『星空に託して』 全8回
やましん(テンパー)
『星空に託して』 その1
ある、内海沿いの、小高い山の上です。
わたくしは、毎日、毎晩、第一展望台から、さらに頂上に近い第二展望台にかけてを、さ迷っております。
もう、大昔のこと、わたくしは、九州の山のなかの小さな中学校から、集団就職でこの街にやって参りました。
今では、おそらく、高校卒業した方が、ごく少数、入ってくるくらいでしょうが、当時は、金の卵と言われたものです。
わたくしは、当時、交代制の定時制高校に通いましたが、いまは、公立の大学に入るようです。
だから、いくらか、お勉強ができる必要が、あるのでしょう。
わたくしは、家庭も貧しく、兄弟はたくさんあり、一人で独立する必要性がありました。
だから、お勉強は、まあ、落第しない程度で、仕事はまじめに取り組みました。
あ、仕事は、紡績の工場でした。
しかし、ある日、予想外の事故に巻き込まれ、この世から居なくなったのです。
おそらくは。
でも、わたくしは、まだ、この世に踏みとどまっておりました。
あまりに、人生の意味が、無さすぎたからです。
あれから、もう、半世紀近くは経ちますが、わたくしは、変わりません。
ただ、たいがいの人間には、見えないようなのです。
なかに、まれに、反応する方があります。
これは、同じ場所にさまよってる、もと、大学生とかいう、仲良しになったお姉さんから、きいたのですが、まあ、よくは、わからない話です。
なぜ、見える場合があるのか。
お姉さんは、ドップラー効果に似ていると言います。
人間の聴力には、また、視力には、かからないけれど、ちょっとした動きなどで、渦が発生し、その影響で、見えたり聞こえたりすることが、あるらしいのです。
まあ、まれですが、それでも、最近幽霊が出るとの噂が広まっていました。
多少、むづがゆいです。
あまり、気にはしないことにしています。
ときに、ここ、1週間ばかり、夕方に現れ、第二展望台の、屋根がある場所に座り込んでいる、謎の老人がありました。
遥か深夜を越えて、朝日が出ると、どこかに、いなくなるのです。
とくに、何かするわけでもなく、ただ、静かに、座り込んでいる。
わたくしは、たいへんに、興味深く想ったのです。
それで、その晩、おじいちゃんの隣に、座ってみました。
しかし、反応はありません。
やっぱり、見えても、聞こえてもいないようでした。
よおし、確かめてやるう。
わたくしは、おじいさんに、話しかけたのです。
・・・・・・・・・・・・・・
つづく
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