第13話 姉が掃除の時間にやって来る

碁点(ごてん)中学校、掃除の時間。

鈴(りん)たち3年1組の掃除班6名は、職員室の掃除をしていた。


「はーあ~」

1人の生徒がため息をつく。

他の生徒も憂鬱そうな表情のまま、モップ掛けやゴミ回収を行っている。


みんなが感じていることは一緒だ。

教室や体育館など、自分たちが普段使っている場所を掃除することには意義を感じる。

しかし、自分たちが日ごろ使っているわけでもない職員室を生徒が掃除しなければならないということに疑問と不満を感じているのだ。


「~♪」

一方、鈴は楽しそうにぞうきんを絞っている。

「鈴ちゃんはいい子だね…」

友人のフレン子が、そんな鈴の姿を見てつぶやく。

しかし、鈴は"いい子"だからこのような態度で職員室を掃除しているわけではない。

「~♪」

鈴は何も考えていないだけだ!


「あの、掃除したいんですけど…」

同じ掃除班の友希が、机の上に足を乗せてスマホをいじっている教員に声をかけた。

あの消極的な友希が勇気を振り絞って、自分より年も立場も上の教員に声をかけたのだ。

しかし、その教員は無線のイヤホンをしているため、友希の小さな声は届いていない。


「~♪、友希くん、どうしたの?」

「あ、鈴ちゃん」

職員用の机を水拭きして回っていた鈴が友希の近くまでたどり着いた。

「あの、その、先生が…」

友希があわてながら状況を説明する。

しかし、何も考えていなかった鈴は、

「そっかそっか~」

その説明を聞き?ながら、その教員の机を水拭きし始めた。

「…ん?冷た!!!!!」

教員はずぶ濡れにされた足を机の上から降ろした。

それと同時に、椅子から転げ落ちてしまった。


「痛た…ちょっとキミ!何をするんだ!」

教員は鈴に問いただす。

「えっと、机を拭いてて…」

「私の足が見えなかったのか?!だいたい…そのぞうきん水含ませすぎだろ!!!」

鈴はバスケ部で、握力や腕力はある。

しかし、ぞうきんの絞り方が抜群に下手くそだ!!!!


そしてこの教員は鈴に突っ込みを入れた。

そう、突っ込みを入れたのだ。


「教師に嫌がらせか?え?」

「えっとぉ…」

高圧的な教員に、鈴も友希も言い返せずに下を向いていた。

その時、


っバァアアアアアアアアアアン!

掃除用具入れが、内側から勢いよく開けられた。

「いもうとぉおおおおぉおおおおおおおっ!!!!!!!!」

そして、その中から人も勢いよく飛び出てきた。

もちろんそれは、

「おねえちゃん!」

鈴の姉:涼(りょう)だ。


「な、え、あ…なんだキミぃ!?」

その教員は突然のことに戸惑いながらも、涼に向かって問いただした。

「お前こそ誰だよ!!うちのかわいいかわいいかわいいかわいい鈴にむかって体罰を!!!」

「いや体罰はしてねぇよ?!」

今日も涼は他人と会話できなさそうだ。

「というかキミ、この生徒の姉なのか?」

「だったら何か?」

「じゃあこの学校の卒業生だな?・・・はっ!

見たところ、キミは大学生ぐらいだろう。私はこの学校に10年は勤めている。その私に向かってこの無礼、姉妹そろって許されないことをしたなぁ!」

その前に不法侵入を突っ込んだほうがよさそうだが、教員は変わらず圧をかけてくる。

「うぅ・・・」

友希もおびえている。


しかし、

「お前など知らない。私はシルバー・マウンテン出身だ。」

「し、シル…?!」

そう、涼は地元の公立中学校ではなく、全国から人が集まる、あの『私立シルバー・マウンテン・スクール』という中高一貫校に通っていたのだ。

そのネームバリューの大きさに、教員は黙り込んでしまった。

「さて…鈴、お掃除頑張るんだぞっ。ぞうきんは友希くんに絞ってもらいなさいっ」

「うん!」

涼は豹変して鈴の頭を撫でた後、靴下がずぶ濡れの教員とともに放送室へと消えていった。

勤務中にスマホとイヤホンで遊んでいたこと、生徒への態度、10年勤めていて生徒の顔を覚えていないことなど、そのすべては涼にとって取るに足らないこと。

いつでも涼の優先順位の1位は鈴。2位以下など存在はしないのだ。


後日、その教員は碁点中学を去った。

そして、友希は鈴専属のぞうきん絞り係となった。

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