第3話 姉が傘を持ってくる

碁点(ごてん)中学校、放課後。

バスケ部の練習が終わり、帰ろうとしていた鈴(りん)。

しかし、外は土砂降りの雨。

「夕立かな。さっきまで晴れてたのに」

鈴は置き傘も折り畳み傘も持っていない。

「りんりんゴメン!先帰るね!」

「うん、また明日!」

友人とは帰る方向が違うので、傘に入れてもらうこともできない。

お気に入りの犬がプリントされたテレホンカードで迎えを頼もうか悩んだが、すぐに止みそうだったので、鈴は玄関の屋根の下で雨を眺めて待つことにした。


そう、待つことにしたのだ。


「?」

玄関の外に、黒猫柄の傘を差した女性が現れた。

「ぃ…と」

彼女は何か言ったが、雨の音にかき消されてしまい、鈴には伝わらなかった。

「・・・」

彼女は玄関まで入ってきて、鈴の目の前で傘をたたみ、もう一度発音する。

「妹」

「おねえちゃん!」

涼(りょう)が迎えに来たのだ。

鈴が夕立を待ってから10秒も経たないうちに。

「来てくれたの?うれしい!」

「そうだよ、鈴が雨の一滴にも触れないようにね」

涼は雨を見ながら格好つけて答える。

「おねえちゃん…大好き!」

「!?」

鈴が涼に抱き着いた。

涼は驚きと興奮で混乱したが、割といつも抱き着かれているのですぐにいつも通りに戻った。

「り、鈴…ああ、鈴…!!」

涼は抱きしめ返して、妹の存在を感じる。

「スー…ハー…スー…」

そして鈴の髪の匂いを嗅いで眼が血走る。

さらに、鈴の背中に置いていた手を下の方に移動させ始めた。

「鈴、今日もかわ―――」

「あ!雨止んだよ!」

鈴は涼から離れて外に出た。

「おねえちゃん!虹が見えるよー!」

鈴は目を輝かせて虹を見る。

涼ははしゃぐ鈴の姿に目を輝かせる。


鈴は純真で汚れを知らない。

「…あとちょっとでお尻触れたのに」

しかし、汚れた存在はかなり身近にいる。

「鈴、帰ろう。車を用意してある」

「うん!」

涼は鈴と一緒に学校を出た。


「おねえちゃん、よだれ出てるよ?」

「あ、やば」

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