第10話 姉がキャンプ場にやって来る

「鈴(りん)ちゃん、お野菜洗いにいこ~」

「うん!」

今日は碁点(ごてん)中学校 第3学年の野外実習。

3年生はこの碁点キャンプ場で1泊2日のキャンプをしている。

今は班に分かれて夕飯のカレー作りに取り組んでいる。

鈴は同じ班で友だちのゆう子と野菜を洗いに水道へ向かった。


********************************


「「キャー!!」」

鈴とゆう子は叫んだ。


そう、早くも叫んだのだ。


なんと、ふたりの目の前に大蛇が現れたのだ。

それは世界最大の蛇:オオアナコンダ。

生息地はアマゾン川・・・しかし碁点キャンプ場は日本だ!

「あ・・・あぁ・・・」

実際、冗談ではない大きさだ。

長さは鈴の約5倍。太さは鈴の約…何倍だ?

オオアナコンダは長い舌をシュルシュルと出し入れしている。

まるで、ふたりを飲み込む準備をしているようだ。


「ゆう子ちゃん…」

「う、ううう」

「り、鈴がおとりになるから、逃げて」

「えぇ?!」

鈴はゆう子を逃がそうとしている。

怖さで震えているにもかかわらず、手を広げてゆう子の前に出る。

「さあ、早く!」

「でも、鈴ちゃ」

「鈴は平気!蛇さん好きだもん!」

猫好きの鈴だが、蛇は苦手だ。

「…すぐに先生呼んでくるから!!」

そのことを知らないゆう子は泣きながら走り出した。


「鈴、美味しくないよ!」

鈴はそう言いながら後ずさる。

しかし、オオアナコンダはどんどん鈴に近づいていく。

「髪の毛いっぱいあるもん!服も着てるもん!だから食べても美味しく―――」

ついに、オオアナコンダは鈴に影を乗せた。

そして、大きな口を開いて、鈴に向かって急降下…!


ザクッ


オオアナコンダの口は地面に到達して、鈴はその場から姿を消した。










姉に釣られて。

「鈴、大丈夫?」

「おねえちゃん…!」

鈴の姉:涼(りょう)は釣り上げた妹を抱きしめる。

オオアナコンダが鈴を飲み込もうとした瞬間、涼が施された釣り竿で木の上に引き上げたのだ。

その状況を理解したかのように、オオアナコンダは木の上にいる姉妹に狙いを定める。

「お、おねえちゃ!蛇さん登ってきちゃう!」

鈴は涙目で涼を見つめる。

「大丈夫だよ、鈴」

「?」

涼は鈴の頭を撫でながら微笑む。

「鈴と一緒に食べられちゃうなら、私は幸せだから」

「おねえちゃん…!」

どう考えても鈴が幸せにならないifを語っていると、周りから特殊部隊がぞろぞろと現れた。

そして、麻酔入りの食べ物を与えてオオアナコンダを眠らせた。

「蛇さん、死んじゃった…?」

「眠ってるだけだよ。さあ、引き続き野外体験を楽しんでおいで」

涼は釣竿を使って鈴と一緒に着地して別れを告げる。

「うん!おねえちゃん大好き!」

ちゅっ

「「「?!?!?!?!?!!?!!」」」

「・・・」

鈴は姉にキスした。


口に。


それを見た約30人の特殊部隊員は、驚き、歓喜し、歌い、踊り、花吹雪を降らせ、カリヨンの鐘を鳴らした。

涼はただ呆然と、キャンプ場に戻る鈴を見つめる。

今の出来事が事実なのか、それとも自分の妄想なのか、それは周りの特殊部隊の反応を見て10分後にわかった。

「鈴の、くちびる…あったかくて、やわらかかった…」

涼は鈴にキスされた瞬間を何度も反芻する。

その間、特殊部隊は結婚式場を建設していた。

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