第19話 姉がドラッグストアにやって来る

放課後。

鈴(りん)は喉が渇いたので、学校帰りにドラッグストアに立ち寄った。

「コンビニや自販機で買うよりオトクだって、おねえちゃん言ってた♪」

近年のドラッグストアは医薬品や衛生用品の他に、食品や玩具など、まるでスーパーマーケットのように何でもそろえるようになった。

そして鈴も薬ではなく飲み物を買いに来た。


「んー…これにしよう!」

悩んだ末、"烏龍茶風緑茶的ほうじ茶(麦茶入り)"を選んだ鈴。

鈴は炭酸もコーヒーも紅茶も飲めないのだ!

そんな彼女が525 mLのブレンド茶を手に取ろうとしたとき、

「やぁねぇココ!」

「湿布も売ってないなんてどうなってるのかしらぁ??」

「?」

隣で"40℃の冷たいホットミルク(アイス)"を手に取った2人の主婦が、不満そうに話し合っているのが聞こえてきた。

「『薬局』なんて名前だけよね?」

「いいえ、今どきスーパーでもコンビニでも湿布の1つや2つはあるわよ!」

どうやらこのドラッグストアには湿布が売っていないらしい。

「ま、私たちは別に湿布欲しくないんだけどねぇ」

そう言って2人は飲料コーナーを去った。


「・・・」

先ほどの話が気になった鈴は飲み物を元に戻し、レジに向かわず店内を一周してみることにした。

すると主婦たちの言った通り、本当にこの店には湿布がなかった。

それどころか…

「漢方薬、消毒薬、ショコラCC…」

薬という薬がどこにもない。

しかし、周りの客はそのことをあまり気にしていない。

「うーん…」

確かに、今日の鈴のように薬以外が目的でこの店を利用している人が多数であろう。

それにしても、不自然なほどに薬が置いていない。


「ん~~…」

モヤモヤが晴れない鈴は、店内をもう一周して確認することにした。

「あ!」

すると、白衣を着た男が目の前を横切る。

「薬剤師さん?」

鈴はその男の後を付けた。


白衣の男は周囲を警戒しながら店の端に移動し、同じく周りを警戒していた私服の男に話しかける。

「やっぱり薬剤師さん!」

その場面を見て、薬を求める客に対して適切な薬を提供しているのだと鈴は思った。





謎の白い粉と分厚いお札のやり取りを見て。


ここは薬局ではなく『おクスリ屋さん』だったのだ!!

「あ、いらっしゃいませ!お嬢さんもクスリをお求めで?」

「ガキ、誰の紹介だ?」

白衣の男とその客に余裕で見つかる鈴。

「?」

しかし、鈴は本当に純粋な薬の売買としか思っていないのだ…!


「困りましたねぇ、"お客様"ではない方に見られてしまうとは」

「じゃあ共犯にしてやれよ!初回サービスってことで、俺のを分けてやるからよぉ…」

「??」

まだ状況を理解していない鈴をよそに、2人の男はコソコソと画策する。

「えっと、お客様!本日はお試しキャンペーンとしまして、こちらを無料で差し上げます!ご使用方法はこの筒を―――」

白衣の男は小さい袋を差し出しながら説明を始める。

その袋の中には、男に渡したものと同じ白い粉が入っていた。

「お客様は小柄ですので、まずは少量でお試しいただいて」

「あの、これってなんのお薬ですか??」

「「!?」」

2人の男は鈴の言葉に驚愕した。

「ガキ、ここまで見て聞いといてシラ切ろうってのか?!」

「あなたはもう後には引けないのですよ。大人しく薬をこの場で使うか、それとも存在を消されるか…」

「???」

圧をかける2人の男をよそに、鈴は相変わらずのマイペースだ!!!!


「さあ、はやく吸うのです」

「え」

白衣の男が鈴にストローのような筒を握らせてきた。


そう、握らせてきたのだ。


「おじさんたち、なんかクサい…」

「あ?今すぐ殺されてぇか!」

「準備は整っています。さぁ…さあ!!」

焦りがエスカレートする男たち。

壁に追い詰められてもう逃げられない鈴。

「先輩!追加分お持ちしました」

その時、白衣を着た女が両手いっぱいに白い粉を持って駆けてきた。

どうやら白衣の男の後輩らしい。

「ああ、ご苦労。しかしそんなに多くは――」


バッサァアアアア!!!!!


「な…?!」

「ごほっごほ…!!」

なんと、白衣の女は持っていた白い粉を盛大にぶちまけた…!

「な、なんてことを…!」

「てめぇ!殺す気か!こんな大量にシャブ吸ったら…!」

なぜ女がこんな奇行に走ったか、それは…

「安心しろ、小麦粉だ」

奇行に走る性を持った女・涼(りょう)だからだ…!

「おねえちゃん!」

「鈴!粉まみれになっても可愛いよ…!!!!」

そしてたった今 妙な性癖にも目覚めた!!

「ふふっ、おねえちゃんも粉まみれだよ」

「はう…!」

鈴は笑いながら涼の粉を払い落とす。

自分のことより姉を真っ先に気遣うその姿に、涼は心打たれる。


「お、おめぇら…こんなことしてただで済むと思ってんのか?!」

「そうです!この騒ぎ、周りの一般客も黙っていないはず…!」

2人は真っ白な状態で涼にかみつく。

「当たり前だ!!!!!」

涼の無駄な大声は、確かに無駄だが虚勢ではない。

「あのー…そろそろよろしいですか?」

「あぁ?」

「碁点(ごてん)警察署です」

「…へ?」

薬物犯罪が発覚したため、涼はシンプルに警察を呼んでいた。

ドラッグストア全体は完全に包囲されている。

「前々から怪しいと思っていたこの店にようやく踏み込むことができました。通報に感謝いたします」

「いえ、とんでもない」

「では」

「はい、ではこれで」

「ご同行願います」

「…ん?」


通報したところまではいいが、粉、粉、そして粉にあふれたこの状況。

「いやこれは小麦粉で…ちょっとした演出を…」

「みんなそう言うんですよ」

「そんな…!」

「取り調べと検査を受けてくださいね」

涼、初めての失敗である。


しかし、

「おねえちゃん、帰ったら一緒にお風呂入ろうねっ!」

「?!?!」

これはこれで大成功であった。

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