秘めた願い
「すごい、こんな所があるんだ…」
ジェニーは目の前の大きな建物をみあげ、感嘆する。
「ここは12星座の管理者の拠点だ。俺たちを保護する為だけでなく、俺たちの力や星の祝福についての研究施設だったり、12星座が生まれる場所の予測や裁判の材料としての教育も行ってるんだ。」
「僕たち、それぞれちゃんと部屋があるんだよ〜。嬉しいよねぇ。」
リオに続き、カノンも説明する。
「…ミアは記憶が戻ってる?らしいんだけど、あたしはまだ何にも思い出せないや…その、12星座?の事とか…」
ジェニーはしゅん、と項垂れる。
「俺らだって記憶が戻るのはそれぞれなんだけど、お前ら双子座は難しいからなぁ…本当に、2人で1つの完璧な存在だから、双子の状態で生まれることもあったけど…ミアが死にかけだったり、ジェニーが病気がちだったからなぁ…」
ゾエはジェニーの頭をぽんと撫でる。
「まぁ、俺たちがいるし、お前にはミアが、そしてミアには、お前がいる。…双子座のお前たちにとって大事なのは、お互いをしっかり理解する事だから、ちゃんと話し合えよ。」
「うん!ありがとう!」
ジェニーの笑顔に、星座達はホッと息を吐く。
今までで1番心身共に健康な双子座であった事に、何より安心した。
前回は、蟹座がつきっきりじゃないといつ死んでもおかしくないくらいだったから…
「やぁ、皆おかえり。そして久しぶりだね、ジェニー、ミア。」
考え込んでいると、建物から管理者が出てきた。
「さぁさ、中に入ろう。今日は皆、とりあえず休みなさい。ジェニー、ミアは明日から教育が始まるからね。部屋に案内するよ。」
建物の中に入り、それぞれ部屋に向かおうとする。
「ゾエ、後で部屋に行ってもいいか?…話したい事がある。」
リオの言葉にゾエは頷き、解散する。
コンコン、とノックが聞こえた後、ドアが開く。
ゾエはベッドに座ったまま、リオを迎え入れる。
リオはベッドの近くの椅子に腰掛ける。
「戻った記憶は全部なのか?いつ戻ったんだ?」
ゾエはなんとなく、リオの話したい事を察していた。
「…大体、全部だ。ジェニーとミアを助けた時、力を限界まで解放した拍子に、思い出した。」
「そうか、じゃあ大体これから何をしなきゃいけないか、わかるな」
「…これまで通りなら、12星座全員を集め、記憶を取り戻し、神に裁判を行ってもらう、だよな」
リオの腑に落ちない、とでも言いたげな表情に違和感を覚えたが、まだ記憶が混濁しているのかもしれない、とゾエは気にしないでいた。
「裁判の間の記憶は、いつも通り…」
とリオが尋ねる。
「ああ、抹消されてる。裁判のその時まで、自分の何が裁判の材料になるかさえ知らない。難しいよなー」
ゾエが当たり前だと言わんばかりに答える。
「ああ、そうだな……ごめん、ありがとう。体調が悪くて…俺はもう部屋に戻るよ。わざわざごめんな」
リオの顔は少し青ざめていた。
「俺も記憶が全部戻った瞬間吐いたなー、情報過多で。まぁ管理者の言ってた通り、今日は休もうぜ。」
ゾエは部屋の外までリオを見送り、大きな欠伸をし、部屋に戻る。
リオは自分の部屋へ早足で向かっていた。
おかしい、おかしい。有り得ない。12回目の、今回が初めてだ。
なんで俺には、裁判の時の記憶があるんだ。
ついさっき、起こったかのように、強烈に、鮮明に蘇る、記憶。
赤い
とてつもなく、赤い
12星座達の血と肉で埋め尽くされた、まっさらな空間
自分の腹には大きな穴があいている。痛みさえ、もう感じない。
視界が霞んでいる。目の前がだんだん暗くなる。
「さて、また500年待たねばだな。次こそは、期待しているぞ。我が子らよ。」
凛とした声が最後に聞こえた。
「ぅっぐ…」
リオはもどしそうになるのを堪え、なんとか部屋に駆け込む。
洗面台に顔を突っ込み、水を流す。
頭から水を浴びていると、少し気分が楽になった。
裁判の時まで、戻るはずのない裁判の記憶を思い出し始めている。俺の身に何が起こっている?…そして、裁判で、何が起こった?
わからない、けど、確実に俺たちに何か起きている。
「神の仕業なのか…?俺に何をさせようとしているんだ。」
タオルで顔を拭き、髪の水分をとる。
ころん、とベッドに寝転んで考えるうちに、リオは深い眠りにおちていた。
順調だ。
滞りなく、進んでいる。
さぁ、愛しい我が子ら、人を愛せよ。
深く深く、自分を愛し、他人を愛せよ。
愛を知り、幸福を噛み締めよ
その先の、私の願いの成就の為に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます