づいてしまったよ」

「ああ、私もだ」

そう、2人は気づいてしまった。


気づいてしまったのだ。


「今度こそ間違いなく3人目などありえないということを確信したよ」

「2人は本物の天使を召喚してしまったね」

「愛に気づかされた気分はどうだ?涼くん。

まあキミは10年以上かけてよーーーーーやくメロメロにされてしまったようだがね!!」

「ああ本当に!!

鈴(りん)は生まれてからずっと、ずっっっっっっと私にくっついてくれたというのに…!!!!!

"あの時"までその愛を受け取らないばかりか無下に扱ってきた自分が生きていて恥ずかしい!!!!!!」

「恥を知れ!!!!私などどうしてもパパ呼びしてほしくて今でも洗脳してるんだぞ!!!!!」

「きめぇ!!!!そして大失敗だぞその洗脳!!!」

「涼くんにもパパ呼びしてほしいぞ!!!」

「知りたくなかった!!!!!」

2人の昼は長い…ことはなく、1時間半で店を出た。

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