闇の軍勢の夜明け ――無能魔王アジヌスによる混乱と災害の記録――

岡矢 射懐

序章

魔王アジヌスの台頭

惑星ルドゥムは平和な星であった。


ルドゥムでは誰もが魔法や奇跡と呼ばれる超常的力を行使することができ、地球では亜人や神話の生物などと呼ばれる空想上の生き物が当たり前のように存在している。


ルドゥムでは龍と呼ばれる種族が最も強いと呼ばれている。

普通なれば力の強いものが弱いものを淘汰して、その屍の上に繁栄を築き上げるのが種族としての本能である。

しかしながら、龍を含むルドゥムに存在するあらゆる知性ある種族はお互いに必要十分なだけ土地を確保すると、必要以上は他所に干渉しない道を選んだ。

また、土地に収まりきらないだけの数が増える兆しを見せれば子供を産む数を減らして種族数を調整した。

これは異種族間で争いが起きない理想的な世界の完成形の一つといえよう。


この不文律が守られてからおよそ1000年。

一人のエルフと呼ばれる精霊の女が世界に向けて宣戦布告した。

ルドゥムにおけるエルフとは大まかに言えば、羽根のない二本足の精霊を一括りにした言葉である。

人間基準で見れば、美麗なものから醜悪なものまで多岐にわたるが、女は前者に属する、“ダークエルフ”という名の褐色の肌を持つ人間によく似た精霊種族であった。


“魔王アジヌス”なる大げさな称号を恥ずかしげもなく掲げるこのダークエルフの女は魔法の才能に長じていた。

彼女はその魔法で、己の血液から使い魔という醜悪な生物を召還すると、それを“魔物”と名付けて傍に置いた。

そうして、毎日欠かさず魔物を増やしていった。

時折、貧血を起こして倒れる日もあったが魔物たちは己の母である彼女を甲斐甲斐しく看病し、世話を焼いた。


そして、魔物の数が億を超すようになると、彼女は“闇の軍勢”なる組織を作り、世界に宣戦布告。自らの子を尖兵として野に解き放った。

突然の見知らぬ生物の登場にルドゥムは混乱の渦に巻き込まれた。


そして、魔王アジヌスの台頭と宣戦布告から5年が経過した。

野生化して生態系の隙間を埋めるように進化していった魔物たちは誰一人の命も奪うことなく、ルドゥムの民に時折ただただ狩られるだけの存在となっていた。


世界は平和だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る