第8話 姉がカラオケボックスにやって来る

休日。

鈴(りん)は女子バスケ部の友だち5人とカラオケボックスに来ていた。

実は、鈴は今日 初めてカラオケに来た。

鈴が住んでいるところは田舎だし、鈴はカラオケやゲームなど、中高生が好む遊びに興味がない。

鈴の興味は常に猫さんにあるのだ。


「いえーい!めっちゃウィークデ~~!!」

「ふー!!」

シャカシャカシャカシャカ

周りの友だちはカラオケに慣れているようで、得意げに歌ったり、それを盛り上げたりして楽しんでいる。

「あーまーえーとかぁ つーよーさぁじゃっないぃ↑↑ん」

鈴にはそれが流行りの曲なのか、それとも一昔前の曲なのかどうかもわからない。

「・・・」

ルームに入ってから、鈴は緊張しっぱなしだ。

「恋ーしーさとっせぇつーなーさとっこぉーこぉーろぉ z」

さらに、友だちの歌声を聞いて、なぜか恥ずかしい気持ちにもなった。

この後 自分の歌声が聞かれるのだと思うと、鈴はますます恥ずかしくなってしまう。


「はい!次 鈴の番!」

「え…」

友だちのゆう子が鈴にマイクを差し出す。

「鈴は何歌う?意外とアニソン??」

「あの…」

友だちのとも子がリモコンを操作する。

周りは鈴に興味津々だ。

鈴は、バスケはそこまで上手くないものの、可愛らしい容姿に加えて成績優秀で性格も温厚だ。

周りはそんな鈴の趣味が気になるのだ。

「・・・」

しかし、鈴はこの状況に困惑している。

好みの曲も、友人の前で歌う勇気も、鈴には無いのだ。

今すぐこの狭い部屋を飛び出したい。

そう思ったとき、


ガチャ


広告の音声だけが流れていたその部屋に、1人の人物が現れた。


「ざぁーんーこぉーくぅーな 悪魔のよおーにぃ~」

「おねえちゃん?!」

「しょーおーじょたちよ 逸話になーれぇえええええええええ!!!!」

涼(りょう)がアカペラで『残酷な悪魔のワルツ』を歌い始めた。

「え?!うっま!!」

「イケボぉ~//」

「マイクどうぞ!」

ズンチャッズンチャッ

気づけば周りは洋子ならぬ涼子に夢中だった。


********************************


熱唱後、涼は鈴を連れてカラオケボックスを出た。

「鈴、大丈夫?」

「うん…ありがとう、おねえちゃん」

鈴は落ち込んでいた。

みんなの前で歌えなかったこと、みんなに合わせられなかったことが、鈴にとっては泣きたくなるくらいにツラかった。

「・・・」

「いいんだよ、無理しなくて」

「?」

そんな彼女に向かって、涼はかがんで目線を合わせる。

「歌いたくなかったら歌わなくてもいい。鈴が楽しくなきゃ、周りも楽しくないよ」

「おねえちゃん…」

「大丈夫!鈴は世界一可愛いんだから!!!!!」

最後に涼の主観を唱えられたが、鈴の心は晴れたようだ。


そのまま解散となり、2人の姉妹は帰路に着く。

「おねえちゃん、やっぱりすごいね」

鈴が涼の腕に抱き着く。

「ん?」

「何でもできちゃうんだもん。さっきの歌も上手だった」

「いや、全然」

愛しの妹に抱き着かれて褒められた涼は、動揺を隠しきれず、けいれんしている。

しかし、腕に全神経を集中させて鈴の感触を味わっている。

「音楽の成績も、他のどんな科目だって、『5』以外とったことなかったもんね!」

「・・・」

自分の腕を挟んでいる2つの柔らかな膨らみ(AAAカップ)を満喫していた涼は、にわかに笑顔を消して歩き続けるのだった。

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