第9話 姉の過去

「妹?嫌いだね。大嫌い」

高校3年生までの涼(りょう)は、妹の鈴(りん)のことが嫌いだった。

"3年後"の大学2年生の今からは考えられないほど、強く拒絶していた。


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鈴は、涼が小学1年生の時に生まれた。6歳差だ。

鈴が生まれてから、両親はやはり鈴のことを優先するようになった。

涼はそのことについて、特に何とも思っていなかった。


鈴は生まれてからずっと、姉の涼のことが大好きだ。

言葉を話せないときから、両親よりも涼にくっついて笑っていた。

両親はそれがほほえましく、何千万枚も写真を撮っていた。

しかし、涼はまったく嬉しくなかった。

何の力も持たない鈴が自分の近くにいることが嫌だったのだ。


涼は小さい頃から何でもできた。

成績は常にトップ。運動は男子にも負けたことがなかった。

それだけではなく、ド田舎にもかかわらず芸能関係者がスカウトに来るほどの容姿とカリスマ性まで兼ね備えていた。

周りが公立の碁点(ごてん)中学校に進む中、涼は一人だけ中学受験をした。

そして、県で最難関の中高一貫校に首席で合格。

その成績を維持し続けて、主席のまま高校を卒業した。

そう、卒業したのだ。


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涼は大学受験に失敗した。

生まれて初めての挫折だった。

教員も友人も、そして両親も、誰もが絶対に合格すると信じていた。

しかし、涼は滑り止め校ですら不合格だったのだ。


その後、涼は部屋から出てこなくなった。

誰とも話さず、ろくに眠らず、虚空を見つめる日々が続いた。

日付も時間もわからなくなって、ご飯にも手を付けなくなった頃、

ついに体が動かなくなった。


床から起き上がることができず、浅い呼吸を続けるだけ。

心身ともに消耗して、もう限界だった。

自身の死を悟り、涼は両親に謝りながら目を閉じようとした。



その時、扉が開いた。

「おねえちゃん?」

「・・・」

真新しい夏用の制服を着た鈴が部屋に入って来た。

(こいつ、中学に上がったんだっけ?小2の運動会の時から全然見てなかった)

「なんで床で寝てるのぉ?」

鈴がうつ伏せの涼に近づく。

(こんなやつにまでに見下される日が来るなんて…)

「どおしたの?動けないの?」

鈴はしゃがんで涼の顔を心配そうに見つめる。

(こいつ、こんな顔してたっけ。髪、私と同じ色だったんだ)

久しぶりに頭を動かした涼は疲れてしまい、今度こそ目を閉じようとした。

すると、

「じゃあ、りんがナデナデしてあげる!」

鈴が手を伸ばし、涼の頭を優しくなで始めた。

「よしよし。おねえちゃん偉い。おねえちゃんいい子。よくがんばったね~」

「ぁ・・・」

「いっぱい休んでいいんだよ~」

頭を撫でられたり、涙を流したり、涼は久しぶりの感覚に困惑する。

それに加えて、涼が誰からも言われたことのない言葉を、鈴は次々と投げかけてきた。

(妹…わたしの妹って…こんな…






天使だったのか)


この日を境に涼は覚醒して、トップクラスの大学に首席で合格した。

同時に、妹を中心に世界を回し始めた。


ちなみに、

涼が引きこもり始めた日から、涼の部屋には常に鍵がかかっていた。

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