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 正直、参加などしたくはなかったが、断るとママが怒るので、「もちろん参加します」と先生には伝えた。

「そう、良かった。君は、本当は実力をもっているんだから、どこのコンクールに出たって入賞できておかしくないはずなの。今度もしっかり練習すれば、絶対間違いないはずだから、頑張っていきましょう」

 誰にでも前向きに教えてくれるこの先生のこの励ましが、この教室通う全ての生徒のモチベーションになっているという話をチラッと聞いたことがある。まだ三〇代と若いこともあり、特にシニアクラスはスケベエな気持ちをもった高齢男性たちでいつも満室だ。

 先生が持ってきた楽譜、つまり次に参加するホランド・ピアノコンクールでの課題曲は、ベートーヴェンのピアノソナタ第一七番『テンペスト』であった。


(続く)

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