4
「いやーまったく、二人が現場にいなかったらどんな被害が出ていたか」
カイ達の活躍により、今日も学園の平和は守られた。
平和あってこその研究生活だ、とマギラは鼻歌交じりに学生棟の廊下を闊歩する。その手には天才的な閃きと危険を顧みない行動力によって僅か半日で作り上げた、人を幼児化させる薬〈
二人の
ガラリ、とこれまたノックもせずマギラは保健室のドアを開けた。
「やぁやぁ、お二人とも随分なご活躍だったそうじゃないか……おや?」
保健室はしんと静まりかえっていた。
人の気配も無さそうだ……と部屋に入って探すと、奥のベッドに眠る人影を見つける。近寄るとそれはカイだった。
カイは先程の戦いで、シュウから魔素を受け取って行使したという。元々魔素を貯め込めないカイの体には、少し負荷が重かったのだろう。その反動で眠っているとするならマギラにも納得がいった。
すると、カイの被る毛布がもぞりと動く。
「……おやおやおやおや」
カイの毛布の中で、幼児のままのシュウが眠りに着いていた。
気持ちよさそうな表情で時折むにゃむにゃと口を動かし、カイの腕に額を擦りつけてもいる。
「どうやら、コレは無粋なアイテムのようだ」
マギラは解毒薬を入れた試験管に蓋をする。もう少し眺めているのも一興だろう。
「ただ、別の目的は果たさせてもらうよ……」
言葉と同時、ニヤニヤと笑みを浮かべていたマギラの表情が一気に神妙なものに変わる。
マギラは布団の端を持ち上げ、中を覗いた。
――具体的には、シュウの背中を、だ。
「ふむ、やはりこれは……」
そしてマギラの予感が正しいのならば、この先シュウ・ディンガーに待ち構える運命は、あまりにも壮大で、自分のような天才ですら介入できない、この世界の未来そのものを決定付ける真なる“運命”となる。
「神話ってのは、もっと嘘っぱちだと思ってたよ」
布団を戻し、マギラは保健室を後にする。
この研究のためには、もう少し資料を漁らねばなるまい。
「向こう二ヶ月は図書館暮らしだ――ではお二人とも、また会おう」
そして、保健室には二人だけが取り残された。
* * *
「ん、んん……」
シュウが、ゆっくりと瞼を開く。
(何だか、長い夢を見ていたような……)
眠りに着く前の記憶があやふやである。確か、マギラにいつも通り実験の手伝いに呼び出されて、喉が渇いていたからいつもマギラが用意している試験管入りジュースに手を付けて、それから……。
「記憶が無い」
よく見れば天井も男子寮の自室のものでもない。この感じは保健室か。
……一体何で保健室に?
「分からん」
何も分からなかった。
とにかく起きて状況確認をしよう。
ベッドから出るべく、シュウが上体を起こそうとする。
その時になって初めて、自分の体に布団以外の何かが乗っている感触に気が付いた。
「んだよもう……」
めんどくさいのでガバっと布団を剥がす。
「……」
隣でカイが寝ていた。
「……?」
そして、自分は素っ裸だった。
「……?」
……?
「……え、本当にどういう状況?」
─ 完 ─
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