第5話 姉が友だちと話してて来ない
羽前(はねまえ)大学、カフェテリア。
「はぁー…」
大学2年生の涼(りょう)は、窓際の席でため息をついた。
「どうしたの?涼」
涼の前に座るのは、涼と同じ学部学科の同期生:夏(なつ)。
「どうして妹って可愛いんだろ…」
「・・・」
涼は基本的に妹の鈴(りん)のことばかり考えているので、夏はこの流れに慣れていながらも、あきれていた。
スマホのホーム画面は妹(中3)、パソコンのデスクトップ画面も妹(中1)、ノートの1ページ目にも妹(小5)、財布の中にも妹(幼児)。
涼という人間からは、語らなくともその妹愛があふれている。
しかし、大学内でその事実を知る者は意外にも夏だけ。
他の人間は、涼の所持品よりも涼自身の魅力に惹かれているため、妹愛に気づかない。
いつも行動を共にしている夏だって、最初はその整った顔と綺麗な栗色の髪を見て涼に近づいたのだ。
「本当に妹のこと好きだよね」
「え?あげないよ???????」
「言ってない」
こうやって話がかみ合わないことも多い。
「夏は妹いるんだっけ?」
涼は妹談議がしたいらしい。
「いないよ、私が妹だもん」
「え、そうだったんだ。可愛がられる側かぁ」
「可愛がられる側って…世の中の妹がみんな姉に愛されてるわけ―――」
「あるだろ」
また話がすれ違う。
「世の中の妹はみんな姉に愛されるために生まれてきたんだよ、夏」
「姉妹ってそんなもんじゃなくない?普通」
夏は自分の常識と相反する思考を持つ涼に対して会話を試みる。
夏には3つ上の姉がいる。昔は喧嘩ばかりしていたし、今は姉が社会人で一人暮らしをしているので疎遠になった。
そのこともあって、夏は、姉妹は仲良くできないものだと思っている。
しかし、本当は仲良くしたかったのかもしれない、とも思っている。
「…涼がお姉ちゃんだったらよかったのに、なんて」
夏はそう言ってコーヒーを飲む。
涼にいつでも愛されている"妹"がうらやましいのだ。
それに、夏は涼のことが―――
「なれるんじゃないかな、私の妹に」
「え?」
「私、夏より1コお姉さんだからね」
涼の妹になれるかもしれない。それは本当の妹という意味ではなく、涼に特別な愛を注いでもらえる存在という意味だ。
夏はわずかに期待してしまった。
「でも、やっぱ無理」
最終的にこう言われるのを知っていながら。
「私の妹は鈴だけだからね!」
「…このシスコン」
夏はまたコーヒーを飲んだ。
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